見出し画像

【ササキリユウイチ×郡司和斗】川柳を-つくる/よむ/はなす

本記事は、2023年3月発行のネットプリントの全文です。「川柳を見つけて-『ふりょの星』『馬場にオムライス』合同批評会-」に出演される郡司和斗氏とササキリによる。

◯ササキリユウイチ 2023年1月28日21時41分

でかい乳房の色鉛筆を
てにをはと等温の便座を返せ
蚊 まあいいさいずれこいつも思考する

ササキリユウイチ

ボールプールは乳房の理論
でかい乳房にリモコンがない
てにをはとこれまでの便座を許す
てにをはの経験を便座に渡せ
てにをはに照らされた便座の意匠
蚊 まあいいさいづれこいつも受験する
蚊 まあいいさいづれこいつも新連載

 三句、1月28日土曜日の21時ごろに、40分ほどかけてつくった。
だから、一句一句よりまとめての自解(自壊?(感想戦?))っぽくなるかも。
 まず、句はこの掲載順にできた。「でかい乳房の色鉛筆を」は、乳房から浮かんでいた。さっきまで散歩してたんだけど、暗い住宅街の中に、一軒だけ、庭に異常な数の白色電灯つけている家あって(他の家は玄関に一つとかだけど、その家だけ20個くらい柵やらガレージがあった)、そのときに「乳房」が来た。そういえば、胸が大きい女性のヌード写真において、乳房の周辺に影がない、ってことはないな、という気づきがあった。なので、「でかい乳房の色鉛筆を」には黒の要素や影の要素を入れたかった。のだが、難しくて、色と一旦上位概念化して、色鉛筆を連想する、という風にして七七句にした。
 「てにをはと等温の便座を返せ」では、便座の熱についての句を作りたかった。便座と同じ温度のもので面白いもの何かなって気持ちで作ったが、それだけで面白くする自信がなくて「座を◯◯◯」と句跨りさせることを最初に決めた。なので最後の三音と、同じ温度のものを考えた。「等温」は定型の要請。
 「蚊 まあいいさいずれこいつも思考する」、前のヌード、便座のイメージにひっぱられて、長らく使われてない汚い公衆便所を浮かべたら、ボウフラのことを考えてしまった。川合大祐さんの蚊の句にひきつけられながら、自分の「ああ、全然いいよ。イデオロギッシュに寝て待つね。」って句を思い出したのは、〜かあ、みたいな相槌に「か」の音が似てたから。それで、「蚊 まあいいさ」までは「そうか……まあいいけど」を文字にしただけ。蚊をどう料理するかってなったら、思考でもさせておくか、みたいな

◯郡司和斗 2023年1月29日1時8分

さいたまと埼玉 エアコンと川柳
あのバンドさえ雪山の妥当性
俺バカだから温泉は粉の奥

郡司和斗

さいたまと埼玉、レンジ、脱毛器
さいたまと埼玉 血から成る川柳
あのバンドさえかまくらのラタトゥーユ
あのバンド レコンキスタの冬にあり
俺バカだから温泉は粉奥の粉

  【序文】
 これを書いてて思ったんだけど、別にそこまで考えて俺は川柳作ってなくて、狙いとか解釈も割とぼんやりしてる(俳句とかは逆にカチカチに考えて作るんだけど)。ただ、「この辺に球を投げるとおもしろく跳ねるかも」みたいな抽象的な期待はしながら書いてます。もしササキリさんがめちゃくちゃな長文を送ってくれたら自解力(?)が非対称で申し訳ない……いや、そんなことないか……。
  【さいたまと埼玉 エアコンと川柳】
  「さいたま」と「埼玉」の関係性を引きずりながら「エアコン」と「川柳」の並びを読むことで、なんかそういうアナロジーを表現してるのかな? と読み手に思わせておいて、別に何の関係もないところをおもしろがってもらえるかなと思って作った。勝手に意味を見出してくれてもいい。後半部の名詞二つをどうチョイスするかが難しいところ。上記のような味わい方はちょっとメタい文脈を連れてきたほうが誘いやすいかなと思って「川柳」を選んだ。「エアコン」は直感。
  【あのバンドさえ雪山の妥当性】
 案の定『ぼっち・ざ・ろっく』にハマってしまって、最近は結束バンドのアルバムを鬼リピしてる。作詞樋口愛、作曲草野華余子の「あのバンド」が妙に気になってて、曲調も好きなんだけど、「あのバンド」って言い方がなんか好きなんですよねー。「あのバンド」って言うときのプライベート性とか対話感が想起されるところが良いのかな。それでとりあえず「あのバンド」って言葉を使って一句作りたくなった感じ。「あのバンド」って言葉から受け取れる熱を引き立てるために、取り合わせとして「雪山」を選んだ。結句は「あのバンド」と「雪山」の輪郭を少しふやかす役割と語の接着剤の役割を持たせたつもりで「妥当性」にした。あとは音が気持ちいいかなと。バンドーだとう、の繋がり。
  【俺バカだから温泉は粉の奥】
 「照れ隠し感」を出したいんだけど、意味的に照れてる感じを出したいというよりは、「俺バカだから」(元ネタは俺バカだからよくわかんねぇけどよのヤツ)にどういう言葉をつなげるとネットミーム的な言葉を使ったとき特有の照れの感じが際立つのかなあと思って作った句。でも「俺バカだから」単体でだいぶ照れてる感は読み取れちゃうのかな。この言葉って本質的なこととかクリティカルなことを言いたいときにその本気さを隠すために使われるのが多いと思うんだけど、なんかそういう、無知の知を装ったズルさみたいなところに「照れ隠し感」が宿ってる気はする。あとミームとか関係なく自己卑下とか謙遜するときって照れに近い感情あるよね。「温泉は粉の奥」でどれくらいそれを増幅できてるかな。「温泉」「粉」「奥」でイメージをズラし続けながら照れ隠し感の内側へ潜っていく印象が届いていたら良いのだけれど。

◯ササキリユウイチ 2023年2月5日21時31分

 推敲を外部下するということで、添削みたいなことをお互いにやりあうことをやるわけです。郡司くんも直感していたようでしたが、それは題詠のようになるでしょうね。なるべく題詠にならないように気をつけました。要するに、要素はそのままにしたりする。詠み込み系の題詠のように、郡司君の川柳の中に使われている単語をそのまま使って別の句に書き換えるのではなく、自解の内容に沿って添削するわけです。そのためにこの実験的作業には、自解を付してもらっているわけですから。

さいたまと埼玉 エアコンと川柳
(添削例1)さいたまと埼玉、レンジ、脱毛器

 「さいたまと埼玉」に則って、AとBの関係性をやろうとしたのはわかった。そうすることで、さいたまと埼玉の関係性がいかなるものかを断定してやる働きをつくりつつ、AとBの無関係さを曝露する。ただ、さいたまと埼玉の関係性自体がそれほど面白いとも思えなかったのが正直なところなので、むしろさいたまに全て関係させてしまうほうがいいかもしれないと思ったのが添削例1。直感のエアコンに沿ってみたレンジに、脱毛器というちょっとしたひねりを入れてみた。脱毛器にもメタい文脈があると思って。

