マガジンのカバー画像

10
詩です。日常で思わず立ち止まった場所のことを詩と呼ぶような気がします。
運営しているクリエイター

記事一覧

びりえっと

びりえっと

カウンター越しの店主

ショートカットの女性

過去の水泳による肩の張り

包丁を手際よく叩く

そのリズムに乗せられて心が踊る

おいしい料理をたべられるいいおみせ

ここは路地裏びりえっと

ゆらゆら

ゆらゆら

朝の電車は うつろで
昼の電車は ほうけていて
夜の電車は うつむいて

なにか渦巻き右往左往する感情漂う最終電車

やたら派手なシャツを着て
無表情で無感情な傍観者の私だけが
電車の中で生きている

盛りつけ

盛りつけ

立ち小便みたいに どこでだって化粧をする

カールのまつ毛に色まで付けて

カラフルなまぶたはアイスのトッピングの様だが

食欲は湧かない

熟れすぎた林檎のように真っ赤なほっぺたに

食欲は湧かない

光る唇はフライが大好きな事を語りかけてくるが

食欲は湧かない

境界

境界

真っ暗な夜の海の砂浜に打ち上がった魚

それを食べる鳥の姿を街灯が見せつけて

月の灯がきらきらと美しさを添える

削られた山は土となり畑として耕され 道ができ

朽ちた木がそこに横たわるように寝そべって

行手を阻むその先に 伸びきった草が視界を遮る

その奥のひんやりとした空気と静寂が

巨大な自然の疲れを伝えている

どうしようもない運命をそのままに受ける

自然のもの達を前に

人は大切な

もっとみる
いきる

いきる

「この木も生きている」

そんなふうに言われ ぺちぺちと触られる

わたしは100年ちょっと生きているらしい

生きている そう 生きている

まだまだわたしが小さき頃 枝をへし折られたり

葉をむしられたり 皮をはがされたり

そういうことをやられました

でも 大きくなった頃 

「素晴らしい大きな木だ」 と言われてから

枝も葉も皮も大切にされ 側に人が寄らなくなった

素晴らしいなんて 本

もっとみる
うつる

うつる

雨が降るとともに

寒さも落ちてきて

人の衣が分厚くなるとともに

街のガラスは蒸気を纏い

虫の音の変化とともに

空が明るさを減らして朝と夜を対等にみせる

秋の味覚を味わいながら本当にくるのかと疑っていた冬が境目をはっきりと示しはじめて

夏の心を引き剥がす

ぬれた大地

ぬれた大地

赤ちゃんは泣いている
母ちゃんはあやしている

時間は時計をまわし続けて
地球はつられてまわり続けて

赤ちゃんは眠っている
母ちゃんは泣いている

時間は未来をはぐくんで
地球はいのちをはぐくんで
やがて ふたつのいのちは色を変えて
大きさを変えて
ひとつ消え
ひとつ生まれ
ひとつ消え

母と赤子は愛をはぐくみつづけて 時間を越えて
地球をせせらぎ脈をうつ

赤ちゃんは笑っている
母ちゃんも笑っ

もっとみる
そこに吹く風

そこに吹く風

海辺の勘違いを風に乗った帽子が運んでくる

強い風が顔をなで髪をなで

その後もずっと吹きつける

前が見えなくなることはなくても

辺りがほとんど見えなくなるような強い風が

まだ吹いて
まだ吹いて

そして帽子はどんどんどんどん遠くに飛んでゆく

よく知らないけど

よく知らないけど

よく知らないけどよく笑う
よく知らないけどよく感じる
よく知らないからこそ沈黙するが
よく知っているかのような穏やかな時間が流れる

よく知らなくてもよく知り続ければよく笑い合えるからよく知らなくてもよく知ってるように楽しい

よく知らないことは知らないこととは違う

よく知らないことがよく知ることのはじまりで
よく知らないからこそよく知りたい

よく知ったからといってよく知りえたのではない
よく

もっとみる
こころ

こころ

あなたは今あなたのすぐ側で強く光るものに

夢中になっている

あなた自身がすぐ側に寄ったり寄せたりするその光

強く光らせているのもあなた自身のようだが

その光の寂しい青白さには気がついていない

澄んだ青空を見上げると暖色に静かに光る星がある

青空に浮かぶ光る星への距離が

あなたとわたしとの距離に似ている

そしてわたしはあなたを光らせる

あなたが空を見上げる頃

空模様も変わっている

もっとみる