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生命の生まれる準備、より大きな分子に向かって。。。

こんばんは。​

前までの記事で生命とはいったい何なのか、その定義と、生命が生命たる条件について説明し、その生命の誕生に向けてどんな準備が必要なのかについて二つ目の記事で書きました。生命が生まれるにはいくつものハードルがありますが、今回は生命の部品が繋げて大きくしていく過程についてお話しいたします。

生命にとってタンパク質や資質拡散が重要な分子である。細胞を構成するタンパク質や核酸は,それぞれアミノ酸とヌクレオチドの多量体である。 そしてヌクレオチドはリボースまたはデオキシリボースに核酸塩基とリン酸が結合した構造である。 これらの分子は今までの記事で書いてきたように、さまざまな環境でできた単純な有機物が結合して生成したと考えられるが,この過程は原始地球で起こったのか, そうだとしてどのような環境で起こったのかについても盛んに研究がなされている。

このような多量体は隕石からは検出されておらず,原始地球に存在した証拠は模擬実験から得るしかない。 有機物の重合は基本的に脱水縮合反応である(2個の分子のそれぞれが水素原子またはOH基を失って水分子ができると同時に、一方の分子で水素が結合していた原子と、他方の分子でOH基が結合していた原子間で共有結合ができる=H2Oを一つ取り出して繋がること)。生物が生まれるためには溶媒の存在、元素の移動性などを考えると水が不可欠であるが、生物が水中で誕生したとすると, 水中で脱水反応を行うという難問にぶつかる=water problem。では,一体どのような環境であれば重合反応が起きたのか。 幾つか候補として指摘されているのは,干潟,火山の周辺,熱水噴出孔,そして海洋域(高温だったと考えた場合)などである。 エネルギーが存在する場所,あるいは濃縮・乾燥が起こる場所などが想定されていると言い換えても良い。 これらの環境を模した実験から有機物の重合が研究されており,現在一定の成果が得られているようである。

アミノ酸の重合はアミノ酸生成と同様に比較的簡単で、アミノ酸を数種混ぜて乾燥させたり加熱することで容易に繋がるようである。数種のアミノ酸の混合液を繰り返し乾燥・水和させることによってポリペプチドの生成が確認できた。 最近では 2005年にやはり同様の実験から加水分解活性のあるポリペプチドを得た。 また熱水噴出孔の周辺を模した条件の下で短いペプチドが合成することも実験的に確かめられている。その他にもアミノ酸の重合に関しては様々な実験が行われている。

ではそのポリペプチドの生成を促進する要因はあるのだろうか。一つは モンモリロナイト(montmorillonite)という粘土鉱物がアミノ酸の重合を触媒することや(Ferris et al., 1996), 火山ガスの一酸化炭素(CO)と (Fe, Ni)S が共在する条件で,あるいはやはり火山ガスの硫化カルボニル(COS)が存在する時に, ペプチド結合が形成されるとする研究も行われている。一般的に粘土鉱物や硫化鉱物といった太古の地球にもあったであろう鉱物やガスを触媒にしている。

模擬実験から合成される重合体は,ただアミノ酸が鎖状に繋がるだけでなく、さらに凝集して球状の構造体をとるものも多数知られている。 主として海水を模した溶液中でアミノ酸を 100 ℃前後で加熱することによって得られる構造体は,中身が詰まったマリグラヌール (marigranule)や,中空のマリゾーム(marisome)と呼ばれる。また 300 ℃程度で出現するミクロスフェア(microsphere)もペプチド様の物質を含む球状構造である。

報告されているペプチドは、数アミノ酸程度 から数十アミノ酸程度と条件次第のようで, 生物の合成するタンパク質のような数百アミノ酸からなるペプチドを得た実験は今のところない。 特にミクロスフェアなどでは必ずしもペプチド結合から重合体が出来ているわけでもないようで、おそらく原始海洋で生成したペプチドは,必ずしも現在のタンパク質と同じものではなく, 化学的には異なったものだった可能性がある。このようなタンパク質が今のタンパク質のようにさまざまな触媒活性を有したとても便利な分子だったのかは疑問だが、 特にマリゾームのような膜構造や,脂質とペプチドからなるような膜構造は, 細胞膜の前身として生物が誕生する前の世界で機能していた可能性があるだろう。

「ホモキラリティ問題」も解決できていないため(どっかで解説したい)、まだまだ謎は多い。

次は核酸。

生物が最初に用いた核酸は RNA だったと考える研究者は少なくない。現在生物が利用する核酸には DNA と RNA があるが, 「RNA ワールド仮説」よりRNA の生成過程がより熱心に研究されている。 

このRNA ワールド仮説とは、 RNA が遺伝子として働くと同時に,RNA を複製する酵素もまた RNA が兼ねていたとする仮説で、RNAが酵素の役割も担ってくれるなら、タンパク質は最初なくてもよかったんじゃね?となり、RNAが生物の始まりであっただろうとする(セントラルドグマの始まり)。こんセントラルドグマとは遺伝情報は「DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質」の順に伝達される、という、分子生物学の概念」である。

RNA の構造単位はリボヌクレオチドで,リボヌクレオチドはリボース・リン酸・核酸塩基(現在の生物ではアデニン・グアニン・ ウラシル・シトシン)からなっている。核酸塩基とリボースが結合したヌクレオシドは塩基とリボースを乾燥させて加熱することで生成していますが,水中での収量は遙かに少ない。 さらにヌクレオシドをリン酸化する実験では,例えば縮合剤を加えることによってウリジンのリン酸化などが報告されていますが,やはり収量は少ない。つまり核酸の材料を入れてあげて、熱=エネルギーを与えて乾燥させて脱水縮合を無理矢理起こしてあげれば生成はするが、その収量は少なく,原始地球でのヌクレオチド生成の様子は不透明だと言える。

また重要なリン酸が供給される条件は限られている。興味深いことに,生体と海水の元素組成を比較するとリンは生体に比べて海水に含まれる量が一段と低い。さらにリンという元素は基本的に大陸から水に溶けたりして供給されるが原始地球は大陸がほとんどない。 従って最初に核酸が生成した場所は,リン酸が通常よりも濃縮された特殊な環境が必要かもしれない。ポリリン酸は火山ガスから供給されると見られている。 火山周辺,熱水系の周辺のような環境を想定した実験から,ヌクレオチド生成に適した条件を見つけていく必要がある。

さらにヌクレオチドが生成したとしても,それが重合しなければ RNA は生成しない。 実際にモンモリロナイトという粘土鉱物(火山灰の風化により生成するため,原始地球にも豊富に存在したとされる) が触媒として働くと,最大で 30-50 量体の RNA オリゴマーが生成するらしい。 金属イオンも種類によっては 20 量体弱の RNA オリゴマー生成を触媒する。つまりこれも金属や粘土鉱物を触媒にして、乾燥やら加熱をしていくとRNAは長くつながっていくようである。

RNA 生成の各過程に収量の問題や条件の問題がある上,数十量体の RNA オリゴマーでは生物の遺伝子として短すぎる。 現在知られている限り,もっとも小さいゲノムを持った生物は "Carsonella ruddii"(ガンマプロテオバクテリア) という昆虫の細胞内共生菌の一種で,15 万 9662 塩基対のゲノムを持っているらしい。 100 塩基未満の RNA オリゴマーと 16 万塩基対のゲノムとの間には相当な溝がある。 生物の誕生の過程ではこの間に何らかの中間段階があったと考えらレル。

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