中国という国をどう見るか問題

気が向いたので?数年ぶりにブログを書いてみる。
数年書いていない間に僕は今上海にいて、かれこれ2年半くらい住んでいる。

最近読んだ本の一節だが、海外在住経験のある日本人はみな素人社会学者になって語りたがるらしい。全く鬱陶しい限りである。
が、ご多分に漏れず僕も鬱陶しい内の一人として、わずかな経験から中国の雑感をつらつら書いてみたい。


中国と聞いてどんなイメージを思い浮かべるか?
政治思想を一旦除いて、もう少しカジュアルな好感度としてどうかという問いだ。

悪いイメージを持つ人は、パクリ、食の安全、マナーなどいわゆる「トンデモ中国」を思い浮かべる。
そういう人は「やっぱり中国はとんでもない国だ。それにひきかえ日本は…(以下日本のポジティブな事例)」と溜飲を下げられるエピソードを期待しているし、それに答えるTV番組やWeb記事はいくらでもある。

良いイメージを持つ人は、キャッシュレス、ニューリテール、AIなどいわゆる「中国スゲー」を思い浮かべる。
そういう人は「やっぱり中国の発展速度はすごい。それにひきかえ日本は…(以下日本のネガティブな事例)」と続く。テック界隈の人たちやNPなんかではこんな記事がいくらでもある。

いずれにせよ「中国という国をどう見るか」は極端に意見が分かれてて、両者は交わらない。

●なんでここまで極端に意見が分かれるの?
結論を言うとこの図が全てである。
元も子もないことを言うが、中国への評価が極端に分かれるのは、実際に中国が極端に分かれているからだ。

単純に、中国には日本の10倍の人がいる。
かつこの10倍の人口の間で、経済/教育/技術水準の差がでかい。
つまり「母数がデカい&バラつきもデカい」のが中国だ。
当然だが母数とバラつきがデカければ、最大と最小の外れかたもけた違いになる。

画像1

僕は、中国への評価の違いが分かれるのは、つまるところこの図の左端(最小)を見てるか右端(最大)を見てるかだけの差じゃないかと思ってる。
左端ばかりに注目する人は「トンデモ中国」という評価になるし、右端ばかりに注目する人は「中国スゲー」になる。
そして多くの人は自分の好む意見をより積極的に取り入れるので、その傾向は強化されていく。

●実際住んでみてどうか?
自分が日本人であるというバイアスを極力差し引いたとして「住みやすいのは日本で、国として構造的に強くなるのは中国だろうなー」と感じている。

平穏に暮らしやすいのはやはり日本だなと思う。
なんでかと言うと、人は左端(最小)に対してストレスを感じると僕は思っていて、日本はここが極めて底堅いから。
5USD以下の飯がまずくなく、どんな公共サービスでも気分の悪い対応をされない日本はやはり暮らしの中の小さなストレスが少ない。
*めちゃくちゃ蛇足だが、日本への中国人旅行者が口をそろえて言うのは「日本は安い」だ。高級で高品質なMade in Japanが人気なのだろうと多くの日本人は信じておりそれもウソではないが、本質的には「どんなに安いモノ/サービスでも最低限品質が担保されている」のが日本の底堅さでありウケている点だと僕は思う。

一方で国としてより巨大になっていくのは中国だろうと。
国の発展は右端(最大)に引っ張られる。
単純な母数のでかさに加え、バラつきを容認する政策や価値観が認められやすい中国では、強いやつが更に強くなって国力を伸ばしていく。

●中国をどう見るか?
あえてデカい主語を使うけど、結局のところ日本人として中国という国をどう見るべきなのだろうか?

そんなの人それぞれでしょ~と言いたいところをグッと堪えて最低限認識しておいた方が良いと思うのは
1.中国は左端(最小)と右端(最大)も極端。どっちに注目するか(したいか)で見え方は違う。
2.ただし母集団の山全体は年々右側に移動してきている。
つまり、悪いところを多々残しながらも、国全体はどんどん強くなっているし、人々の暮らしもなんだかんだ良くなっているということだ。

実際自分が来てからの2年半の間でも中国の暮らしはどんどん便利になっている。
鉄道などのハードインフラとモバイル決済などのソフトインフラが凄まじいペースで敷き詰められ、たまにシェアバイクがコケたりしながらもガッツリ無視して生活全体はどんどん便利になっている。
特に決済まわりとそれに付随するウェブサービスは、日本に帰ると不便を感じてしまうことも増えた。

中国企業の技術力もめちゃくちゃ高くなっている。
未だに低クオリティなコピー品を生業にしている有象無象は存在するが、(ここは自分の仕事なので詳しくは書かないが)局地的には日本企業の歯が立たないような技術力をもつ企業も数多く存在する。
もう少し言うと、一昔前まで日本のコピー品を作ってるなーと思ってた中国企業が、いつの間にか日本企業でも作れない技術レベルのオリジナル品を開発してたなんてことが普通に起きている。
まぁ考えてみれば当たり前だが、アメリカに次ぐ世界第二位の経済大国の技術力が低いはずがないのだ。「粗悪なコピー品を作る中国」というのは断片的な一側面に過ぎない。

ということで、中国に対する肌感のアップデートを多くの日本人がサラッとできたら良いなと思う。
そうしないと日本のメディアで面白おかしく書かれるとんでも中国を見て溜飲を下げていたつもりが、気づけば見下ろされてたということになりかねない。
隣国というのは往々にして仲が悪くなりがちだし僕もお花畑的平和思想はないけど、この辺はあまり好き嫌いのフィルターを入れずにフラットに見といた方が日本人的にもお得なんじゃないのかなーと思いましたとさ。しりきれトンボ。


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最後に蛇足。
たまに聞かれるのが中国のマナーの問題なんだけど、
・絶対値としては、中国人のマナーは(日本人基準を適用すると)現時点ではまだ良くないとこはある。
・傾向としては、特に都市部・若年層を中心に年々改善していってる。
というのが僕の実感。

んで、ここからは完全に持論だけど、僕は文化的なマナーは経済発展に10~20年遅れて勝手に改善すると思っている。

日本も1960年代は電車の中にポイ捨てゴミが落ちまくってたりした(これは本で見た)けど、先進国に躍り出る過程で高い水準のマナーが社会に実装された。
台湾も香港も昔はもっとマナーが悪かったらしい(これは現地人から聞いた)が、今はすっかり改善している。
中国はこの十年で急速な経済発展をしてきた。んでまさに今マナーが改善していってる。エッ!?みたいなこともたまにあるが改善傾向は明らかに感じる。

貧すれば鈍するではないが明日の飯に窮する状況なら他人なんて気にする余裕はない。
逆に経済的余裕が社会に心理的余裕を生み出し、それが10~20年続けば一定の文脈(マナー)が共有されるようになる。

要するにこの辺のマナーの話は「国民性の問題」ではなく「単純な経済発展のステージの問題」なんじゃないかなと。
日本人も高度経済成長期にヨーロッパへ団体旅行し日本語だけ話しながらブランド品を買いあさり軋轢を生んだ過去がある。
そういう一挙手一投足を見て「日本人は~~」とか「中国人は~~」と言うよりも、マナーや文化なんてのは経済発展の過程で結構変わるからお互い大目に見ましょうや。くらいの方が個人的には良いんじゃないかなと思ってる。


読んで頂きありがとうございました!