(添削例2)さいたまと埼玉 血から成る川柳

 さいたまと埼玉の関係性のみに依拠しつつ、「と」には連れていかれないように止めておく方法が添削例2。埼玉の中に、地理的な事実としても、名称としても包含されている関係性から、「から」という言葉を引き出してきた。郡司君のいうメタい文脈としての川柳って言葉を使う一例として、こうしてみた。「力なる川柳」という漢字を開くからの変換の構造を追加してみる感じ。

あのバンドさえ雪山の妥当性

郡司和斗

 まず、自解の「あのバンド」と「雪山」との関係がぜんぜん理解できなかったことを断っておく(アニメは全部見たしアルバムも何度か聞いたのでこの歌わかるけど)。

(添削例1)あのバンドさえかまくらのラタトゥーユ

 あのバンド、のプライベート性が、雪山と妥当性が硬めの言葉であるがために損なわれているかもしれないと思って、かまくらと柔らかくしてみた。ラタトゥーユは、かまくらのなかにあってもよいな、という意味では近すぎるきらいもあるが、音に特化したときにこの辺りかなと思った。

(添削例2)あのバンド レコンキスタの冬にあり

 完全に添削が題詠と化した方のやつ。だとうの心地よさと打倒!のイメージからレコンキスタを持ってきた。レコンキスタはかなり長いから冬はいくつもあって、雪山の妥当性を訝しむときの気持ちが重なって選べた。

俺バカだから温泉は粉の奥

郡司和斗

(添削例)俺バカだから温泉は粉奥の粉

 初句七音のリズムで素直に気持ちよくハメていいと思った。奥へ向かっていく感じが、初七のリズムのリフレインに重なるかも、粉はダメ押しで重ねるといいかも。これが一番添削としてはしやすかった。なぜだろう?

◯郡司和斗 2023年2月6日17時30分

でかい乳房の色鉛筆を

ササキリユウイチ

 二時間くらいでかい「乳首」の色鉛筆を、だと思ってて、解説にある「乳房の周辺に影がない、ってことはないな、という気づきがあった。」が何言ってるのかよくわからなかった(乳首の周辺に影がない、ってことはないってどういうことだ?)。でも乳首の解像度を高めていく意識は妙にわかるというか、意識の方向づけだけがわかる状態だったんだけど、乳首ではなく乳房だったと読み直して気づいた……という。ってところから考えると、【でかい乳房の色鉛筆を】の別世界の双子として

でかい乳首の色鉛筆を

添削

もワンチャンいけるか……? 「乳首」の方が黒とか影の要素は強まる気はする。でも「乳首」の方がおもしろさは安易になった感じはする。てか乳首はきっと検討したよね?乳房とか影のイメージで何句か作ってみる。

ボールプールは乳房の理論
でかい乳房にリモコンがない

添削

てにをはと等温の便座を返せ

ササキリユウイチ

 初読では「等温」がハマってるか微妙だなと「便座を返せ」の句跨りハマりすぎだろの二つを思った。説明読んだ感じだと、スロットを回すなら「等温」と「返せ」か。便座の温度感を意識して適当に何句か作ってみる。

てにをはとこれまでの便座を許す
てにをはの経験を便座に渡せ
てにをはに照らされた便座の意匠

添削

蚊 まあいいさいずれこいつも思考する

ササキリユウイチ

 川合大祐さんの句は「「「「「「「「蚊」」」」」」」」、みたいなやつよね。まあそれを念頭に置いたほうがおもろい句な感じはする。「蚊 まあいいさ」は縁語的に結構完成されてる気がするから、再考するなら中七下五よね。いやまあでもこのままでいいんじゃない蚊? 「まあいいさ」のあっさりと言い放す終助詞の意味合いというか語り口のバランス感を維持する上で、あんまり他のパーツをいじれない印象。「蚊」と一字空けの浮遊感も一句全体にエフェクトをかけてて、あんまり改造はできそうにない。『ともだちを旧姓で呼ぶともだちがちゃんと振り返る 蚊だよ/北山あさひ』と同じくらいの字空けと蚊の緊張感。思考するだけ変えたパターンだけ提案してみます。

蚊 まあいいさいづれこいつも受験する
蚊 まあいいさいづれこいつも新連載

添削

◯ササ:郡司:

  *
ササキリユウイチ 1998年5月(ほぼ6月)生
 川柳をつくっています。同い年で顔を合わせたことのある郡司くんをお誘いして、一緒に川柳をつくりました。川柳を3句つくって自句解説をしあい、添削しあいました。
  *
郡司和斗 1998年6月生
 詩歌全般に興味があります。自句自解と添削を川柳でやろうとする途方もなさに我々はどう向き合ったか(?)。第一歌集準備中。

   

最後のお話と添削ですが、時間決めてお話しましょう。
一往復目の振りかえりや感想。
新しい2句を持ってきて、
とてもライトにスロット回し合う。
が主な内容でどうですか。
文字にするから、返事にあまり時間をかけない
(要するに時間を決めた)
リアルタイムのテキストチャットでどうですか。
いや、通話でもいいんですけどね!
ササ:

おっけーです。
いつやりましょう
通話でいいですよ。
そのほうがスリルありそうですし。
郡司:

