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【新歌推介】 張蔓莎 《細間始終你好》:お気に入りの個人店のような、小さいけど素敵な自分だけの片隅 【香港音楽】

曲名:細間始終你好
歌手:張蔓莎
リリース日:2024/8/21

作曲:陳可為
作詞:黃偉文

2022年デビューの女性歌手、張蔓莎(サブリナ・チャン)の新曲。

作詞は香港の大作詞家、黃偉文。サブリナにとっては、彼と初めてタッグを組んだ楽曲になる(はず)。

歌詞は、大きなチェーン店にはない個性をもった小さな個人店を大切にする題材にしている。

たしかに大企業は見た目はいいけれど
やっぱり小さな店の方に人間味を感じる
本来の性格が まだ時代の洗練を受けていないような

出来合いではない、自分だけのお気に入りの空間への愛着は、比喩的にそれに似た大切な存在へも向けられていく。

まるで誰かが
狭い路地裏のとある小店のように
強情な雑然さのようなものを持ち
雑然さの中にも どこか自然な
君との出会いが 懸念も全て取り除く

世界最高の小店を見つけたなら
乗り換えたりせず通い続けたい
俗っぽい品が世間に蔓延り続けるから
私は引き寄せられる この神秘の花園に

カントポップと「小店」といえば、2014年にリリースされた謝安琪の《獨家村》(作詞:林夕)を思い浮かべる。「この小店は美しい夢のよう、客のためでも簡単に変えたくない」と決意し、より大きな成功を求めるパートナーと決別する人物の心情を歌う楽曲で、当時の香港の社会情勢を風刺したものではないかとして話題も呼んだ。

この《細間始終你好》の歌詞も、そんな文脈を踏まえながら、そして昨今の香港の様子を思いながら聴くと、いっそう味わい深いものがある。

別にいい 世間から過激と言われ 智者も信じない
まるで極度の人見知り 愛想笑い ずっとわからない
私には要らない 大メディアが定める標準なんて
外に出て小店を探そう 自分の初心が見つかるように
めぐりめぐって また君と抱き合うために

まるで誰かが
体制外のとある小店のように
手狭だけどそれなりに完璧で
営業中は もしも嫌でなければ お客様
君と一緒に 年中店構えを見守っていたい
たぶん 君と私は世間では珍しい
昼も夜も来てまだ飽きないなんて
待ち望んだ 宝物がとっくに目の前にあるなら
なぜわざわざ閉店直前になって 今更いちゃつく意味があるだろう

大規模開発により取り壊しになる街区への思いを歌った黃偉文作詞の往年のヒット曲《囍帖街》(これも謝安琪の歌)を思わせるようなテーマでもある。

でも2008年リリースの《囍帖街》の主人公が何かがなくなってしまうことの悲しみを歌っていたのに対して、この曲の主人公は声高に嘆いたり抗議したりすることもなく、もっとひっそりと今残されたものを(それもまた有限であると知りながら)大切にしようとしているように思う。

それが強さなのか諦めなのかはわからないけど、なんにせよ、きっと過去数年来の時代の変化を示す差異なのだろうか、と考えてしまったりもする。

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