ショートショート 『ごちそうの捕まえ方』

商店街を歩く二人。辺りには食欲をそそる匂いが立ちこめていた。そろそろご飯時だ。
「今日のご飯なに~。」
「そうだなぁ、何食べたいの。」
「たまにはさ、良いお肉が食べたいよ。やわらかくて、ジューシーな感じのさぁ~。」
「よし、たまには奮発するか。」
そう言って、左側にある小さな店へと繰り出した。
「ねぇ、お肉屋さんは反対側だよ?」
「大丈夫、大丈夫。」
着いた先はお香屋だった。煙が悶々と立っている。えも言われぬ極上の香りではあるが、とても食欲をそそられるような匂いとは思えない。
「これと、これ、あとこれも下さい。」
「あんた気前が良いね。これもオマケで付けとくよ。」
「ありがとう。これは最高のごちそうになるぞ。」

家に帰るとすぐに庭へ赴いた。庭には大きな壺があり、買ってきたお香は全てその中に入れられた。
「これで準備万端。あとは仕上げにー」
『是香纏者、生涯無病也。』とでかでか書かれた紙を壺に貼り付けた。
「バッチリだ。」
「ほんとかなぁ。」
お香に火をつけると、極上の香りは辺り一帯へ瞬く間に広がった。
数分も経たないうちに、遠くの方から何やら甲高い声が聞こえてきた。
声はみるみるこちらへ近づいてくる。煙と煙の隙間から、白くて張りのある手足がぞろぞろと顔を出した。
「ほうら、今夜はごちそうだ!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?