2019年面白かった本


勝手に毎年年末恒例で書いている書評的なやつ。

今年読んだ50冊の中から、特に面白かった10冊をサクッと紹介。


①ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

今年一番。本屋大賞のノンフィクション部門で大賞をとったらしいけど納得で、多分誰が読んでも面白い本。イギリスの「多様性あふれすぎ社会」のリアリティがすごい。(語彙)


序盤に著者の息子が通う中学校でのエピソードがあるのだが、

ハンガリー移民の少年が、黒人少女に対して「ブラックのくせにダンスが下手なジャングルのモンキー。」と200点満点のレイシズム発言を叩き出すと、
それを聞いた息子の父親(イギリス人)が「いまどき黒人をジャングルとかバナナとかいう60年代みたいな言葉で差別するのは東欧出身の田舎者ぐらいのもんだ。」とレイヤーを上げた差別発言で返す。
とのっけからアクセル全開である。


この本に出てくるのは、イギリスと聞いてすぐに想像するような白人から有色人種への差別ではない

社会階層を上げた移民が、逆に白人労働者階級をホワイトトラッシュ(白い屑)と呼ぶ。
教育水準の高い人気校に多人種の移民が集まった結果、不人気校には白人労働者階級が寄せ集められる。

そんなあまりに多層的な差別・被差別関係が、息子の半径数メートルのエピソードだけでも溢れている。

それでもこの本が陰鬱にならずポップなのは、多様性ある社会が持つ"しんどさ"への著者の愛が全編を通して感じられるからだ。


息子「でも、多様性っていいことなんでしょ?学校でそう教わったけど?」

母「うん」

息子「じゃあ、どうして多様性があるとややこしくなるの」

母「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ」

息子「楽じゃないものが、どうしていいの?」

母「楽ばっかりしてると、無知になるから」





②安楽死を遂げた日本人

「それは幸せということであって、楽しいということとは別なんですよ。」

最終的には話すこともできず寝たきりとなる難病に侵された日本人女性が、スイスで安楽死を遂げるその瞬間までを取材したノンフィクション。

この女性は日本での安楽死合法化議論に一石を投じるため、取材に応じている。NHKスペシャルで流れたようなのでテレビで見た人もいるかもしれない。

本の後半、死の直前まで冷静であり続けた女性とそれを気丈に支え続けてきた三姉妹が、最後の瞬間だけお互いに感情を露わにする姿が強く心に残る本。あまり泣くことないんですが、これは涙出ました。


「分子は人生の濃さで、分母は生きた年数だとします。私の分子は、49歳で止まってしまったの。 (中略) ところが、分子は変わらず、分母はどんどん増えていく。そうすると、分数の値はどんどん小さくなっていく。私は、これ以上、分母を増やしたくないというのが本音」

「義務と権利ということをよく考えるんです。生きる義務があれば、それを道標にして生きていこうと思えるのですが、生きる権利というのは意外と持て余すものなんだな、というのが私の考えなんですね。」




③正義の教室

マイケルサンデルで一躍有名になったトロッコ問題とか、ああいうの好きな人にとっては面白いはず。
この本の著者である飲茶さんという方、過去に何冊か読んだことあるのだけど、世にある理屈を再構築して伝えるのがめちゃくちゃ上手いのでとにかく読みやすい。



④経済政策で人は死ぬか?

「大不況になった時に緊縮財政とると普通に人が死ぬよ。これは統計的事実だよ。」と極めて冷静に言い続ける本。
既に名著と呼ばれているようだが、わりと新しいので最近のギリシャのケースなんかも載っている。

過去世界各地で発生した大不況に対して、緊縮財政策を取った国と、財政刺激策を取った国それぞれに対して統計データを分析しまくっているのだけど、


「緊縮財政やると感染症、自殺率が増えて普通に人が死にますよね」

「じゃあその代わりに経済的なメリットがあるかというとそんなこともなくて、経済成長にブレーキかかりまくって債務返済できなくなるから実は経済的にもお得じゃないよね」

「だからしんどい時こそしっかりと社会保障に投資しといた方がお得だよね」

というのを時代と国を越えて大量のデータで示している。


この手の本にありがちな政治イデオロギーまみれ感が一切ないので、非常に素直に読めます。



⑤アフターデジタル

以前書いたnote中国スゲー!側についてこれでもかと解説されている本。
日々僕も上海生活で使っている便利なサービス(配車とか電子決済とかECとか)の裏側が事細かに解説されるのだけど、単なる事例本や礼賛本と違ってその解像度がとにかく高い。


