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1年かけてカードゲームを作った話~作る編~

はじめに

どうも、創作活動も好きなSasakiです。

今回は↓下記↓の連作記事の最終回・前編となっております。

前回・前々回とでカードゲームやボードゲームを作る時にどんなことを気を付ければよいのだろうという観点から既存のゲームをプレイしていったわけですが、それらの考察を踏まえてどのようなゲームを僕が作ったのか紹介していければなと思っています。

ゲームの根幹を決める

まずはどんなカードゲームにするのかというところから決めていくことになりますが、「ゲームデザイン」について造詣が深かったわけでは無かったので、ゼロからルールを作り上げ仕上げるというのは難しいと考えていました。

そこで辿り着いたのが「トランプ」などの既存のカードで行われる遊び方から着想を得て、新しくデザインを施すという手法でした。

そこで僕が注目していたのが、「大富豪」でした。
というわけで大富豪から新しいゲームを構築していきたいわけですが、この遊び方には”気になるところ”があり、そこを改修することでオリジナリティを出していきたいと考えました。

大富豪の気になるところ5つ

大抵の人がやったことがあるであろう「大富豪」。デザインの仕方次第では元々の面白みが崩れてしまう可能性もありましたが、5つの修正箇所を独自に考察して改修していくことにました。

気になるところ1.ローカルルールが多すぎる

ローカルルールといえば大富豪の華だと理解していますが、しかしながらそこにこそ疑問点がありました。
みなさんも経験がありませんか?生まれた地区や都道府県が違った友達と大富豪で遊んだ時・・・

「俺の地域じゃそのルール無かったんだけど…」
「階段って次の人はどの数字から出すの?同じ枚数じゃないとダメなの?」

等々、ルールの数や解釈に差がありゲーム進行に支障が出ることもしばしば。少なくとも「ババ抜き」なんかよりはルールが多いですよね。

今回のゲーム作りは梱包して販売するところまで想定しているので、明確なルール制定はしておきたいところです。ルールの齟齬が起こらないようにバランス調整して、カード内にテキストで明記することを決めました。
結果として下記の7つを選定。

スぺ3返し・5飛ばし・真7渡し(後述)・8切り・10捨て・11バック・Joker

この7つを元に特殊効果のあるカードを作っていくことにしました。

気になるところ2.7渡しが強過ぎる

大富豪には7渡し(他多数名称あり)というローカルルールがあります。
代表的なルールとしては下記のような感じ。

「7」を出した枚数分、自分の手札から札を選んで次の手番の人に渡す。

これ、一言でいうとめちゃくちゃ強いんですよね。
例えばスリーカードで7を出したとしたら、3枚の手札を渡せることになります。4人で大富豪をすれば初期手札枚数は13枚程度。上記の使い方をするだけで6枚の手札を捌けてしまいます。
つまり、手札を0枚にすれば勝ちというルールの中で1度に大量の札を消費できてしまうため強いということです。

必ずしも貰った側が不利になるとは限りませんが、最初の手札の質で強さが決定しやすい大富豪においてはバランスブレイカーとも言えます。

強過ぎるなら採用しなければいいじゃないか・・・ということになるんですが、この特殊効果には大富豪に必要なエッセンスが含まれています。
「7渡し」の面白いところは「他人の手札に干渉できる」というところにあります。

前述のとおり大富豪は最初の手札の質が重要ですが、これはもちろん運要素です。この運要素も残しつつ変更要素も取り入れられたらなと思っていたので、その元になるのが「7渡し」というわけです。

結果として考案した「真7渡し」がこちら。

選んで使う:この札を出した場合、「7」を出した枚数分以下まで自分の手札を選び、次の手番のプレイヤーと交換できる。相手は交換を求められたら、必ず応じなければならない。

つまり、「出した枚数まで任意の数を選んで手札を交換しあう。」という効果になっています。手札の交換なので、手札は場に出した7の枚数しか減らずに手札の質を変えることできるようになっています。

また後で解説しますが、この7渡しは「選んで使う」という部類の特殊効果に設定したので、使うか使わないかもプレイヤーが選ぶことができます。
使い方次第で強くも弱くもなる、”読み”が大事なカードにできたと言えます。

気になるところ3.プレイを数値化したい

大富豪をやっている時、何をした状況が一番嬉しいですか?
現状では一番先に上がれば勝ちなので、それが一番嬉しいと言えば終わっちゃう話ですが、もっとプレイ中での楽しさにフォーカスしていきたいと思っていました。

そしてプレイ中での楽しさを考えた時、「自分の出した札よりも強い札を他のプレイヤーが出せず、場が流れた時」が楽しいんじゃないかと考えました。

手札を0枚にして勝利・・・というだけではまだまだゲームとしての緊張と弛緩・そして”報酬”が足りないとは感じていたので、上記のプレイ中での楽しいところ「流す」というルールを改修していこうと思いました。

