見出し画像

広大で歩きやすく、心も晴れる日光戦場ヶ原〜フラット登山という提案④

日本の誇る巨大観光地・日光。東照宮に華厳の滝、中禅寺湖、戦場ヶ原、そして男体山や女峰山などの峰々と、日本の素晴らしい自然景観を圧縮して一か所にまとめたテーマパークのようなところです。東京からも近く、新宿から東武線直通の特急も出ています。座ったままで新宿から2時間で東武日光に着いてしまうのは本当に楽。

オーバーツーリズム気味な観光地としての日光

とはいえ、日光ならではの面倒くささもあります。まず日光の中枢に行くのに、東武日光駅あたりからだとけっこう遠い。あのクネクネが延々と続くいろは坂を登らないといけないのです。中禅寺湖まで出るのに路線バスで1時間はかかります。くわえて、人気のスポットは信じられないぐらいに人が多い。駐車場はどこも満杯だし、観光客がゾロゾロ歩いてて、オーバーツーリズム感が満載です。

そういう面倒な日光ですが、しかし観光スポットを一歩外れてトレイルを歩けば、思いのほか人は少なく、日光ならではの雄大すぎる景色をたっぷり楽しめます。そこで今回紹介するのが、戦場ヶ原をぐるりとまわるトレイルコース。

戦場ヶ原のトレイルは静かで気持ちいい

台風が過ぎ去り、速いスピードで大きな白雲が青空を流れていく初夏の朝。山仲間のクルマで、戦場ヶ原の南端にある赤沼駐車場に降り立ちました。ここから目指すのは、戦場ヶ原の北端にある湯滝。赤沼と湯滝のあいだは国道120号という立派な舗装道でつながっているのですが、国道とは違うルートでトレイルもちゃんと整備されています。

立派なトイレなどがある駐車場から国道を渡り、戦場ヶ原に入るトレイルを歩きます。いきなり美しい小川が道沿いに流れていて、「戦場ヶ原に来た!」という快感がこみ上げてくる。ほんの5分ほどで分岐があるので、ここは右に行きましょう。川は合流して湯川になり、透明度がびっくりするぐらい高くゆるやかに大きな流れとなり、灌木の向こうでは釣り人たちがニジマスのフライ釣りに熱中しているのを見かけるようになります。

ここは天国か楽園か

立派な木道が続きます。気がつけば周囲は、まるでサクラのような純白の花がいっぱい。風景は真っ白に染まっています。大袈裟ですが、ひょっとして自分はもう死んで天国にいるのか……とふと思ってしまうほどに楽園感がある。


ズミの白い花が視界を覆い、まるで天国

花はバラ科のズミという樹木です。ズミって不思議な語感……と思って調べたら、ウィキペディアにはこうありました。「和名ズミの語源は、染料となることから『染み』、あるいは、実が酸っぱいことから『酢実』ともよばれる」。花が終わると小
さな丸い果実をつけるそうです。

みんながここに来ると「おお!」と叫ぶ

トレイル沿いには何カ所か展望スポットがあり、周囲を覆っていた灌木がそこだけ開けて、目の前には男体山や女峰山、太郎山の雄大な山並み、そしてその手前に広大な戦場ヶ原の全容。びっくりするぐらいに広大で、歩いてきた人たちのほとんどがここで「おお!」と声を上げます。


ここに来るとだれもが「おお」と歓声を上げる

トレイルは深い森の中へと続き、やがて湧水が大きな水たまりをつくっている泉門池の広場に。赤沼からここまで1時間あまりです。この先の小田代橋から小川沿いに歩いていくのが標準的なコースなのですが、2024年6月上旬現在では、その先の道が壊れているようで小川沿いは通行禁止になっていました。

「森の奥の見通しが良すぎて逆に怖い」

迂回路があるので、標識にしたがってこちらに入ります。背の高い木々のあいだを縫うようにしてたどる迂回路、これはこれで森の奥深さを感じさせて気持ち良い。


高い木々の底を歩くような道

クマザサがびっしりと生えた大地に、まばらな木々の群れがどこまでも続いているのが見えて、森だというのに驚くほど見通しが良い。山仲間のひとりが「森の奥の方で、みしらぬ獣とかが動いたら全部見えそう。なんか怖いですね」とぽつり。見えないから怖くない、でも見えすぎるから逆に見ちゃいけないものまで見えそうで怖い、って不思議な感覚だなあと思いました。


