関西男 できない恋愛相談編

なんか気まずい。
この気まずさは、初対面でお互いに話したいけど、何を話していいか分からず、沈黙を破れずにいつ気まずさとは違う。どこか避けられている気がして、無理に関わろうとしないほうがいいのかと思ってしまう。

バイトの帰り道。
自然と仲良くなって、お互いに気を使わなくなったバイト仲間のみなみちゃんと一緒に帰っている。つい最近まで、バカな話をして、笑い声が絶えなかった帰り道と同じはずなのに、今日は違う道を帰っているみたいに静まり返っている。
俺がいつもみたいに今日あったバイトでの出来事を話しても、みなみちゃんは、俺の方を一切見ないで、「大変だったね〜」と口先だけの言葉しか言っていなかった。

俺なんかしたっけ? と自分を問いただしたが、思い当たる節などなかった。あまりにも長い沈黙に、俺に問題があるんじゃなく、みなみちゃんに問題があるのではないかと思い始めた。

昔の俺だったら、「俺、なんかした?」と即座に確認したかもしれない。でも、今の俺はそんな確認男ではない。自分に自信がある。自己肯定感も高い。
前に彼女に浮気されたときも、「俺との釣り合わなさに嫌になって、俺よりもダサい男を選んだか」としか思えず、彼女に対して怒りは湧いてこなかった。そのくらい今の俺は自信という自信をまとっている。

「みなみちゃん、最近元気ないよねー?」
いつもと違う様子のみなみちゃんに、俺は聞いた。

「うーん」と、みなみちゃんは肯定とも否定とも取れる返事をした。
この反応に俺は図星だなと根拠ない自信が湧いた。

「あ、もしかして、好きな人がいて、気持ちに気づいてもらえないとか?」
みなみちゃんの足が一瞬だけ止まった。
それを見逃さなかった俺は、みなみちゃんの返答を待たずに、「わかった、おれが相談に乗るよ!」と追撃した。

「いや、別にそんなことないよ」
みなみちゃんはそう答えたが、内心と口が言っていることが真逆なせいなのか、否定にしてはやけに、弱気な言い方だった。

「いや、なんか、恋の悩みとかじゃないの?」
「えー、んーまぁそうだけど」
さらに図星だったせいか、みなみちゃんの唇が不服そうに尖っている。

「ほら、そうなんじゃん」
「でも、違う人に相談するから大丈夫」
そう言うと、みなみちゃんの歩くスピードが明らかに速くなった。
早くこの話題を終わらせようとしているのだろう。だけど、そうはさせない。

「なーんで、俺に相談してくんないの。寂しいよ」
俺も歩くスピードを上げて、みなみちゃんの横顔見ながら嘆くフリをした。

「えー、やだよ、絶対イヤだ、絶対言わない」
みなみちゃんは、俺から顔を背けて、更に歩くスピードを上げる。

絶対に言わないとは言ったものの、本当に言わないような雰囲気ではなかった。
俺が嫌いなやつに、「相談してよ」なんて言われたら、もっとキツく答える。あまりにもしつこい追求には、突き放す態度を取るのが人間の本能だろう。
薄々感づいてはいたが、みなみちゃんは俺に気があるのかもしれない。
そうなると、あえて、こちらから突き放すようなセリフを言ってみるに限る。

「なんで。そんなに俺のこと嫌い?」
「そういうことじゃなくて……相談はしない!」
みなみちゃんは明確な理由を答えない。
嫌いというワードに焦って、俺の方を向いたが、目が合うと即座に目を一度大きく見開いて、そらした。

これは、キテる。
さらに、みなみちゃんを追い込む。
「そういうことじゃないのに、俺に相談できないって、どういうことだよ?」
「そういうことー」

「そういうこと......?」
その瞬間に俺は、確信した。
みなみちゃんと出会ったあの日から、今日までの日々がフラッシュバックする。
初めて目があった時。
初めてした会話。
初めての帰り道。
初めてのご飯。
そして、今。気まずくなっても一緒に帰っているという事実まで全てが繋がった気がした。

「あっっかん」と自分の中のチャンカワイが目覚めた。体の中の血液が沸騰するように熱くなる。

「これ、これ完全に……あなたが好きだからの......そのパターンやん!!」
思わずそう叫びそうになったが、歯を食いしばって耐えた。心のなかでは、富士山頂で叫んでいる気分だ。必死に口を締めているせいで、顔が真っ赤になっていることは間違いない。だけど、みなみちゃんがこちらを見る雰囲気は皆無だ。

みなみちゃんの茶色の髪が背中で揺れているのを見ながら、「あっかんーこれ、これ漫画で見たこともあるもん! これ漫画で見たことあるやつやもん!」と心の中でチャンカワイが連呼した。

俺は口を抑えていたが、無意識に歩くスピードが落ちていたようで、みなみちゃんがチラとこちらを見てきた瞬間に、「惚れてまうやろ!!!」と心の中で叫んだ。

一度深呼吸し、自分の中のチャンカワイを沈めた。

「えっと、みなみちゃん.....じゃあ、相談には乗れないんだけど、俺ができることしたいな」
今の俺は、チャンカワイではない。チャンドンゴンだ。

「え、じゃあお願いしちゃおっかな」
まさかの俺の歩み寄りに驚きつつも、みなみちゃんは後ろで手を組みながら、こっちを見た。

「ホントは、ちゃんとオシャレして言おうと思っていたんだけど......」
みなみちゃんは、恐る恐る俺の目を見た。
「みなみの彼氏になってください」
さっきまでの、ふわふわした返答ではない。真っ直ぐこちらを見ている目、口元はギュッと力が入っている。みなみちゃんの本心の言葉であることは直ぐに理解できた。

みなみちゃんの言葉が、自分の体の中に染み込んで、胸の中で爆発するかのように熱を帯びた。体の内からみなぎる高揚感に耐えきれず、息が漏れた。
「まてまてまてまてまて」
息が漏れた途端に、俺の澄ましていたオーラは消え、チャンカワイが復活した。

チャンカワイもさっきまでのチャンカワイとは違う。
確信から生まれたチャンカワイではなく、告白されて血沸き肉踊るチャンカワイが俺の中で暴れだした。

「これ、待てよ、これ、完全にゴールしてるけど、もうちょいウイニングランしたいやつやん!」
心のなかでチャンカワイが雄叫びを上げる。

イエス・キリストと同じだ。
復活したチャン・カワイはもう誰にも止められない。
神となったのだ。

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