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新説『吾妻鏡』ならこの小説

 またもや私の作品ではなく、隠れファンをしている(あっ、また言っちゃった!)やまの龍様の作品のご紹介です。三谷幸喜氏の斬新な脚本による大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で鎌倉時代が脚光を浴びていますが、同時代を描いたやまの様の小説『姫の前』もすごいんです、ということを力いっぱいお伝えしたい!
 アルファポリスに投稿しておられる『姫の前』、魅力がありすぎてどこから説明しようかアワアワするんですが、最大の面白さは主人公が江間義時の妻である姫の前であり、彼女の視点から歴史の激動が語られるというところ。しかも、姫の前は鎌倉将軍を祈りで支える比企家の巫女だというから二度驚きます。この特殊な立場と役割のお陰で、姫の前は将軍家の人々と深い精神的なかかわりを持ち、そこから見たこともない鎌倉歴史絵巻が描かれていきます。

 語り口はとっつきやすく読みやすい……と思っていると、豊かで広大な世界観に度肝を抜かれます。巫女の精神世界が綾のように血生臭い生身の世界を包み込んでいて、その表現力と説得力がすごい。膨大な知識と考証がどっしり背景にあることを窺わせる一方で、そこに無数の登場人物の群像劇が生き生きと描かれ、55万字の大作にもかかわらず読み手を飽きさせません。姫の前の魅力的な造形はもとより、頼朝や政子、比企尼、義時といった規格外の大物の描写も秀逸。また端役のキャラクターに至るまでリアリティに溢れた等身大の姿に描かれ、それでいてはっとするような内面の輝きを発揮する瞬間があり、心に深く心地よい余韻を残します。
 時代小説ではありますが、枠にとらわれない自由で豊穣な世界観を持った作品です。どうぞ、やまの様の表現する世界にどっぷり浸かっていただきたいと思います。5、6巻シリーズで書籍化されて欲しいな…!

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