◯郡司:ササ: 2023年2月15日20時−22時X分

郡司:川柳の添削ってやったことありますか?
ササ:やったことないですね。他人と句を提出し合う。そういう普通の句会ってあるじゃないですか。
郡司:ふつうの句会はそうですね。僕は、俳句だとやられたことあります。
ササ:で、句会は添削する場所じゃないですから。評は入れて、ここは微妙なんじゃない?とか、要するに批評的な感じとかはあるけど、こうするといいんじゃないか、って提示するってないですよね。
郡司:川柳では経験したことないけど短歌とか俳句なら、場所によっては日常的に行われてることですね。
ササ :本当ですか、知らなかった。
郡司:俳句ならそれこそ、先生と弟子の関係、カチカチにありますから。僕だったら堀本裕樹さんって人に教えてもらってるけど…、教えてもらっているというか、その人の結社に入ってるんですが。句会では、良い句はいいねって言われるんですけど、微妙な句は、「例えば、ちょっとここはこういう風に動詞を変えて、そうすると1音余るから、描写できることが増えるね」みたいに言われながら、シンプルに改造されますよ。
ササ:確かにそう話してもらえると、想像は難しくはないですね。それは、結社の人たちはいわゆる師弟関係ってものがあるとわかった上でやってるって感じですよね?
郡司:そうそう、わかった上でね。短歌の場合もね、師弟関係とかは関係なく、ある程度関係が出来上がってる場だと、軽くお喋りついでに提案するみたいなのあるかもですね。
ササ:よく出席する歌会で、よく顔を合わせていればってことですよね。
郡司:そうですね。
ササ:最近Twitterのタイムラインで、「なんだかんだ、他人に自分の短歌を添削されたら、どんなに偉い先生相手だろうと、どんなに妥当な内容だろうと、9割の感謝に1割の殺意が混ざりそうなので、がっつり添削していただけるところはやめといた方がいいな自分は、と思っている」(リンク付しております。)というツイートを見たんです。確かに、添削って辛いところもあるんだよなって思って。(いわゆる師弟関係ってものがあるとわかった上でやってるって感じですよね?に引きつけて言えば)例えば「うたの日」で、知らない人に急に短歌の添削が書かれたとしたら、辛いかもしれないです。https://twitter.com/sugartani/status/1623031141455495169?s=20
郡司:「うたの日」だったら、まず、そもそもそういう場所で、ここ直した方がいいとか言われたとしても、そんなに気にすんなよみたいなのがあるじゃないですか。
ササ:そうですね。
郡司:何を言われても、そもそもそんな真に受けることないよ、みたいな……。仮に何か言ってくる人がいたとしても、別にそこまで知っている仲の人じゃないんだろうし、妥当性とか信頼性とかが担保されているわけでもないし。
ササ:それはもはや話題になるべきことでもない、ということですね。さて、では今回の私たちのお話の内容ですが、添削って言っているけど、キーワードとしてはもう一つ、自句解説をすることですね。自句解説は書き手のお気持ちの表明とかではなくて、発想の元とか、作り方とか、そういったところを開示できたらいいのかな、と考えてもいます。
郡司:わかるようでわからない謎の方法論を共有し合っている感じありますもんね。
ササ:そうなんだよ(笑)それに関することで言うと、この郡司くんが最初に送ってくれた、独り言みたいな序文(もしササキリさんがめちゃくちゃな長文を送ってくれたら自解力(?)が非対称で申し訳ない……いや、そんなことないか……。)が面白かったです。やってみたら、ちょうど同じくらいの感じではありましたね。
郡司:割とそうでしたね。
ササ:ぱっと見では、似ていますよね。多分、読んだ人は大体「こんなものか」って思うのかもしんないっていう恐れがあるなと。
郡司:そうですね。コンパクトな感じでおさまっている。
ササ:発想の方法としては、大きな差異はないのかなと思ったけれども。では、郡司くんの方から振り返りましょうか。

   *
郡司:わかりました。「さいたまと埼玉 エアコンと川柳」ですね。埼玉とさいたまの関係性自体がそれほど面白くないっていう指摘は、この句を作る段階で、仮想の評者から言われる評としては、まず最初にあるやつだなって思っています。そこが面白くないと来るか、そこをちょっと面白いと思って、どう広げるかみたいな感じ来るかのどちらかだと。それで今回はあまりハマらなかったから、そのハマらなさを、ササキリさんなりに直すというか、どういう提案があるかというか、そういったものが、どう出てくるかなと思いながら読んでいました。
ササ:傷を自覚しながら句をもってきたわけですね。
郡司: 添削例1の「さいたまと埼玉、レンジ、脱毛器」の方が、発想をむしろ逆転する方向で納めてくれて、元々ある構文を尊重してくれているのが添削例2「さいたまと埼玉 血から成る川柳」でしたね。
ササ:はい、そういうことになりますね。
郡司: 元の句とか関係なくというか、関係はあるけど、それなりに自由にいじくったら、添削例1にしてもらって、埼玉、レンジ、脱毛機になって、普通に面白くなってる気がしますね。なんで面白くなっているのかな。添削例2より、1の方が好きでした。全て「さいたま」に関係させてしまうと書いてくれたけど、僕らのやり取りとかを読まずに、ただこの添削例1の句が出たら、意外と関係性あるふうには読まれないのではないかと思います。
ササ:かもしれないですね。
郡司:はい。それで、読まれないような気がしてた上で、程よい関係性のなさのアイテムが並んでるタイプの川柳になっているなと思います。
ササ:確かに、平仮名の「さいたま」にレンジと脱毛機が従属してるとは読めないかもね。
郡司:それが取っ払って読んだらわかんないってとこですね。それで、添削例1の面白いところをもう少し話すと、さいたま、句読点、埼玉、句読点、レンジ、句読点、脱毛器ときていて、この並びが、フラットな感じになっていますね。「さいたま」にちょっと超越性があるというか、他の後ろ3つの名詞よりも優位な場所にあって、他のアイテム3つみたいなこの並びが、もし大きいグループ、小さいグループとか作るとしたら、漢字の埼玉が、順当に言えば、 最初の「さいたま」の位置に来そうなところを「いや、そっちが最初かい」みたいなずらしがあった上で、レンジ、脱毛器とくる。 そこが面白いと思いました。
ササ :川柳っていう言葉をなくされたことは、素直に、なんか思ったりないんですか。添削をされて、消し去られるということについて。
郡司:添削例1がまあまあ面白かったっていうことで、 川柳(という文字)が消し去られている分を、ある程度チャラにしているというのが、感情の上での話ですね。川柳に限って話じゃないですけど、提案とか直しみたいなのを受けた時に、あまりにもそれが、「何十周も検討しとるわ」みたいなこと言われたら、怒りじゃないけど、「あっ、そう。」みたいな感じになるじゃないですか。それぐらいのテンションで、「川柳」が消し去られてることに対しては、なんとも思わないわけじゃないけど、添削例1の形までが見えていたわけじゃないから、示してくれて、面白がれたから良かったかなって感じです。一方で、「川柳」が消えてることに対するその作品の中の話で言うと、添削例1だと、別物な感じはありますね。
ササ:それは、そうですよね。
郡司:僕が「川柳」っていう言葉を、川柳の中で使ってるっていうことの、雑なメタさみたいなものを、脱毛器で言い換えてくれて、抽象的な要素を脱毛器とに変換してやってくれてると思うんですけど、脱毛器の、メタい文脈みたいなのが、あまり読み取れなかったのはありますね。くて、ぱっと読みだと、はいはいあまあ個人としてはあんまりちょっと 読みが作れなくて、その分そうっすね。かといって、その添削例2なら、 そこが引き継がれてるのかというと、必ずしもそうではないですね。なんか難しいっすよね。
ササ: 「川柳」という雑いメタさっていうのも面白いが、雑いから難しいですね。単純に脱毛は、割と家電に引っ張られていたところありますね。
郡司:なるほど。
ササ:家電に引っ張られて、いや、家電家電ではねえだろ、みたいなのがあったんだけど。ただ、川柳に比す、雑いメタさってかなり難しい。この添削は、結構苦労しましたね。

