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「外れ値だけど説得力がある」文章のつくりかた 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.772

特集 「外れ値だけど説得力がある」文章のつくりかた〜〜〜SNS時代の「日本語の作文技術」について考える(第6回)



簡潔でわかりやすい文章は、これからはChatGPTのような生成AIの独断場です。だとすれば、AI時代にも生き残れる「人の手による文章」とは何でしょうか。AI時代の「書く力」にはどのような能力が期待されているのでしょうか。


生成AIの時代には、AIとの協力が人間の大事な仕事になっていきます。AIに任せられる仕事は任せ、人間にしかできない仕事を人間が遂行する。つまり、以下の二つの能力が求められるということになります。


(1)AIと協力する

(2)AIにできないことをする


(1)の「AIと協力する能力」は、ずばり「AIに的確に質問する力」と言い換えられます。これからは「自分のアタマで考える」よりも「AIと一緒に考える」ほうが思考が鍛えられるようになっていく。「AIと一緒に考える」ためには、AIに的確な質問を投げなければなりません。


「対話による知」というのは、実のところとても深い歴史を持っているのです。孤独な知識人がひとり頭の中で考えるというのは、近代になってからの知のありかたです。中世以前は、知は常に対話から生まれるものでした。それを明快に語っているのが、かの有名な古代ギリシャの哲人ソクラテス。


明確な答がないようなテーマについてどう考えれば良いか。その場合は「問いを投げよ」というのが、ソクラテスの言ったことです。質問し、それに対して回答するというコミュニケーションを繰り返すうちに、新たな気づきを得られる。その気づきの数々が、対話の価値であるというのです。


自分の頭の中で考えているだけでは、答が見つからない。袋小路に入り込んでしまって、思考が煮詰まってしまう。しかしそのテーマで誰かと雑談していると、突然「あ、そうか!」と気づくことがあるというのはだれでも経験しているのではないでしょうか。おそらく会話することで、自分の思考に抜け落ちていた部分を補ってもらったり、「そこは本当に正しいの?違う考えかたもあるんじゃないの?」といった指摘を受けることで軌道修正できたりといったことが気づきにつながるのだと思います。


さて、AIに的確に質問するためには、漫然と訊くのではなく、創造的で具体的かつわかりやすい言葉で質問することが必要です。そのためには練習を繰り返さなければなりません。


相手が人間だったら、しつこく何度も同じような質問をしてトレーニングしようとすると「もうウンザリだよ……。やめてよ」と嫌がられるでしょう。しかしAIはたいへんありがたいことに、何度同じことを訊いても嫌がったりしません。これからはAIを相手に対話のスキル、質問する能力をトレーニングして磨き、そのスキルを活かしてさらにAIとの対話を高度化していくということが当たり前になっていくでしょう。


先にも書いたように、中世までは知はつねに対話から生まれるものでした。コミュニケーションがとても大事な役割を果たしていたのです。しかし近代になり、知はもっぱら孤独な思考によって磨かれるのだと考えるように変わっていきます。みなで本を音読し、聴くのではなく、ひとりで黙読する。対話ではなく、声に出さずに頭の中でひとり考える。そういう個人の孤独な営みが当たり前になりました。


しかし生成AIはこの流れを反転させ、古代から中世にあったような人々の思考が共鳴し思考し、そこから集団的に生み出されるような知へと回帰させていくのではないでしょうか。


さて、ふたつめの能力「AIにできないことをする」について。AIにできないこととは何か。それは、外れ値を書くことです。生成AIはたくさんのデータから学習し、そこから中央値的な回答を返してきます。言い換えれば、AIの回答は教科書的、優等生的なのです。


外れ値は、他と比べて極端に小さな値や極端に大きな値のことです。AIはこのような外れ値の回答は返してきません。


ただ気をつけておかなければならないのは、極端なら何でもいいわけではありません。突拍子もないことをいえば人は驚くでしょうが、そこに何の根拠も論理もなければ、人は驚き呆れるだけです。決して説得はされません。大事なのは、「外れ値だけれども説得力がある」というラインを厳守すること。


どうすればそんなことができるのでしょうか? 


まったくゼロから、説得力がある外れ値を生み出すことは普通はできません。そんなことが可能なのは、一部の天才だけです。そこでここからは、凡才であるわたしがどのような方法を採っているのかを明らかにしていこうと思います。


メインとなる手法は、これです。「思いも寄らないものを二つ接続させる」


題材を使いましょう。以下は、わたしが数年前にとある紙のメディアに寄稿した記事です。


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