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香水が苦手な話。夢で見た話。

僕の彼女は時々消えそうに感じる。僕は香水をつける。彼女はつけないという。

無臭でいたいのだと彼女は言う。生活の中に散らばっているにおいが好きだといった。確かに、少し値が張るというお気に入りで普段使いしているハンドソープは天然の檜の香りがする。洗濯の香りビーズのにおいはなんかよく分かんないけど多分花のにおいで服を乾かすとき、広げるたびにいいにおいがするという。オブジェとして飾っているアロマキャンドルを時々焚くと久しぶりにかぐいいにおいに満足するのだという。あとは夕飯を作ってる時の美味しそうなにおいも好きだと付け足すように言った。好きな香りは何と聞いて夕飯のにおいって正解なの?普通はシャネルとかコーチとかそういうブランド物の香水の香りじゃない?とおもったけれど彼女が満足そうに話すのでそれは言わないことにした。(僕も聞きかじった情報なのでそれ以上は言えることがないというのもある)
あとは、仕事柄つけないし、それに人のまとってるにおいって記憶に残るでしょ、それが嫌、と彼女は言った。恋愛ソングでは元カノか元カレの香水の匂いを街中で感じがちだし、恋愛のコラムみたいなのには香水の残り香が、なんてよく目にする。でも彼女はそれが嫌らしい。
「だれの記憶にも残りたくない」難しい話をするとき彼女は決まってそういう。死にたい願望があるの?と聞くとそういうわけじゃないという。別に自殺したいとか思ったことはないと。でも、交通事故とかもしかしたら仕事が辛くなって自ら命を絶ちたくなったとか、そういう急に死が訪れることも無きにしも非ずでしょ。そういう時に誰かの記憶に残っていたくない。といった。頭の上にはてなを浮かべた僕の様子を感じ取って彼女は分かりやすく説明してくれた。「私のことが記憶にある人ってきっと、私の友達とか職場の人とか私の存在が普段の生活の中にある人だと思うのね。だから私が死んだらきっと悲しんでくれるし、ときどき思い出してそのたびにちょっと悲しんでくれると思うの。それが嫌。私のせいで悲しい思いをしてほしくないし、職場の人なんか私がいなくなったら一時的に困るでしょ仕事の関係で。だからいてもいなくてもその人の生活が変わらないような存在でいたいの。よくあるじゃない?昔よくつかってた道具が久々に見つかったけど意外とこれがなくても生活できてたんだなあっていうの。それになりたい。だから忘れてても困らないようなそんな存在になりたいの。」この世から自分の存在を消すようにいきたいと、私が消えてもだれも困らない社会で会ってほしいと彼女はいった。

僕は彼女がいなくなったら困る。悲しくて何日も、もしかしたら何か月も泣いちゃうし、ふさぎ込んじゃうかもしれない。僕と彼女は付き合ってるのに、現在進行形で付き合っているのに彼女はそんなことをいう。それも昔話をするみたいに優しいまなざしでもって話すのだ。彼女の未来に僕はいるのかなと不安になるけど、僕たちはまだ20代も前半だから分かれる未来があるかもしれないと思うと強く言えない自分がいる。だからせめてでも、俺はいなくなったらさみしいよ。たぶん思い出して泣いちゃう、というとありがとう。と返してくれたけど忘れないでね、とは言ってくれない。彼女は僕が彼女のことを記憶に残そうとしていることを喜んではくれないのだ。

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