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夢酔藤山『井上泰助記』(井上源三郎資料館)

 幕末史に関心あり?新選組と聞くと血が騒ぐ?そんなあなたに強力にお勧めするのがこちら!ということで、前回に引き続き夢酔藤山様のご著作をご紹介したいと思います。日野市にある井上源三郎資料館HPに寄稿されている作品です。もう唸るしかない素晴らしさなので是非読んでみて欲しい(下記リンクがそのまま公開ページに飛びます)。

 井上源三郎は日野出身で、近藤勇の兄弟子にあたる人物。新選組六番隊組長を務め、慶応4年1月、淀千両松の戦いにて戦死しています。
 夢酔氏の『井上泰助記』は、この源三郎の甥である泰助の生き様を描いた作品です。井上泰助は11歳で新選組に加わり、近藤勇の刀持ちを務めました。しかし、戦況悪化を受けて隊からの離脱を命じられ、明治を迎えたのち、昭和2年に69歳で没しました。
 泰助の人物像を瑞々しく生き生きと描きつつ、幕末の時代のうねりと、新選組の個性あふれる面々の魅力をも余すところ無く見せる卓越した筆力が圧巻です。躍動感がありながらも端正で確かな筆致に、資料に基づいた歴史小説なのかと錯覚をするのですが、史実を踏まえた上での著者の創作と知る衝撃たるや…。
 幕末史は網羅すべき情報が膨大な上に、思想史への突っ込んだ理解が不可欠で、かつ綺羅星のごとき著名作家の作品が鎬を削っているので私などは近づこうとも思いませんが、やっぱり手を出さなくてよかった…というのが正直な感想です(冷や汗)。いや、凄いです。

 新選組つながりで、同じく夢酔様のこちらの掌編も非凡な作品と勝手に思っているのでご紹介します。

 越前康継という現存する名刀について、著者がイマジネーションを膨らませて創作なさったそうなんですが、筆力と構成にセンスが溢れている…と戦く作品。以下ネタバレしております。

 安政期、死刑執行人兼試し斬りを担った山田浅右衛門の一族の、名刀を用いた血生臭くも厳粛な後継決めが行われます。そして、一気に場面転換。時は幕末(安政も幕末だけど、さらに末期)。土方歳三と佐藤彦五郎の会話へ飛ぶのですが、この場面転換の鮮やかさが秀逸です。
 「まじか?」「まじだ」からの「死体ならいいじゃん」の下りの、悲壮ではありつつも爽快な幕末の空気感。それに対する前半の、未だ強固な幕藩体制下の暗部に生きる人々との対比が強烈。しかし、それも結局は過去となる無常。…うまっ!!上手いっ!と嘆息するばかり。
 小説というものを理解する上で勉強になることばかりだと感じます。折角公開してくださっているので、ぜひぜひご一読をお勧めします。
  

 

 

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