   *
郡司:では、次の句ですかね。「あのバンドさえ雪山の妥当性」。なんかね、すごい……好きで、「あのバンド」とか、ぼざろ関係諸々。
ササ:笑った。
郡司:ちょっと前にリコリス・リコイルが流行ってて、そっちの方が周りでは人気なんだけど、あまり個人的にはハマらなかった。一方で「結束バンド」っていうか、『ぼっち・ざ・ろっく』は、気持ち悪いぐらい体にフィットしてしまって。ストレスがないようにぼざろは作られてるから、 僕みたいなことを思ってる人が何万人もいるんだろうけど、とにかくその勢いの感じで作ったんで、その勢いの感じを自解の中で頑張って言い訳してるみたいな感じですよね。
ササ :ちょっと関係ないかもしれないけど、24歳でぼざろにハマるっていうのは、「案の定」なのかっていう話がありますよね。
郡司:それは、難ししいよね。僕は案の定だと思ってるけど、世間的には案の定ではないのか。
ササ:自分の周りの20代なので、その近くの人で、例えば小学生の時、けいおん!とかハマってた人たちがぼざろにハマっているっていうのをまだ見聞きしてなくて、案の定なのかみたいな話あるなって思ってます。
郡司:深夜帯で、きららで、バンド系でって、いかにも一旦アニメとか、漫画の文化を 一周か二周し終えた上で、ちょっと新しいものも欲しがってるけど、でも懐古厨的な側面もある24歳ぐらいの男性のなんか、絶妙なツボにはまってくるんじゃないか、みたいなことを思うわけですよ。
ササ:確かに見始めようとは思わないけど、見たら豊富なネタがアニメ中に、ミームっぽい感じで散りばめられてて、そこにハマってくみたいたね。確かに、その意味では見始めたらもう案の定はまるかもしれないね、見始めまではきついかもしれないけど。それで、この句の話をしてもらう前にもう一度、「「あのバンド」って言葉から受け取れる熱を引き立てるために、取り合わせとして「雪山」を選んだ。」の意味をもう少し話していただきたいです。
郡司:これは結構シンプルな話で、このアニメの盛り上がりの、ある種の象徴として、 「あのバンド」があって、その「熱さ」に取り合わせる感じで雪山っていう…
ササ:(笑)
郡司:寒くて雪があってでかい物を探したら「雪山」だなと。「あのバンド」を歌っている少女たちは、まだ本当駆け出しのちっちゃい存在ですけど、雪山はでかくて、神々しくて、寒くて、……みたいな感じの要素と、対比みたいな感じでね、取り合わせられるかな、と思ってくっつけたかな。妥当性は、ちょっと、ノリかな。
ササ:ノリ。
郡司:添削例1の「あのバンドさえかまくらのラタトゥーユ」は面白いなと思ったんだけど、アニメの中で鎌倉出てくるんですよね。
ササ:あれ、どこだっけ?
郡司:まあ、江ノ島なんだけど。
ササ:ああ、エスカレーターね。
郡司:江ノ島なんだけど、鎌倉的なものの一つとして、まあこう江ノ島が出てきてしまうので、 ちょっと近いかなと思いました。
ササ:確かに。
郡司:いやでも、ぱっと添削句を読んでで近い云々を言うの、あんまりよくないのかもしれないけど、ぱっと見だと近いかもしれないと思っちゃいましたね。ただ、変に離れすぎていっても、面白くなく終わる可能性もすごく高いので、ここで鎌倉っていうワードがちょっと出てくるくらいで、「 あ、この人は確実にぼっち・ざ・ろっくから連想して作ってんだな」みたいな、人によってはそういうオタクくんのノリ的な、嫌な思いする人もいるかもしれないけど、そういうのが好きな人は、それを踏まえた上で楽しんでくれるかな、と。ただ鎌倉(の漢字)が開かれてるのも可愛いな。
ササ:「かまくら」って、あの雪の家の方のやつね。
郡司:え、あ、そっちか。
ササ:そっちを浮かべてたから、神奈川県を浮かべてなかったなっていうのがあって、でも、確かに鎌倉が鎌倉って読んだら近いし、 真剣に見てると、神奈川の鎌倉にピンと来て、ハイコンテクストを感じるっていう向きもあるなと思いました。
郡司:雪の方で解釈すれば、雪山っていう言葉を使うより、同じような属性の取り合わせでありつつも、ちょっとポップ寄りになるみたいな感じですかね。
ササ:そうですね。でも今思ったんですけど、あのバンドが今は活火山みたいな最初の輝きがあるけど、この後大成していくんだろうなっていう、その熱の感じ方が郡司くんは強すぎて、雪山じゃなきゃ相殺できないんだけど、私は「かまくら」程度で相殺できるって思ってんのかもね。
郡司:なるほど。
ササ:「あのバンド」っていう郡司くんの好きな曲の熱が、かまくらと雪山で全然違ってきてんなって、聞いていて思いました。
郡司:それはちょっと面白いな。なるほどね、まあ、ありますね。で、添削例2「あのバンド レコンキスタの冬にあり」も一応、雪山的な要素を引き継いで、レコンキスタの冬にあり、でやってくれているということですよね。この句では、雪山がかまくらに変化したのとはちょっと変わって、妥当性がレコンキスタに入れ替わったみたいな感じか。
ササ:そうですね。
郡司:なんかかっこいいっすよね、こっちは結構意味が個人的には通ってると思うけれども、「あのバンド」っていうのがレコンキスタの冬にあったっていうか、いたっていうことですよね。そのまま読めば。で、レコンキスタと言われると、歴史化される面白さとか、時代背景的に、あるいはそういう世界観に「あのバンド」って存在できんのかよみたいな面白さが浮かんでくる。冬の中にバンドのメンバーが強面で、楽器背負いながら佇んでいる感じ。そういうのが浮かんできて、結構面白いなって思いますね。これは、変な絵画みたいな。
ササ:でも、それでもなお、雪山の妥当性が好きみたいなところはありますか。
郡司:雪山じゃないとやっぱり打ち消せないんすかね、バンドは。
ササ:(笑)ところで、ラタトゥーユとかは、ゴミ……、ゴミというか、まあ埃みたいなもんですよね。
郡司:ラタトゥーユってどういうノリなの(笑)
ササ:これは(妥当性の)音は気持ちいいって郡司くんが書いてくださっていたから、本当に音が気持ちいいっていうこと以外を考えずに、 言葉を探したんだけど、もちろん妥当/打倒っていう音を踏まえて、AOUって入っている中で一番気持ちいい音を探しただけです。もはやラタトゥーユってなんだっけともなっていました。
郡司:まあでも、添削例1を採用するとしたら、ラタトゥーユのことはよくわかってないけども、勢いっていうかね、語感で選んだ意図をうまく読み取ってもらえれば、結構うまくいってるとは思うんですよね。 妥当性とか雪山もノリだし、結局僕は、あのバンド(曲名でありつつ僕にとっての結束バンド)のグルーブの感じというか、ノリを増幅でたらいいと思っている句だから、ラタトゥーユあたりの納め方で、よくわかんないマジックがかかるなら、エフェクト発動してるなら、もうオッケーって感じです。ただ、この2人の間だけでその効果があるかないかみたいなのは、なかなかこう、永遠に答えの出ないかもしれないですけど。
ササ:元の句「あのバンドさえ雪山の妥当性」だったら、「あのバンド」が鍵語だな、キーワードだなって思えるけど、 添削例1だとこの3つの語のどれが鍵語なのかわかんなくなっちゃうっていうのは思ったりして、それで微妙かなとかはありますね。

