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プロのインタビュアーはどのように話を聞き、組み立てているのか 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.677

特集 プロのインタビュアーはどのように話を聞き、組み立てているのか〜〜ジャーナリスト歴の長いわたしが、インタビューのコツを大披露

 他人に話を聞いたり、インタビューするのに「コツ」みたいなものはありますか?という質問をときどきいただきます。今回はわたしが長年のジャーナリスト仕事で得たノウハウを公開しましょう。

 まずわかりやすい導入として、ダメなインタビューの実例を挙げましょう。皆さん、以下のやりとりを読んで何がダメなのかわかりますか?

「仕事のインスピレーションはどこで得られるんですか?」
「そうですね、普通に電車に乗ってるときとか、だれかと関係ない会話をしてるときに、降ってくることが」
「ああーはいはい。そういう回答多いですよ。思いついたアイデアはどうやって覚えておくんですか?」
「その場でスマホでメモしたり、音声アプリに録音しちゃうことも……」
「ああーはいはい」

 最初のやりとりでは、せっかく相手が「電車に乗ってるときや会話のとき」と答えてくれているのに、「そんなのよくある回答だ」みたいなニュアンスで返答してしまっています。こういう質問のしかただと、相手に「この人は自分に関心がないんだなあ」と思われてしまい、以降は真摯に返事する気をなくしてしまいます。

 ふたつめのやりとりでは、相手が答えないうちに、割り込んでしまっていますね。これは非常に悪いやりかたです。テレビの討論などでは「割り込み」はひんぱんに行われているのですが、これはテレビのスタジオだからです。

 思いかえしてみると、わたしがテレビの討論番組に出たのは2006年のライブドア事件が最初でした。田原総一朗さんが司会をしていたテレビ朝日の『サンデープロジェクト』という番組です。後半の20分ぐらいを田原さんと専門家や有識者など3人で円卓を囲んで議論するんですが、これは本当に恐ろしい討論でした。

 田原さんに出演前に会ったときの印象は「おだやかな年配の人」だったのですが、スタジオで生番組が始まると表情も姿勢も一変します。そして何とも恐ろしいことに、わたしがしゃべるタイミングを逸して話せないでいても、決して指してくれない。なかにはほとんどひと言もしゃべらないまま番組を終えた出演者もいました(笑)。それなのに「この話題はちょっとしゃべりづらいから、黙っておこう」と思ってるときに限って、こっちの表情を見てすかさず「で、佐々木さんはこれはどうなの?」と突いてくる。恐ろしいです。

 この番組で初めて、わたしは「割り込む」「かぶせる」というスキルを修得しました。相手がしゃべり終わらないうちに割り込んで、自分の言いたいことを言う。この割り込みをやらないと、田原さんの番組ではほとんど発言できないまま終わってしまうからです。

 まあ、そもそもかぶせないで延々としゃべらせておくと、ずっとしゃべりまくってしまう出演者もいるので、他の人がしゃべる時間がなくなってしまう。だから司会者が割り込んで話題を逸らせるというようなことは、時間の制限のあるテレビでは必要でもあるのです。

 いっぽうでラジオには「割り込み」はありません。テレビと違って出演者が少なく、せいぜい3人ぐらい。なので急いで自分のしゃべる時間を確保する必要がないのです。そしてなぜラジオでは多人数でたがいに「割り込み」しまくらないかというと、そんなことをしたら誰が何を言ってるのかわからなくなってしまうからです。

 なので「割り込み」をせず、互いにじっくりとしゃべりたいことをしゃべり、相手の話が終わってから自分の話をするというのが、ラジオでは一般的です。そしてこのやりかたは、対面でのインタビュー取材に実はとても近いのです。

 たとえば相手が言いたいことを言い終えてから、おもむろに「なるほどー。では、その話は○○という背景などがあるんでしょうか?」と質問していく。なるべくゆるやかに話を聞いていくことが大切なのです。決して急かしてはいけません。

 このときの相づちの打ち方も、非常に重要です。

(1)どのタイミングで相づちを打つか。
(2)どういう言葉づかいで相づちを打つか。

 (1)に関しては、いま書いたように「相手が話を終えてから」です。ただし、相手がインタビューに慣れてない人、もしくは非常に独善的な人だと、放っておくといつまでもいつまでもしゃべり続ける人がいます。どこかで中断してもらわないと、限られた時間に必要なことを聴けなくなってしまう。かといって相手のしゃべりにかぶせる「割り込み」をすると、たぶん相手は気を悪くします。

 ここが難しいポイントなのですが、会話の途切れるところを狙って相づちをうち、相づちのついでに質問を追加するのです。よほどの異能の人でない限り、延々と息継ぎもしないでしゃべり続けることはできません。どこかで息継ぎし、あるいは話がちょっとのあいだ途切れることがある。そこですかさず相づちを打つのです。そして話を引き戻すのです。

「だからそれであれがそうしてこれがこうなったからそれでわたしはそのときたいへんだったんだだけどあいつはそれがわかってなくて困っちゃったよそのときはそれで……」
「なるほどお、それは本当にたいへんでしたねえ。……で、ちょっと話を戻したいのですが、最初にその人と出会ったときにはどんな印象を抱かれたんですか?」

 (2)の相づちの言葉づかいも大事です。先ほどの悪い例で紹介した「ああーはいはい」みたいなのは最悪。インタビュー相手のしゃべりに対して、自分がいかに感銘を受け関心を抱いているのか、という心からのメッセージを伝えなければなりません。