森の奥のどこまでも遠くまで見える

空を見上げると、さっきまで流れていた白い雲に陰りが出ています。西の方には真っ黒な雲が湧いてきている。雨雲です。この地の天気予報では「午後3時ごろからは雨」となっていました。現時点は午前11時半。まだだいぶ余裕がありますが、予想より早く雨雲がやってくることも覚悟する必要がありそうです。

ふたたび分岐があり、右に曲がります。木の階段を沢に降りていくと、目の前に立派な滝が。これは目的地の湯滝ではなく「小滝」です。でも小滝という小ぶりな名前のわりには、水量も多くてとても立派。滝壺では釣り人がフライを出していて、ぼんやりと眺めていたら、目の前で見事にニジマスを釣り上げていました。おもわず拍手。


小滝では釣り人たちがニジマスを釣っていた

観光地だけど湯滝はさすがの壮観、圧倒的

小滝から少し歩くと、大きな建物が見えてきて、観光客の雑踏の音も聞こえてきます。クルマの音もします。賑わっている湯滝レストハウスの横を向こうに回り込むと、目の前には巨大な滑り台のような圧巻の滝が! これが湯滝です。湯滝の壮観を見てしまうと、なるほどさっきの滝は「小滝」だなあと納得。


壮大すぎる湯滝の全景。写真だと伝わらない

湯滝の眺めを堪能した後は、滝の落口を見るためにジグザグの遊歩道を上がります。わずか15分ぐらいですが、本日のコースでここがいちばん急登です。湯滝の上に出てみると、そこはひろびろとした湯ノ湖。湖岸で大休止して昼食としました。

先ほどから気になっている黒い雨雲がまた近づいているため、湖岸を一周する予定は切り上げて帰路へ。ふたたび迂回路を歩き、泉門池の分岐からは来た道は戻らず、ぐるりと小田代原をまわるコースへ。こちらはさらに人影が少なく、静かな歩きを楽しむことができます。

泉門池から1時間ほどで、行きのトレイルに合流して、すぐに赤沼駐車場です。駐車場に着いたとたんに、雨が降ってきた! 最後まで濡れずにすんで、実にラッキーでした。

本降りになってきた雨の中、クルマで日光の街へ。駅前には日帰り入浴ができる日光ステーションホテルクラシックがあるのですが、残念なことにここは入浴受付が午後3時までなのです。時計はすでに3時半。そこで東武日光駅からクルマで5分ほどのところの山の上にある「日帰り温泉ほの香」へ。ここは知る人ぞ知る日帰り温泉で、めちゃめちゃ小さくて(でも小さな露天風呂もしっかりある)自販機で入浴券を買ってそこの箱に入れるだけという無人のお風呂なのですが、観光客はおらずかなり空いているという穴場なのです。

汗を流して、この日の楽なフラット登山は無事に終了いたしました。おつかれさま。

【歩行タイム】
赤沼から湯滝まで戦場ヶ原をぐるりとまわるだけなら、3時間ぐらい。湯ノ湖を一周すると、プラス1時間。小田代原の一周も加えると、さらにプラス30分。
【難易度(レベル1=初心者でも誰でも〜レベル4=そこそこ難易度高し)】
レベル1
【高低差】
小さなアップダウンはありますが、大きな登りなどは皆無。強いていえば、湯滝を鑑賞したあとに滝口を観るために湯ノ湖まで上がるところが、15分ほどのジグザグの急登。
【足まわり】
コースの大半が木道。運動靴でもいけますが、木道は濡れると案外滑りやすくなり、木道のないところもあるので登山靴の方が安心。
【お勧めの季節】
春から夏、秋まで。11月から2月ぐらいまでは雪に閉ざされます。冬のスノートレッキングも可能ですが、それはまたそれで別のノウハウが必要なのでご注意を。


雑すぎるコースマップ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?