「流す」とは、

自分の出した札よりも強い札を他のプレイヤーが出せなかった時に場は流され、最後に札を出したプレイヤーからまたゲームが再開する。

という基本的なルールです。

相手の手札を読み、何が最も強くどれを相手は出したくないか。大富豪において最も知略巡る攻防を制したプレイヤーには、出したカードに応じて点数を配るというシステムを考えました。
具体的には、

3~7・9・10 で場を流した時は、通常時2点・革命時1点
11~2 で場を流した時は、通常時1点・革命時2点
Joker・8 で場を流した時は0点。点数は受け取れない。

といった配分で点数を与えました。
弱いカードで流すほど高い点数が得られ、それを出すことで流すことが決定的になりやすい特殊カードは0点というようなバランスをとり、点数効率や手札消費をより考えないと真の勝利にはたどりつけない。そんなルールを構築しました。

結果として点数という新しい概念を生み出すことになったわけですが、大富豪という名称から連想して「点数=お金」と定義して「お金カード」を作成しました。

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プレイ中にお金を獲得して最も多かったプレイヤーが勝ちという、いかにも「大富豪」な雰囲気を作ることができました。

気になるところ4.ルールを可視化したい

前述したように、特殊な札にはテキストを挿入することで現代TCGのようなデザインもしていこうと考えました。
しかしそれだけでは「大富豪」においては可視化しきれないルールがあります。
それは「革命」「柄縛り」です。それぞれ下記のとおりのルール。

革命とは:
同じ数字の札を4枚以上同時出すか、11バックを利用することで引き起こせる札の強さが逆転した状態。
柄縛りとは:
同じ柄の札が2手番連続で出された場合、その場が流れるまで同じ柄しか出せなくなる。

これら2つは、デジタルゲームでない限り自動で表示することができません。このルールは以前の記事でも述べていた、「場を見て頭で理解する」
つまり精神的動作なので、ルールミスを引き起こしやすい部分だと言えます。

そこで、手札などのプレイアブルなカードには含まれないサポートカードとして、これらの状態を示す為にあらかじめ場に置いてあるカードを制作することにしました。

例として「革命」かどうかを表すサポートカードで説明します。

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この2枚は裏表で印刷されており、「革命」状態が起こった時にひっくり返すことで場の切り替えを表現することができます。「柄縛り」も同様でひっくり返すと説明文と状況がわかる仕様になっています。

このサポートカードの存在によって、精神的動作の補助が可能になると考えられ、ゲームの進行の助けになります。

しかしながら、ゲームを理解すればそういったサポートカードが無くてもスムーズな展開は可能だし、カードをめくるゲームマスター的存在が要るよねといった疑問点もあります。

結論としては、ルールを覚えたならこのカードを使う必要はありません
しかしながら、ゲームデザインという視点から見るとこのサポートカードは必須だと考えました。

実際にゲームをしたときに起こりうる理解差やミスの発生などを予め予測して予防策を用意しているかいないかでは、初心者の入り込みやすさやルールの説明においてプレイヤーが不利を被ることになりますし、こういった事象を予測したゲームデザインをしていきたいと思っているからです。

新しくカードゲームを作るうえでやはり大事なのは、まず手に取って遊んでもらうことだと思うので、容易なルール理解を促したり、誰もが楽しめるゲームをデザインするうえで必要な改善だと感じました。

気になるところ5.見た目を楽しくしたい

ここまでルール体系について述べてきましたが、一般的なトランプの柄にそれぞれテキストを載せてはいどうぞ。…と渡されても無骨すぎますね。

そこで、それぞれの札にTCGのような固有の名前やイラストレーション、フレーバーテキストを与え、雰囲気作りをしていくことにしました。

トランプについて調べていくうちに、トランプの絵札にはそれぞれモチーフとされる人物や、それぞれの柄の特徴、象徴的物質や色の系統etc...色々な設定が存在していることがわかりました。

そこで既存のトランプでは赤・黒と4つの柄を2つの色で表現しているところを、4つの柄に対して4つの色を用意することで視覚的なカードの差異を明確にして、雰囲気作りのためにそれぞれの柄を「国」と見立てイラストを作っていくことにしました。

簡単に設定をまとめると、

スペード: 色:青 国柄:貴族 属性:華麗・戦争 時間:夜(深夜)
クラブ: 色:緑 国柄:農耕 属性:勇敢・勤勉 時間:夜(夕刻)
ハート: 色:赤 国柄:宗教 属性:慈愛・信仰 時間:日中(昼)
ダイヤ: 色:黄 国柄:交易 属性:金満・船 時間:日中(早朝)

