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栃木のウユニ湖・渡良瀬遊水池の地平線〜フラット登山という提案②

「フラット登山」こと登らない登山の第一回目は、栃木のウユニ湖との異名を持つ渡良瀬(わたらせ)遊水地をめぐる旅。「登らない登山」どころか、山でさえありません。かといって散歩かというと、散歩の域はとうに越えてるぐらいな「旅感」があります。どこまでも広々とした土地を、地平線を求めてどこまでも歩く旅、という感じなのです。

決して山頂を目指す登山ではない。しかし散歩でもない。歩行4時間ぐらいなので、ロングトレイルというほど長大ではない。まさにフラットな歩く旅。

運動靴でも大丈夫な渡良瀬遊水地の旅

今回のコースは、大半が舗装道なので運動靴でも十分でしょう。硬い舗装道を長く歩くとかなり足が痛くなるので、靴底がしっかりしていて、なおかつ履き慣れた靴を。

渡良瀬遊水地とはそもそもなにか。関東地方の水害対策に関心のある人なら、名前はご存じでしょう。栃木県の南の端にあり、利根川水系があふれそうになった時には膨大な量の水をため込めるようになっている土地です。その広さは羽田空港の倍以上、貯められる水はなんと2億立方メートルにもなります。近年だと、甚大な被害をもたらした2019年の台風19号で八ツ場ダムとともに大量の水をせき止め、利根川水系の氾濫を防いで首都を守ったことが有名です。

しかしこの渡良瀬遊水地に、実際に足を運んだことのある東京人はあまりいないのではないでしょうか。名称だけが有名で、実態が謎に包まれている渡良瀬遊水地。そもそも治水のための施設に、一般人が近寄ったり内部に立ち入ったりできるのかどうかもあまり知られていないように思えます。

実は渡良瀬遊水地は公園としても整備されていて、当然入れるし、歩くコースも完備されているのです。そしてこの広大な遊水池の風景がほんとうにすごい。巨大な湖、そして地平線まで続く葦原。地元では「栃木のウユニ湖」なんていう異名もあるほどで、東京からこんな近いところにこんなすごい土地があるなんて、と足を運べば驚くことばかりです。おまけに遊水池のまわりを歩くので、高低差はほとんどありません。フラット登山の旅にぴったりなのです。

鉄道で行くなら、東武日光線の板倉東洋大前駅が 駅前にスーパーもあり便利です。そこから渡良瀬遊水地に入るには二つのゲートがあり、北エントランスと中央エントランスと呼ばれています。クルマで行くなら、どちらのエントランスにも広い駐車場が用意されています。

ロードバイクが遊水池の橋の上を走り抜けて行く

さて。わたしたちが渡良瀬遊水地に足を運んだのは、10月の秋晴れの一日のことでした。

中央エントランスの駐車場にクルマを駐め、歩行者用のゲートを通って遊水池の施設内へと足を踏みいれました。すぐに目の前に広がるのが、谷中湖。横から見ただけではわかりませんが、ハート型をしています。そこで近くにある「道の駅かぞわたらせ」では「恋人の聖地」をガンガン推しています。地上からだとハートはまったく見えないのに、それをガンガンおすのもちょっと無理があるような……。

湖岸をしばらく歩くと、長大な橋が目に入ってきます。橋から見わたせば、どこまでも続く青い湖面に、はるか遠くに見える建物群。このあたりは関東平野の北の端にあたるので、南の関東平野方面はどこまでもフラットに大地が続いていっているのが望めます。そして振り返って北面を見れば、遠くには日光の峨々とした山々が。感動の一瞬です。

ロードバイクが何台も、橋の上を走り抜けて行きます。クルマが通らず道幅は広く、自転車には絶好の練習コースとなっているようです。蒼井空、青い湖面、キラキラと光る自転車の車体。ああ気持ちいい。

やがて中ノ島が見えてきます。橋はここでT字路になっているので、左に折れてさらに橋をたどって北へと向かいます。いたるところに「イノシシに注意」の看板があり、たしかにイノシシの姿がやたらと目につく。中ノ島ではイノシシの子どもが数頭、夢中で地面を掘り返していました。人間をまったく恐れてる様子はありません。

道の脇のそこらへんを子イノシシが平然とウロウロしててびっくり

橋をわたり終えて北エントランスに続くエリアに足を踏みいれると、今度は気持ちよい草原に、広葉樹が点々と生い茂る場所。売店やトイレもあります。バックパックを下ろし、寝っ転がって空を見上げればどこまでも広い青。

橋を渡り終えると、遊水池のど真ん中は広々とした芝生の公園

さらに北に歩くと、びっくりするぐらい大きな展望台があります。階段を上がれば、360度の眺望。渡良瀬遊水地の全貌が見える……と言いたいところですが、この土地は広すぎるので展望台の上からでも全容はわからない。それぐらい広い。展望台にはさまざまな説明表示もあり、たいへん学びが多いので、熟読すると楽しめるでしょう。たとえば渡良瀬川と接するところは対岸とくらべてこちら側の堤防がわざと低く作ってあり、水位が上がったらこちらの遊水池側に自然と水が流れ込んでくる仕組みになっているとか、なるほど!

わかりにくいけど、ここがヨシ原の入口

展望台の前からは東に折れて、渡良瀬川を目指します。車道を歩いてもいいのですが、ここはぜひヨシ原の中を進んでみてください。展望台の真ん前の「危ない!」という黄色の注意看板のそばに、遊歩道の入口があるのがわかるでしょう。背の高いヨシ原の中に入ってしまうと、見えるのは一面の緑と青い空、それに遠くに見える日光の高峰だけ。風が流れていくと緑がさわさわと歌い出し、遠くの異国の地に来ている気分になれます。

細い川に突き当たったら左に折れて車道に出て、さらに進み、やがて渡良瀬川の堤防が見えてきます。堤防の上を犬を連れて散歩している人が、小さく小さく見える。

堤防に上がると、展望が拓けます。南の遠くに背の高いマンション群。古河の街のあたりでしょうか。下流に向かって歩き、右に谷中湖が見えてきたところで堤防から下る道を見つけ、湖に戻ります。再び中ノ島から中央エントランスへ向かって、出発地にゴール。だいたい4時間ぐらいの楽しい旅でした。

とても本州の景色とは思えない。これがまさか栃木県とは。

【歩行タイム】
4時間ぐらい。
【難易度(レベル1=初心者でも誰でも〜レベル4=そこそこ難易度高し)】
レベル1=危ないところなど何もありません。途中で道に迷うかもしれないけど、山中じゃないのでスマホで地図を確認して最寄りの駅を目指せば大丈夫。
【足まわり】
80%が舗装道路なので、運動靴で大丈夫でしょう。
【お勧めの季節】
冬から初夏までと、秋から冬まで。太陽を遮るものが何もないコースだし標高も低いので、真夏は無理だと思います。
【注意点】
風を避ける場所も、陽光を避ける樹木もほとんどないので、日焼けにはご注意、そして冬場の風の強い日もけっこうつらいので、防風性能の高い防寒具を。

この日歩いたコースの概略図(雑ですまぬ)


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