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【作り話】うめにウグイス

「ホーホケキョ」

あら、きれいな歌声ね。

「ホー、ホケほけほけきょ」

ふふふっ。こっちはホウ助の声。ずーっと練習してるけど、全然うまくならない。いま、演劇部のミーティング中だけど、ホウ助、女の子にちょっと笑われてるよ。

ホウ助とは、巣がご近所同士の幼馴染。小さい頃から「うめちゃん、うめちゃん」と懐かれ、何をするにも一緒だった。
私たち鳥の世界にも学校があり、私とホウ助は同じクラス。帰り道も一緒だから、付き合っているんじゃないかってクラスメイトにうわさされている。残念ながら、付き合ってはいない。そういえば、この間の帰り道で、あいつ「実は気になってる女子がいる」って言ってたな。誰だろ。

去年の春、私とホウ助は同じ学校に進学して、私は演劇部に入った。ホウ助は合唱部。理由を聞いたら「モテたいから」だって。私が「ホウ助は音痴なんだから、運動部に入ったほうがましじゃない」とアドバイスしたら、なぜかちょっと怒られた。「ウグイスのオスは、歌がいのち」らしい。

モテたいって、誰にだろ。
そういえば最近、同じクラスのあけびちゃんが、よくホウ助のことをちらちら見てる。あけびちゃん、ちょっと地味で大人しめな感じだけど、羽の色がすごく綺麗な美人さんだ。鈍感なホウ助だから、気づかないかもしれないけれど。もし気づいたら、ホウ助は単純だから、すぐに恋に落ちちゃうかもしれない。落ちちゃったらどうしよう。気になってる女子って、あけびちゃんのことかな。そうだったらどうしよう。

こんなこと考えて、私、ホウ助のこと好きなのかな。
この間、ホウ助が歌のことで悩んでいたとき、「私は結構好きだよ」っていったら、すごく恥ずかしくなった。「歌が好き」って意味だったんだけど、これ、告白みたいじゃん。ホウ助は「ありがとう、うめちゃんはいつも優しいよね」って、やっぱり鈍感だから、気づいてないみたいだったけど。

好きになっちゃってたらどうしよう。
付き合って、デートとか考えられない。そもそも、気になっている女子がいるってことを私に話すくらいだから、私のこと、恋愛対象として見ているわけがない。だから、告白してもきっと振られる。そうしたら、もう幼馴染にも戻れない。

「ホー、ほけっきょ」

あ、ホウ助の声。よく聞いたら、去年よりちょっとうまくなってる。誰のために、こんなに必死に練習しているんだろ。焦る。ミーティングにも全然集中できないや。
どうか、私以外の子のためでは、ありませんように。
私以外の子が、ホウ助に気づきませんように。

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