基本的な主張は一貫していて
「超高頻度の顧客接点を作ってそこで得られたデータでUX改善しまくる勝負になってるから、オンラインが主でリアルを従にして設計しないと負けるよ!」
「デジタルを取り入れるとか寝ぼけたこと言ってないで、全部デジタル化すること前提に設計しないと負けるよ!」
みたいな感じ。

ど文系が読んでも普通に面白いので、興味ある人にはお勧め。





-----はい、ここからちょっとマニアック-----




⑥コンテナ物語

まずもって「コンテナ」をテーマに400ページ越え、3,000円の本書くの頭イカれてませんか


野心満々の運送屋のおっちゃんが貨物を入れる金属の箱(コンテナ)を考案。

→規格が統一されたことで、人力での積み下ろし作業が消滅し、船・鉄道・トラック輸送を一つの箱でシームレスに繋げるように。

→輸送費が劇的に下がる。

→消費地の近くに生産地を作る必要がなくなり、グローバルサプライチェーンが出来上がる。

→その結果、世界の貿易量が飛躍的に上がる。


と何とも地味に世界を変えた箱にまつわる物語。
後半の色んなエピソードは(翻訳本であることもあり)冗長だけど、前半の目から鱗感がすごい。



⑦コンピューター、どうやって作ったんですか?

スマホやPCなど日常的に使っているコンピューターについて、ど文系でも(ぎりぎり)分かるように心血を注がれたであろう本。

何がすごいかというと「なんとなくイラスト使ったり、難しいところは単純化しちゃえば文系でも分かるでしょ?」ではなくて、本質は全然外さず解説の順序と方法だけで理解させる点。著者の川添愛さんの頭が良すぎます。

ちなみにこの方が流行りのAIついて書いた「働きたくないイタチと言葉がわかるロボット」もお勧め。




⑧ザ・ワン・デバイス

iPhone本の最高峰なんじゃないですかね(適当)。

主に「iPhoneを構成している部品、材料や技術はどこに源流があるのか」と「どんな開発経緯でiPhoneができたのか」の二つの要素で構成されているのだけど、後者がとにかく面白い。

どんだけ取材したの?という情報量とリアリティで、イノベーション()とか一切言わずにiPhoneを語り尽くす。

特にスティーブジョブズのクソ野郎っぷりが大変際立っていて、(あまり覚えてないから細部違うかもだが)ざっくりエピソードをあげると、

・MacのGUIはゼロックスのものをパクっておきながら、マイクロソフトが似たようなのだしたらブチ切れる。

・Appleメンバーが発案したマルチタッチスクリーンUIのデモに対して「ゴミだ!」的にこきおろしながら、iPhone発売後のインタビューで「あれを思いついた時は興奮したね~」的なことをしゃーしゃーと発言。

・Appleが携帯電話を開発することに最後まで反対しておきながら、iPhone発売後は自分以外の社員への取材を許さない。

という感じ。

これを読むと「日本になぜAppleが生まれないのか」みたいな議論は本当に無意味だなという感じがする。Appleですら超奇跡みたいなめぐり合わせでiPhoneが生まれてて、もう一度開発しろって言っても無理なんじゃね感。


ちなみに初代iPhone開発メンバーはあまりの激務に離婚が多発し、今は一人もAppleには残っていないらしい。




⑨会計の世界史

超わかりやすい!興味がある人には面白いよ!以上!




⑩UIデザインの教科書

日々使っているスマホやアプリが「なぜ使いやすいのか」について丁寧に解説してくれる本。
日常的に使っているものがほんとよく考えて作られてんな~ということに改めて気づく。


ちなみに本の冒頭に悪いUIの見本としてえきねっとが出てきます。


気持ち分かりますよ、

えきねっと、

あのUI/UXやばいですよねほんと、

どれだけ過去苦しめられたか。











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