怪物(映画) 一言で言うと食らっちゃった映画

あらすじ

小学生の湊は父を亡くしており、シングルマザーとなった早織によって育てられている。母も愛情を持って育てるが、湊の様子がおかしいことに気づく。いじめを疑う母は学校に事実確認に出向くが……。
メディアを巻き込むほどに事件は大きくなっていき、食い違っていく当事者たちの発言。行方をくらます子どもたち。
彼らは一体どこに向かったのか。怪物とは一体なんのことなのか。


感想とオチ

見終わった直後口からでてきたのは、
「食らっちゃったなぁ…」
とにかく映像が美しかった。
群像劇ものは良く見るし読む方なのでついついメタ思考をしてしまいがちなのですが、今回見事に騙された。
前情報なしで初の是枝監督作品ということもあったからだろうか。
見事にシングルマザーで唯一の愛する息子を守りたい母親の気持ちになっていた。
当然、「いやいや見えてるものが事実とはとは限りませんよ?」なんて思ってたのですが教師陣の対応、見事でした。。
見事にこいつら許せん!という気持ちにさせてくれました。
おかげで気づいたら術中だったわけですね。
所々の演出もよかった。水筒に砂利入ってたらいじめと疑う。
でも小学生の頃なら水筒に砂利が入るなんて日常だったかもしれない。
依里(より)くんのおうちに湊くんの靴が片方あったときに、これは依里くんがいじめ側?それとも湊くんが影ながら助けようとしてるのか?わからなかった。

瑛太の演技ももちろんですが、校長先生が素晴らしかった。
「人の心とかないんか?」と言いたくなってしまいます。
というかお母さんがおっしゃってましたね。
怪物はここにいたか〜教育機関と戦うシングルマザーね、おっけー。


そう思わされてるところで別の視点。
瑛太のターン、第二幕です。たしかになにか裏があるだろうとは思ってましたが
まさか熱血教師でいい先生だとは思わないじゃん。。
生徒にやさしく微笑む瑛太の姿を見た時は
「はーーーん(くやしいい)」と声にだしておりました。もちろんお家でサブスクで見てますよ?
視点の切り替えなんか定番じゃん!なのにこのしてやられた感じ。もっと分析したいけどそれはまた今度。
この二幕では湊くんの隣の席の女の子もいい味だしてましたね。とても美人さん。
「ここで猫で遊んでたの。次見た時は冷たくなっちゃってた」
こんな感じのセリフだったんですがニュアンスが絶妙なんですよね。。
英語で猫の代名詞はit、一つの命なんですが法律的にも器物破損でモノ扱いなんですよね。(猫好きとしては素直にはいそーですかとはならないけど)
またその後の会話で依里くんの「死んだらモノじゃん」というような発言があります。
猫と遊んでたではなく、猫で遊んでたなんですよね。(たしか)
次見た時冷たくなってたので、殺したとは言っていない。しかし瑛太目線だと、湊くんはいじめっ子で猫にも危害を加えるような子なのではないかとの疑念が膨らんでいくんですよね。
誰一人物事を正確には理解していない感じがリアルでした。


そして第三幕。少年たちの目線です。
湊くんの「親がそんなこと言うわけないじゃん」、
依里くんの「……そうだね…」
ここが見ててとても辛かった。また、「親にも気使うじゃん」という言葉。
そうなんだよね。解像度たかいんですよ……小学生の
見てないようで見てるんですよね。そして頭もいい。

依里くんが出てきたのは第一幕からなのですが、初登場から一気に心持っていかれました。
この子、バカなふりしてるんじゃないか。そう思わせる何かがあった気がします。すごく賢いんだけど、そうすることで世渡りしている彼なりの処世術なのではないか。
「怪物あてゲーム」はお互いが額に当てたカードの特徴を言い合って、額のカードがなにかを当てるゲーム。
そのときの依里くんが使うワードが詩的ですごくいい。

そんな彼に湊くんも惹かれていくわけですね。
多様性の世の中への問題提起ともとれますが、この作品が伝えたいことってそういうことでもない気がする。
当然問題提起でもあるんですが……
まだ「好き」という気持ちがなにかわからない彼ら。
同性を好きになるのは普通じゃない。母の「普通に幸せになってほしい」という願いに応えられなくなってしまうという葛藤。

私も同性に好意を持ちかけた瞬間が、小学生のころありました。ふとしたときに「この人を好きになったらどうなるんだろう。キスするって考えてみよう。自分はどう思うかな。」
「嫌じゃないかもだけどしたいとも思わないな。」それが私の答えでした。
小学生のころの感情ってほんとにわからなくて、当時は憧れが先にきてたと思います。自分ができないこと、やりたいことができる。
そういった憧れが好意と結びつきかけたのでしょう。

では湊くんは?
守ってあげたい。この気持ちが好意と結びつき始め、そんな自分を認められなくて荒れた。不安定になってしまった。
多分母である早織は、その事実を知ったとて矯正するようなことはしない人間だと思います。
でも湊くんは、母のいう「普通の幸せ」にこの感情は邪魔なのではないかと考えてしまった。

そんな優しく綺麗な二人が泥だらけになって笑い合ってるラスト。

結果はどうなったのか、明らかになっていないことも多々あるが最後が美しくて見せたいのはそこじゃなかったんだなと腑に落ちた。
母親目線、瑛太目線、校長目線、少年目線、またその他の登場人物、そして鑑賞者である私たち。
全てで正義と事実は違っていた。日常生活でも平気で起こりうる「それぞれに正義はある」とわかってるのに、隠れた情報で自分が圧倒的に正義と勘違いしてしまう瞬間。

どなたかの感想か考察で、廃電車のシーンは「銀河鉄道の夜」のオマージュなのではないかという考察を見た。
そしてそう見てみると、そのシーンがより美しいものであるような気がして
そんな感性を磨きたいと思った作品でもある。
とてもいい映画でした。

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