   *
ササ: では、「俺バカだから温泉は粉の奥」行きましょうか。
郡司: 添削例は、「俺バカだから温泉は粉奥の粉」。いい意味で、うん、笑った。くすくすっていう感じで、奥っていう言葉が個人的にはもうオートマチックにウケてしまう言葉なんですけど。
ササ:なんでだよ(笑)
郡司:なんでだよって話なんですけど、普通に使う場面もあれば、ちょっと下ネタの文脈とかで使うこともあったりとか、色々なんかあると思うんですけど、奥は謎のフェチがある言葉ですね。添削例だと、奥のパワーが増幅してるような感じがする。というのは、「温泉は粉奥の粉」って、粉の方にこう視点が当たっているように見えるけど、二段階で温泉は粉って言った後に、奥の粉って出ると、元句の「温泉は粉の奥」よりはもう1個奥行きが増えた感じがして、構造的に。意味的な奥に加えて、一句を読み下してく中でのレイヤーも一層増えた感じがする。だから、奥を活かしていく方向でいくなら、成功してる添削の感じがしますね。ただ説明文を読むと、「俺バカだから」の方の気持ちよさをさらに良くしていくために、直したんですよね。で、その上でまダメ押しで粉を繰り返すみたいな。
ササ:それもあるね。
郡司:なんか納得があるんだよな、なんでだろうな。
ササ:やっぱそれは、定型にしたからなのかなとも思うんですよね。 775っていう音にしてあげたからハマったんかなとは思うんだけど、そこはどうでしょう。
郡司:元のやつはあれだよね。 句跨りの755で575定型にしていて、添削例では775にしていて、その方が脳の裏に流れている定型感覚というか、韻律的には初句5音分のところに7音収めようと思って読む分、「俺バカだから」がきゅっと、圧縮して読むわけですよね。だから、その分のスピード感っていうのが、より気持ちよさとかをハメていく感じに繋がっている。その効果が如実に出ているのがわかりやすいから、うまく直せたというのものが出てくるのかな。
ササ:なるほど。やはり説明文を読んだからね。「俺バカだから」って括弧でくくられちゃっていて、句跨りの俺バカだ、から、と音数を割っていくのもどうかなっていうのもあって。自解があったからすごいやりやすかったのかもしんないな。
郡司:こんな感じ、ですかね。
ササ:郡司くんの3句の自解は、川柳をやっている人が読んだら、参考になると思いますよ。ちょけていないっていうか、「作り方は忘れましたね(ドヤ)」「作った時のことは忘れました」っていうのがないから、すごいいいなと思いました。それに、それでいいんだと思わせるような、自解題だったかなと思いました。
郡司本当の本当のことを言うと、つくられる瞬間って何か狙いがあるわけではないじゃないですか。いや、難しいなこれ、人によるのかもしれないけど。浮かんでくる瞬間って謎のジャンプは起きていると思う。んで、そのジャンプの時に頭の中でどういう神経が瞬間のうちに働いているのかを一生懸命言語化するみたいな感じで、自解は書いたんですけど。なかなかね、どういう語り口が最もうまく 言い表しているのか、難しいですよね。この前神保町の古本屋でユリイカのめっちゃ前の号を見つけて、そこで吉本隆明が「自分の書いた詩を説明できないやつはクソ」みたいなことを言ってて、説明が何を意味してるのかがちょっとよくわかんなかったけど、 とにかく出来上がったものに対して「ちょっとあのー… わかんないっすね。」みたいなとぼける奴はダメって言っていて。それは言い過ぎじゃない?と思ったけど、なんとなくわかるところもありますよね。自分の思索をブラックボックスのままで突き通すってのは、ちょっとなんか違うんじゃないか、というのはわかる。
ササ:添削されたくないって強く思う人、ある意味、極端に説明できるということなのかもしれないですね。
郡司:なるほど、言葉が自分のコントロール下で、限りなく100パーセントに近いところでやってるからこそね。
ササ:もはや、実はジャンプしていることに気づいていないということかもしれない。これは、 大事なちょっと大事な話をしたかもしれないです。

   *
ササ:では、「でかい乳房の色鉛筆を」。もちろん乳首は検討しましたね。乳房を乳首と空目したからと言って、2時間悩む理由にはならないだろっていうのがちょっとまず面白かった。で、そうね、結論から言うと、 「ボールプールは乳房の理論」が良さげだったかなと思うんだよね。で、乳首の方が面白さは安っぽくなった感じがするっていうのは、さっき添削される時に通ってきた道みたいな話してくれましたけど、それに近いですよね。そうなった時に、ボールプールと理論っていうのは、すごい面白かったですね。黒とか影を入れたいって要望がある時に、乳房の周りに影があるっていうことのどうでもいいこだわりみたいなところを、理論と言ってくれたところで回収してもらえた気持ちがあって。
郡司:あー、なるほど。
ササ:「影がないんだことを発見したんだ!」っていう気持ちをうまく救ってもらえた。
郡司:気持ちがあって、理論の方か。はいはい。
ササ:そうそう。それがすごい良くて、で、検討した乳首は、ボールプールと呼ぶこともできるよって、ご教示いただいたっていう感じがしてとても良い。「でかい乳房にリモコンがない」は、本当に意味がわかんなかったな、読みきれなかった…。それで、「ボールプールは乳房の理論」は私の七七句として、胸に備えておきたいと思ったりします。理論っていう言葉の使い方が、意味のわからない発見(を句にするとき)に使いやすいんだろうなっていう気づきを得られた。とてもよかった。
郡司:黒とか、影とかを出すために、でも直接黒とか影を言わずにちょっとイメージさせたい、そのために鉛筆を使ってたっていう話だったから、その言い替えとして、ボールプールのカラフルを入れ替えて、で、句全体を引き締めるために理論ってとりあえず入れたんだけど。でも理論が結構はまったっぽくて、なんか良かったです。
ササ:確かに色鉛筆がボールプールったら、そうだよね、ああ、そうか。あー、添削された句の読みに対しても、意味のない乳房の周りの影に囚われて、 ボールプールも読解しているってことに、ちょっと恥ずかしさを覚えました。
郡司:(笑)恥ずかしいことではないですよ。
ササきっと検討したよね?は、これをもし読んでくれてる人がいたら、反芻してほしい、 きっと検討したよね?って自分に言ってほしいなと思います。

