見出し画像

海からしか得られない青がある

海が好きだ。

透き通っていて、目が冴えるような爽やかな青。
飲み込まれそうなほど深く冷たい青。
掬いあげてみると透明なのに、海という一つの存在になったとき、なぜあんなにも綺麗な青色になるんだろう。
世界にはいろんな青があるけれど、私は海の青がイチバン好きなのだ。

今日は1人で青島まで行った。
ローンがまだ残っている中古のN-WGNで。
新品の水着を白シャツの下に仕込んで、100均のビーチサンダルを片手に家を出た。

時刻は午後2時。
車を降りた瞬間、降り注ぐ日差しを受けて、うなじに日焼け止めを塗り忘れた自分を責めた。


海の姿が見えなくても、風に乗ってやってくる磯の香りに胸がドキドキする。
波の音が聴こえると、自分のすぐ近くに海を感じて思わず走り出した。

堤防を越えて、視界が開けた瞬間。
網膜に突き刺さる、眩しいほどの青青青青青…。

海の姿を映すと同時に私の目は瞬きを忘れて、少しでも多くの青を摂取しようと躍起になる。
普段ではまずお目にかかることができない美しい青が今、私の目の前に在る!!!
その事実に思わず笑みが溢れた。 

初夏の砂浜は、足裏を灼くほどの熱を持っておらず、サンダルを脱いで歩くことができた。
一歩踏み出せば、私の重みだけ砂浜が沈みこむ。
一つ一つの砂の粒が暖かく、柔らかく素足を包みこんだ。

海に近づくほど足裏に感じる温度は下がり、それに逆らうように私の体温は上がっていく。
もう少し、あと少し。

うち寄せる波に触れたその瞬間、指先から私の熱が海へ流れ出たような気がした。
寄せては返す波が高まった私の温度を、静かに優しく奪っていくようだった。
まるで私も海の一部になったような気がして、先程までの興奮が嘘みたいに引いて、とても安らかな気持ちになった。


寄せては返す波と呼吸を合わせるように、近づいては離れてを繰り返す。
短パンがずぶ濡れになっても構わない。
…気づけば小1時間、1人で海と遊んでいた。
周りを見渡すと、楽しげな1人分の足跡があちこちに残っていた。

写真を撮りすぎて、気づけばアルバムが真っ青になっていた。
同じ青でも、空の明るさや時間によって海は色を変えるので、いくら撮っても撮り足りないのだ。

夕日に染まる海の色も見たかったけれど、流石に疲れを感じたので帰ることにした。

階段を上がり、これが最後と振り返って見た海は、最初に感じた目に染みるような眩しい青というよりも、穏やかで優しい青色をしていた。
磯の香りを胸いっぱいに吸い込んで、波の音を耳に仕舞った。

今度はレジャーシートを持って来よう。
砂浜に寝転んで波の音を聞きながら眠ったらどんなに気持ちがいいだろう。

車に乗りこみ、エンジンをかけると、音楽が勝手に流れ出した。

“You’re free to be wherever you
whatever you say
if it’s alright, it’s alright…”

直射日光を浴び続けていたうなじが、ピリピリと心地よく痛んだ。



帰り道にコンビニで煙草を吸った。
たくさん青を摂取したからか、吐いた煙はいつもより少し青みがかっていたような気がしなくもなかった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?