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35億年前の流体包有物の中から微生物の「成分」 が見つかる!

Nature communications, 2021
Ingredients for microbial life preserved in 3.5 billion-year-old fluid inclusions
Helge Mißbach, Jan-Peter Duda, Alfons M. van den Kerkhof, Volker Lüders, Andreas Pack, Joachim Reitner & Volker Thiel

Abstract 
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It is widely hypothesised that primeval life utilised small organic molecules as sources of carbon and energy. However, the presence of such primordial ingredients in early Earth habitats has not yet been demonstrated. Here we report the existence of indigenous organic molecules and gases in primary fluid inclusions in c. 3.5-billion-year-old barites (Dresser Formation, Pilbara Craton, Western Australia). The compounds identified (e.g., H2S, COS, CS2, CH4, acetic acid, organic (poly-)sulfanes, thiols) may have formed important substrates for purported ancestral sulfur and methanogenic metabolisms. They also include stable building blocks of methyl thioacetate (methanethiol, acetic acid) – a putative key agent in primordial energy metabolism and thus the emergence of life. Delivered by hydrothermal fluids, some of these compounds may have fuelled microbial communities associated with the barite deposits. Our findings demonstrate that early Archaean hydrothermal fluids contained essential primordial ingredients that provided fertile substrates for earliest life on our planet.
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原始の生命体はエネルギーの源として小さな有機分子を利用していたと広く仮説が立てられている。しかし、初期の地球の生息地におけるそのような原始的な成分の存在はまだ実証されていない。ここでは、 35億年前の西オーストラリア州ピルバラクラトン(地塊)のドレッサー層の重晶石(BaSO4)の流体包有物に固有の有機分子とガスが存在することを報告する。同定された化合物(H2S、COS、CS2、CH4、酢酸、有機(ポリ)スルファン、チオールなど)は、祖先の硫黄・メタン生成代謝の重要な基質を形成している可能性がある。それらはまた、メチルチオアセテート(メタンチオール、酢酸)の安定した構成要素を含みます。これは、原始的なエネルギー代謝、ひいては生命の出現における推定上の重要な化合物である。これらの化合物のいくつかは、熱水によって供給され、重晶石の堆積物に関連する微生物群集にエネルギーを供給している可能性がある。私たちの調査結果は、始生代初期の熱水には、地球上における初期生命に必須の、エネルギー源として使える原始成分が含まれていたことを示している。
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流体包有物とは
地殻内は水が循環していて、地殻の岩石内に染み込んだ海水はマグマの熱で熱せられて再び海底下から海底に向かって吹き出す。これを熱水というが、高温の熱水は岩石と反応することで岩石成分のシリカ(SiO2)や様々な元素を溶かし込み上昇する。これが地殻内を移動するうちに冷えたり、海水と反応して温度が下がると、シリカの溶解度が下がり、過飽和となることで沈殿する。これがシリカの脈となって保存されるのである。この時に、シリカの脈の中にある液体や気体成分が取り残されてしまうことがある。これが流体包有物と言われるものだ。だから流体包有物は当時の熱水成分のタイムカプセルのようなものだろう。

このような流体包有物の中の成分を分析すれば、例えばその熱水脈が35億年前のものならば、35億年前の熱水のなかの成分=生物の痕跡や栄養源などが分かりそうだ。

実際に東京工業大学の上野博士は35億年前の熱水の流体包有物の中の二酸化炭素やメタンの量と炭素同位体比の分析によって、当時の海(熱水中)にメタン菌が生息していた可能性を示した(同位体のお話はまた後でどこかで)。大昔の海ではこのような海底下のメタンを利用した生態系がワサワサしていたのである。

メタン菌も興味深いがメタン菌よりも原始的と思われる=エネルギー収支の悪い、非効率なエネルギー代謝の存在は知られている。これは皆さんもよく知る「発酵」である。発酵はグルコースなどの糖を二酸化炭素とエチルアルコールに分解し、その過程でエネルギーを得る手法であり、酸素はいらず、有機物があればエネルギーが得られる。

この論文あるような酢酸はまさにアルコール発酵に使える「餌」となりえるわけである。このような餌が35億年前にすでに存在していたことはそれを使う生命を支える基盤がすでに出来上がっていたことを示唆している、とても興味深いものである。




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