   *
ササ:で、次の「てにをはと等温の便座を返せ」。ここで初めて郡司くんから「スロットを回す」っていう言葉が出てくるんだけど、そういうイメージはよく使うんですか。
郡司:スロット回すは言いますね。僕個人がこういう言葉をよく使うというわけではなく、改めて思い返すと歌会とかで自分に限らず、色々な人が言っている言葉ですね。
ササ:動く、じゃないんですね。
郡司: ルーレット回ってて、どこをピタっとこうハメるかみたいな感覚っていうのが、 ギャンブルに近いけど、でも、技術ももちろんいるっていう、あの絶妙な感じと繋がるんですかね。
ササ:確かにね、実は優しい言い方かもね。偶然性と、ついでに主体性も大事にしてあげてるみたいな。
郡司:そうそう。
ササ:それで、添削を読むと、等温と返せが回せるっていうのは納得しています。それで、これ私がこういう句が好きなんだと思うんだけど、「てにをはの経験を便座に渡せ」が一番です。自分が好きな言葉に近いと思ったんですよ。だから、 添削で尊重しようとしつつ、照らされたとか、経験とかって言葉をどうやって持ってきたのかなってことが気になったりしました。自分に寄ってきてくれた添削っていう感じがしましたね。
郡司:元の目指してる抽象的なイメージは、できるだけ共有しながら作り変えたいなみたいなのはあって、それはもしかしたら、自分の発想を飛ばす作業を節約してるだけなのかもしれないんですけど。
ササ:うんうん。
郡司:「経験」に関しては、てにをはのなんかの要素と、便座のなんかの要素がイコールになっているみたいな関係の句が元で、これをちょっと違う方向から近づけるために、てにをはが持っている謎の「経験」を渡すとする。そうすると便座も共有するってことになっているので、 何か似通っているみたいな。なんとなく渡せの方が返せより、ちょっと柔らかくなんのかな。照らされたとかは、てにをはそのものが便座を照らすっていう、シンクロする感じ。等温っていう語がハマってるかなっていうとちょっと微妙だったかなって、個人的には思ったけど、イメージの次元だとすごいよくわかったんで、そこを自分なりにすり寄せてみたって感じです。
ササ:良い添削例だと、もうシンプルに思いましたね。ありがとうございます。で、最後「蚊 まあいいさいずれこいつも思考する」いやまあでもこのままでいいんじゃない蚊?っていうことを思っているからこそ、郡司くんは受験するとか、新連載っていうちょっと俗っぽいところを持ってきてくれたのかなって思いながら読みました。 これ思考するだと硬い感じがして、ちょっとずらしてみてくれてってところはあるんですか。
郡司:そうですね。いずれこいつもっていう繋ぎ方がかしこまってる感じがしたんで、もうちょっとふざけてみたみたいな。
ササ:そうですよね。このままでいいんじゃない蚊?は嬉しかった。感情面で言うと、やっぱり他の二句は助けを求めにいったって感じがある句を出してみたけど、この蚊の句はある程度決まったな、みたいな、自分の言葉で決まったなみたいな感覚があるからこそ、その感覚が一致してくれると嬉しいっていうのは素直に思いました。この感情の話は、発見でもなんでもないけど、素朴な発見です。
郡司:数句出して選をするとかじゃないから、いいなって思った句に、添削っていう体を守りつついかにして、でも良いと思ってるんだということをなんとなく遠回しに、いかに伝えるかみたいなのありましたね。
ササ:ありがとう。ところで、シンプルに気になったんですけど、郡司くんは『はじめまして現代川柳』は持ってたりするんですか。
郡司:持ってます。もうあれ読んで、本当にあまりにも知らないことが多すぎて、架空の歴史を読まされてんのかと思った(笑)。
ササ:マジで知らない名前が多いし、知らん名前の人がなんかめちゃめちゃ伝説みたいに扱われていて、 なんだこれみたいな風になりますよね。
郡司:ちょっと衝撃だった。
ササ:もう誰が生きてて、誰が死んでんだとか思って、最初。
郡司:そうそう、わかんないわかんない。
ササ:だから、そうね、川合さんの蚊の句をわかってもらえて、嬉しいですね。
郡司:この句はなんか有名だよね。
ササ:そうですね、 逆に私この北山さんのは知らなかったんだけど、なるほどねという感じです。
郡司:結構あの北山さんの蚊の歌は、北山さんの歌の中でもある程度知られています。北山さんはここ数年でぐっと出てきた人だから(あくまで短歌オタクではない人へ向けての言葉)、認知がなかなか難しい人かもしれない。
ササ:あれだよね、なんか、菱形みたいな表紙の歌集の人だよね。
郡司: そうそう、『崖にて』

   *
ササ:俺さ〜いつも一人称俺なのに未だに頑張って私に直そうとしててさ。録音聞き返すのやだなと思って、もう多分ちょこちょこ俺って言って、気づいたら私って戻してるからさ。文字起こしでは全部私ってなおそって思ってる。
郡司:私に直したいのはなんかものが言いやすくなるとか?心理的に。
ササ:そんななんか深いわけじゃなくて、もう社会人で社会で俺って言ってると変わった人間だと思われるから、得しないっていうそれだけで、友達の前では俺でいいんだけど、なんかこう、仕事中にお客さんと話してる時に俺とか言いたくないから、でも言いそうになるから。
郡司:言ってないんだよね?その仕事中は。
ササ:客先では私って言えてるけど、もう内部では俺って言いすぎちゃって。
郡司:なんかフランクでいいっすね。「俺」で内部ではいいみたいなの。結構あるじゃないですか、内部でも私って言わないとちょっとやばいみたいな職場。全然ざらにあると思うんすけど、フランクな方の職場じゃないですか。
ササ:なんてね、雑談している内に二句を今から送り合いましょう。
郡司:これあれか。やばいやばい。
   *

即興で2句を/なおす

   肉も持ってる貞操という名の氷
   脇汗が澄んだエレベーターにあり/ササ:

ササキリユウイチの提出2句

   かけ算の前に兎……
   ネジはネジでも郷愁のほうを食う/郡司:

郡司和斗の提出2句

   *
ササ:これから、あらかじめ作ってきた川柳を二句送りあって、自解してもらって、その場ですぐに添削するという遊びをやります。じゃあ自解しましょうか、1句ずつ交互に説明するという形にしましょう。さて、「肉も持ってる貞操という名の氷」は、まあ、完全に「あのバンド」の句にやられていまして。けいおん!の「GO! GO! MANIAC」に「誰も持ってるハートっていう小宇宙」っていう歌詞があって、 で、小宇宙っていうのを完全に別物に言い換えて氷にして、定型の要請に合わせて、汚く仕上げたっていうだけ。この曲結構好きだったから、ぼざろ見た時もやはりけいおん!思い出したりして、 聞き返したりしてたから、それで釣られた。
郡司:あれだよね、けいおん!の二期の方のオープニング。本当に歌詞が何言ってっかわからない、伝説の曲。
ササ:そうです。
郡司:「かけ算の前に兎……」。これは日比野コレコさん「ビューティフルからビューティフルへ」を読んでいる時に、かけ算っていう言葉だけやたら頭に残って。かけ算ってなんかそう言えば可愛い言葉だなみたいな。足し算とか引き算より調子に乗ってる感じが可愛いなと思って使いました。で、なんかそのままかけ算の可愛さに、兎支なんで兎を持ってきて、で、ちょっとそれだけだと足りない気がして、3点リーダをつけた。作りながら同時に思ってたのは、川柳で超短くしたり、超長くするのって結構むずいなみたいな。
ササ:あー。はいはい。
郡司:例えば短歌だったら、例歌がぱっと浮かばないけど、温さんっていう人が作った「辛いもの食べたい 辛いもの食べたい…」っていう短歌とか。長いやつだとフラワーしげるの短歌とか想像すればいいと思うんですけど。短歌ってなんか短かろうが長かろうが、これ短歌だなと感じるんですけど、川柳でめちゃくちゃ長くなったり、めちゃくちゃ短くなったりした時の「あ、これ川柳だな」みたいなのものを感じ取るポイントを探るのが難しいって思いながら、この短さになったり。
ササ:はいはい。これを川柳として感じるのは意外といけると思ったりしています。これ、評をする場面じゃないから、今こうやって話しながらごまかしながら添削を考えてるんだけど。かけ算。自解を言われちゃうとさ、これは動かせないね。
郡司: そうそう、だから、考えてもらうとしたら、兎の部分をどうするかなみたいな。
ササ:なんでこれが川柳だといけるかって考えてみると、やっぱり大事にしたいのは、かけ算の前に兎、で5音6音ってきていて、で点々があるから、意外となんか七七句っぽい気持ちで読めはするんですよね。例えば最初に兎→おはじきとか浮かんだんだけど、ただ、兎をおはじきの4音にしちゃうと、かけ算の前におはじき…。「…」が最後の5音の場所に回収されちゃうから、 一気に読めなくなったりして、すごいやだなと思う。だとすれば、