「へええそうなんですか」「なるほどお」「それはすごいですね」「すご!」「ほえー」

 いろんな相づちの文言があるでしょうが、相手にそういうメッセージが伝わりそうなものを日ごろから収集し、自分の頭の中の抽斗に収めておくのが良いでしょう。それらを入れ替えながら、インタビュー中に適宜繰り出していくのです。なお、決して同じ相づちだけを使い続けてはいけません。「適当に相づち打ってるなあ」と相手に思われてしまいますから。

 悪いインタビューの実例をもうひとつ挙げましょう。

「まず最初の質問ですが、佐々木さんは登山はいつごろからするようになったのですか?」
「大学に入って登山のサークルに入ったのがきっかけで、その後は社会人山岳会にも入会し、だんだんと本格的な登山にも目ざめていくという流れでした」
「……はい、わかりました。では次の質問ですが、どんな山が得意ですか?」
「ええっと、個人的に好きなのは八ヶ岳ですね。学生時代からたぶん数十回ぐらいは行っててホームグラウンドみたいなところなので」
「はい。次の質問です。山ではどんなごはんを食べるのですか?」
「日帰りだとカップラーメン食べるぐらいです……(こいつ人の話聞いてねえな)」

 このケースは、インタビューに慣れてない人に非常に多く見られます。まあ緊張しているということもあるのでしょう。事前に質問項目をていねいに用意してきたのは良いのですが、「項目通りに順に質問をしなければ」「項目を全部聞かなければ」ということに気持ちが奪われてしまって、相手との会話のキャッチボールができなくなってしまっている。

 せっかく「八ヶ岳はホームグラウンド」というさらに深掘りできそうな話を聞けたのだから、そこから話をもっと広がらせるべきなのです。
「八ヶ岳のどこが好きなんですか?」「ひとつの山に集中していくのって興味深いです。いろんな山に行くのとは違う経験なんですか?」とかいろいろ質問できるはずです。

 会話はキャッチボールになっているからこそ、話が弾むのです。ボールを受けるだけで終わらせてはいけません。インタビューを受ける側から見ると、せっかく答えたのにその回答に少しは突っ込んでくれないと、「この人は自分に興味持ってないのではないか」と感じてしまいます。話も弾みません。ただアンケート調査の回答のように話を終えて終了になってしまいます。

 ここまで、「相づちのうちかた」「キャッチボールの大切さ」について説明してきました。次に第3のポイント、インタビュー相手への「愛」について解説しましょう。

 愛と言っても、恋愛ではありません。男女は関係ありません。せっかくインタビューするのであれば、相手を全身全霊をこめて愛するぐらいの気持ちで向き合え、ということです。男女関係でつきあい始めたばかりの恋人だったら、相手のことをすべて知りたいと思うでしょうし、相手の話を全身で受け止めたいと思うでしょう。そのぐらいの気持ちでインタビューせよ、ということです。

 このために大切なのは、周到な事前準備です。もし相手が書籍を書いているのなら、さっと斜め読みでもいいから著書を読んでおくのは必須です。最近はキンドルで電子書籍が出ていることも多く、インタビューまで時間がなくてもすぐに本を手に入れて目を通すことができるようになりました。とにかく短い時間でもいいから必ず目を通し、概要をつかむ。

 そしてインタビューの当日は、相手に対して「御本も読みました。○○、すごく面白かったです」と伝えるといいでしょう。そう言われて喜ばない人はいません。

 書籍以外には、グーグルなどの検索エンジンを活用しましょう。検索結果の冒頭ページを見るだけでなく、5〜6ページ先までチェックするようにすると、過去の面白い記事がヒットする場合があります。これらも全部読む。

 わたしの場合、検索エンジンにくわえて新聞と雑誌の記事データベースを利用しています。わたしが使っているのは有料のこれです。


 特に経営者や著名人などの人物インタビューの場合には、事前に、過去の取材記事などを徹底的に読み込みます。その人の過去の経歴などについて、本人より詳しくなっているぐらいに持っていく。

 だいぶ前の自慢話ですが、ある通信分野の経営者へのインタビューを申し込んだ際、その会社の広報から「質問項目をできるだけ具体的に細かく教えて欲しい」と求められ、事前調査の内容を踏まえた上で、詳細な質問項目を用意して送信しました。するとふたたび広報から連絡があって、「社長が、こんな細かい話をいったいどうやって調べたのか。だれか身内に聞いたのか。まずその情報源を教えて欲しいと驚いています」と言われたことがあります。

 情報源など何もなく、ただネットで過去記事や知人が書いたブログなどを調べまくっただけです。インターネットというのは、本人が気づかないぐらいの大量の個人情報を抱えているということなんですよね。だったらそれを利用しない手はないでしょう。

 とにかく相手のことを調べまくって事前準備を行い、さらにインタビューの時にはそれらの知識を少しずつ繰り出しながら、相手に愛情のメッセージを送り続けることです。

「すごいですねえ」「ほんとう感動しました」「よくそんな素晴らしい発想を思いつかれますねえ」

 どんなことばでもかまいません。「わたしはあなたを尊敬しています、リスペクトしています」という思いがあれば、相手が高齢者だろうが若者だろうが、男女にも関係なく(異性のインタビュー相手に、誤解されそうなメッセージを送ることには十分注意することが必要ですが)、相手は受け止めてくれると思います。

 さて、ここからはインタビューにおける「構成」について説明していきます。どのように物語をつくり、インタビューの質問をそれに沿わせるのかという全体の流れの作り方です。

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