かけ算の背に気球……

(添削まで4分経過)。

郡司:うわ。なんかすごいぽくなって、ちょっと待って、これすげえぽくなった、うわ、びっくりした。
ササ:「前に」っていう位置関係の言葉が出ていて、そこの「背に」した。気球。まあ、「前に兎」の6音がハマってるんだから、5音もハマるだろうみたいな感じで。で、気球は3音なので、(もしこれが気に入らなければ)「背におはじき」、おはじきじゃなくてもいいけど、別の4音を入れられる余地を残しつつ。気球って入れとくけど、気球のスロットを回した時に4音を入れられるようになるという。これを提出しておきます。
郡司:いや、これちょっと手に汗が。「背に」が絶妙にほどほどにいいのは、 かけ算っていうのは、あくまで実態があるものじゃなくて計算処理の云々なんですけど。それに「背に」って言われると、突然身体の感覚がついてきて、面白いわけですよね。で、そこにとりあえず気球って暫定で置いて、空間的な広がりが出てくると。…僕、今とっさにこれが出てきて、すごすぎてびっくりなんですけど、僕の「前に」っていうのがなんか絶妙にね、「言えちゃう感」がありましたよね。かけ算をする前に〜みたいなとか、かけ算の授業の前に〜みたいな感じで、捉えやすすぎたんだけど。「背」がいい感じだなと思ってよかったです。
ササ: 気球はあれだね、兎から飛ぶってイメージを持ってきたってだけで。以上ですね。そうだ、申し訳ないなと今思ったんだけど、「肉も持ってる貞操という名の氷」はなんでこういう言葉を持ってきたかはあんまり言ってないから、解説しようかなと思ったんだけど。
郡司:あ、じゃあちょっと喋ってもらえますか。
ササ:最初出てきたのは、肉だったんです。で、肉からやっぱちょっと貞操みたいな言葉が浮かんできて、っていうのも、女性器のイメージが浮かんできて、それで普通に貞操と落ち着いた。ハートがあったからね。汚い言葉を入れたいなと思ってやっているわけだから、それ系の言葉を浮かべてるから、こうなっている。氷はま、もちろん「あのバンド」句の雪山とかから来てて、 もう冷えるものって言ったら、雪とかかまくらしか浮かんでこない人間になってしまったわけです。
郡司:これ「という名の氷」が好きで添削が難しいんですよね。名の氷はほぼ動かない気がするんですよ。上五中七次第だけど、どうなんだろう。上を全部変えちゃうか。上で微妙に汚い感じのイメージで来たからこそ、やっぱ氷のきらめきが映えるというか、一際輝いて見えますよね。本当にこれ直すなら、もうそういうイメージのお題をいただいて、自分で句を作る感じかな。
ササ:道徳感をシバくみたいな感じですかね。
郡司: うーん。
ササ:一旦先に進んでもいいですよ。
郡司:じゃ、ちょっとエレベーターのを話してもらえますか。
ササ:はい、「脇汗が澄んだエレベーターにあり 」。これは調子こいて、「便座を返せ」の時に句跨りいいじゃんみたいなこと言われたから、句跨りしたくなって、これ仕事してるときに作ったんだけど、 ちょっと業務で焦ったことがあって、脇汗をじわっとかいて。脇汗ってつーって垂れるんですよね、肌着を着ていないと。で、そのなんか上下移動と脇汗って、な意外とにじみそうだが、馴染みそう。澄んだ景色だったら、染み込まず垂れてくから、それと重なって、澄んだっていうのは何もない、脇汗を阻むものが何もないみたいなイメージ。それでガラス張りのエレベーターとイメージが繋がって、脇汗の身体感覚と合致してたから合わせました。脇汗は安牌﹅﹅かもしれないな。
郡司:何の説明も受けずにぱっと読んだ時は、エレベーター「にあり」の部分の最後の終わらせ方が、ちょっと適当かなとも思いました。
ササ:そうだね、もう前提すぎてあれだったけど、確かに「あり」はもうひどいかもなとは思う。 私結構やりますよ。 ありっていう終わらせ方。
郡司:そう!結構やるなと思ってて、でも、なんか意外とやる人がいないから、川柳の中で レアだなって思ってたんですよね。レアだなっていうか、なんかその方向でアプローチするんだなみたいな。
ササ:なるほど、そうなんですね。
郡司:いくつかまとめて、ちょっと入れ替えたやつ送ってみました。

脇汗が澄んだエレベーターの癖
アトピーが澄んだエレベーターの癖
脇汗の凍ったエスカレーターよ
脇汗が凍るエレベーターの癖

ありを癖にしたパターンと、澄むが凍るパターン、脇汗じゃなくて、アトピーにしたパターン、エスカレーターにしてみちゃったパターン。
ササ:はいはい。エスカレーターにしたのって、「よ」を持ってきたかったからっていうのもあるんですか。
郡司:そうですね。変な要素をもうなくして、付属品はもういらないかみたいな。もう音数増やして「よ」で言うかみたいな。そういうノリかな。あとは、その句跨りのところは残しながらね。
ササ:郡司くんがこうやってつくる時って、「よ」とか「あり」とか自体を省いたりする方向あったりしますか。
郡司:うーん、あるかもな。
ササ:なんかそうかもなとかちょっと思ったりしていたんですけど。
郡司:ありってなんかね、難しいと思うんですよね、やっぱね、難しいと思っちゃうはず。無難に謎の名詞とか置いた方が安牌なんですよね。いや、ここ難しいんだよな。
ササ:尊重がうまいですね。それ場数の問題なんすかね、 郡司くんの添削は尊重がうまいなと思います。
郡司:尊重は、あんまり発想が飛ばないだけのような気もするけど。
ササ:あー、そういうことか。
郡司:でも時間があれば、やっぱり題詠的なものができちゃうのかもしんないね。大体時間置いちゃうと、時間置けば置くほど、だんだん離れて題詠化していく感はあるから。すぐに何か出すってなると、もうあるものから頑張るしかない。題詠化すると、 全くゼロベースの自分が考えたやつを添削という体で出すみたいなね。
ササ:そうですよね。これ脇汗からアトピーの置き換えは、どういう感じなんですか。これ、すごい身体感覚としては、めっちゃわかるみたいなのがあるんだが。なんで私がわかると思ってるのか、あんまりわかんないんだけど、どういう飛び方なんですか、これ。
郡司:脇汗に近い、痒みとか不快感みたいなもので、アトピーあるかなみたいな。ていうか、澄んだと脇汗はちょっと近いかなと思った。汗の透明な感じに寄って。で、そこをちょっとだけ離したいかなと思った時に、アトピーみたいな、皮膚に直接ぶつぶつとしてあるもの持ってきて、それが澄むってやった方が、アトピー越しに、体ごと透けてるような。バーチャファイター4に出てくるラスボスの透明な女の人(デュラル)みたいな。あと、天気の子の、ほら、主人公の女の子が終盤の方で体がちょっと透明になるみたいなところあるんですけど、それを少しこう、何枚かごしに想像させる感じみたい。
ササ:はいはい、なるほど。端的に言って、いいと思いました。このアトピーが澄んだっていうのがね。自分の作品にしちゃいたいかも、みたいな魅力ありますね。
郡司:そんなそんな。別に褒め合いたいわけじゃないけど、そんなこと言ったら、さっきの、かけ算の句の方がちょっとビビったけどね。その場の瞬発力で、どうしても頭がこり固まるところを、もっていない発想をもらうっていうのは、なんかすごい気持ちいいんですよね。
ササ:それは、俳句でも短歌、句会でも歌会でも経験が何回かある?
郡司:なんかね、こういう快感はないんだよね。俳句は割と凡ミスみたいな、凡ミスっていうか、なんだろう。順当に考えていけば、何時間後には気づけた省略とか、そういうレベルのを直されたりする。短歌の場合は、逆に正直何を言われても、全く納得しない。この2パターンなんだけど、川柳では、返しをもらった時の「お。脳みそ増えた」みたいな気持ちよさがちゃんとある。
ササ:短歌はないのね。
郡司:あくまで僕の場合はね。短歌の場合は、あんまり何言われても納得しないかな。Youtubeに上がってる再生回数4000ぐらいのカラオケ動画みたい納得感、ハマり具合。
ササ:(笑)
郡司:あの、ハマってない感じみたいなの。短歌の添削ではされると思う。じゃあ、次いきますか。「ネジはネジでも郷愁のほうを食う」。作った時のエピソードはなくて、というか思い出せない。自分で自分のこの句の自解っていうか、批評っていうか、どこを面白いと思って作ったのかなって考えることにします。この世にはたくさんいろんなネジがありますけど、ノスタルジーを感じるネジを食べる…、 ネジの中にの色々な区分けがある中で、ノスタルジーのネジがあって、で、ノスタルジーのネジを食べるのって、3歳ぐらいの頃のあの感じが蘇らないかな、みたいな。そういうつもりで書いたのかもしれない。
ササ:……なるほど?添削……頑張ります。いや、なるほどね、うん、言われなきゃわかんないことってあるな…。じゃあ……

螺子小箱Absoluteを打つ響き

郡司:(爆笑)
ササ:難しいよこれ。まあ、もうなんなんだよみたいに思ってもらっていいです(笑)。最初思ったのは、食べるは順当に打つ、でもいいかなとは思ったりしました。ネジだし。打つを導いても、そんなに怒られないだろうとは聞いていて思いました。 ネジっていう単語の均一性みたいなものがあって、川柳ぐらい短い文だと ネジの固有感が浮かんでこないから、郷愁だとちょっと足りなかったかなと考えました。そのネジだけ形なり記憶なりが違うんだっていうのがわかんなかったから、そこを強めて絶対者とか神みたいなものを持ってきたかったんだけど、絶対者じゃハマらないと思って、絶対者の英訳であるアブソリュートを持ってきて、打つと締める。 だけど、打つにして「方」を入れないとすると、 音が足りなくって仕方ねえから響きは入れた。だから、響きは結構仕方ない感じ。私だったらこれ「響きあり」にしちゃうんだよなとか、あとは「谺あり」とか。
郡司:「響きあり」はいいかもしれない。
ササ:例えばなんか「さざ波が」って終わらせるとかかな。わかんないけど、なんかそういう余韻がある終わらせ方でもいいんだけど、 響きあり、とかがいいかもね。螺子小箱はAbsoluteで硬くなったからついでに硬くした。本当は、固有のネジを取ってくるっていうイメージを探したかったんだけど、すぐには浮かばないから体言止めで終わらせたっていう感じ。
郡司:なるほど、なんかこのぎちぎちの感じが面白いっすね。
ササ:ぎちぎちだよね(笑)
郡司:割とササキリさんの句を読んでて、ぎちぎちで行くか、スリムで行くか。触れ幅はなんかあるなと。
ササ:自覚ありますね。
郡司:いや、しかし、Absoluteがガチでおもろいな。
ササ:ノスタルジーに1回したっていうのはあるね。
郡司:あー、変換して変換してって感じね(郷愁→ノスタルジー、絶対者→Absolute)。いやなんか、だってさAbsoluteって遊戯王でしか聞いたことないよ(笑)。響きありのパターンも時間があれば作ってくれると嬉しいかもしれないです。となると、最後に残されてるのが「肉」ですね。これでいきます。

ゼリーも持ってる親権という名の炎

ササ:お。解説をお願いします。
郡司:元句の下五は結構お気に入りだったんだけど、あんまりそのままでもちょっと芸もなく、 俺の直しが面白くなさすぎるので、まるまる反転するようなイメージで作ったかな。ま、そんなに全部が全部反転してるわけじゃないけど。肉からさらに崩れて、ゼリーになって。貞操は、親と距離を置きたくなる系の領域、っていうんですかね、親には隠しておきたい領域的な部分なので、そこを親権に置き換えて。氷は炎に。字面だけ見ると安易な反転に見えなくもないんだけど、元々の句の発想が『けいおん!』から来てるってことだったんで、今回こっちはそれに答えて、やっぱもう1回『ぼっち・ざ・ろっく』と思って。
ササ:(笑)
郡司:(結束バンドの「ひとりぼっち東京」という曲の)歌詞で「わたしの中に青い炎があるから」ってのがあるんすけど、 なんとなくそこのイメージを感じながら、ゼリーによって絶妙に真っ赤ではなく、ゼリー越しの、ゼリー越しというか、「ゼリーも持ってる親権」越しの、緑色か青に歪んだような炎を見せることができたら、ぼざろのイメージに僕の中では合っているという。
ササ:炎とゼリーで確かに氷のイメージを担保しているところはあるなって感じ。親権っていうとか、親って出てくるのは貞操っていうところに繋がる。なるほどねって感じですよ。
郡司:貞操もある意味親権的な領域の保護下にあるようなワードっぽいから、反転されてるワードではないんだけど、気分の上では貞操とか、親とか関係なく、個人がそれぞれ本来的には捨てたり、守ったりすればいいものっていうプライベートなものと、なんかこうめちゃくちゃ子供をコントロールするじゃないけど、庇護下におく。親権は対比的に置いたぐらいのつもりですね。
ササ:ありがとうございます。
郡司:最後のこれがなかなか思いつかず、ちょっと待たせてしまいました。で、そうしてるうちにね、ネジの句がもう1個できてると。
ササ

前世はらんどせるとふ螺子の響きあり

では、郡司くん、ありがとうございました。
郡司:ありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?