ゲームの中で国柄や属性などの設定が活用されることはありませんが、色分けによる視覚的理解や見る楽しさを演出できたのではないかと思います。

という感じで、気になるところ5つを挙げましたがこれはあくまで土台で、最終的にデザインという形でカードの中に落とし込まなければなりません。なので次はこれらを落とし込む作業をやっていきます。

ユーザーインターフェースを整える

前述したカード内に落とし込むべき内容を整理すると、

カードの名前・カードの強さ・カードの柄・獲得できる点数・特殊効果

などがあります。具体的に実際に作成した「スペードの3」で説明します。

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見ていただいてわかるとおり、数字・名前・点数を縦書きで左に寄せました。このレイアウトは他のカードゲームでもよく見るものですが、中には名前などをカード上部に横書きで配置しているものもあります。
なので、このデザインが大富豪ライクのゲームに合致しているかどうかが焦点になります。

結論から言うと、このデザインが最適解だという風に考えました。
そう考える理由として、第一に「視線の誘導」が挙げられます。
日本語の文章が左から右へと記述されるように、重要な情報やメインとなる要素は左に配置しておきたいという考えです。

そして、このゲームをプレイしている時に最もカードを注視するのが「手札にある時」になります。
カードを手札として持つ時、扇状にずらして持つことが多く、その持ち方だとカードの一部しか見えなくなります。その一部とはつまりカード上部になるわけです。そこに「手札にある時」一番把握しておきたい情報の「カードの強さ・柄」を配置しています。

右利きの人なら右手を使ってカードをずらしていくと思うので自然と左上部が見え、手札での強さの確認が容易になるという仕組みです。
左手を使ってカードをずらす人もいるかもしれませんが、前述の視線誘導を考慮して、右上ではなく左上を採用しています。

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そして、手に隠れやすい左下の「点数」や中央下の「テキスト」は、極論を言えば手札にある時見えなくても良いのです。
なぜなら、それらが最も効力を発揮するのは手を離れて場に出た時だからです。

出した時ルールがわからなければ出した後で手に取って読んで確認すればいいですし、点数は流す時に確認すれば事足ります。
もちろん全て把握しておけばより良いプレイができるとも言えますが、必要な情報の順番を決めるうえでこのような配置にしたのは正しい判断だったと思えます。

上記のレイアウトによって、文字情報の配置は決定的なものになりました。
あとは細かい部分が整理できればカードゲームとして成立しそうです。

その他のデザインについて

先ほどカードの強さについて一部説明しましたが、数字が大きければ大きいほど強いという形式をとっています。

これはどういうことかと言うと、一般的な大富豪では最も強いカードは「2」とされ、その次は「A(1)」です。
これだと見た目上わかりにくいなと感じたので、「A(1)」を「14」にして、「2」を「15」としました。なのでこのゲームで最も小さい数字は「3」になります。


特殊札があるとは前述したとおりですが、柄によってそれら全てのイラストレーションが違っていたらわかりにくいですよね。なので人物ではない特殊効果を持つ札は差分イラストレーションとして同じ絵を使っています。
「同じ絵柄なら同じ効果」という形で特殊効果の理解を促しています。

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他には、それぞれの数字は必ず同じモチーフを使って描かれています。例えば「4」なら、その国ごとの土地や建造物。「15」なら、その国が繁栄を果たした状況描写といった風になっています。

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こちらはイラストこそ違いますが、雰囲気を整えることで強さの理解を促しています。


また、非常に細かいですが裏面にも少し手を加えています。
「大富豪」はプレイしているうちに札が上下逆さまになることが多々あります。このゲームではテキストを明記する都合上上下のあるカードデザインになっているので、片づけの際に少し煩わしいですね。
これがプレイに大きな影響を与えるかといえばそうではありませんが、やはり片付けや手札整頓の際に理解しやすい方が良いですよね。

そこで小さなデザインではありますが、裏面にグラデーションをかけています。上部が明るくなっており、反転するとグラデの明暗で上下が確認できるので多少役に立ちます。

スクリーンショット (9)

印刷・完成まで

以上の点がデザインに必要だった点です。それらがまとまればあとは印刷するだけです!
このカードゲームを作り始めたのが2017年3月頃で、この時点で8か月かかりました。1人でカードゲームを作るってのは中々難しいことがわかりました。全部自分でやれるのは楽しかったです。

カードゲームの名前は「グローリアスクラウン」としました。

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カードの印刷と同時に仕舞い込む箱も発注しました。
サポートカードや点数カード等、色々なカードを付けたしてしまったためコンポーネントはかなり多くなり、1セット100枚という厚いカードゲームに仕上がっています。

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と、紆余曲折ありましたがオリジナルカードゲームと呼べるものが完成しました!

あとは遊ぶだけですが、ルールをこのまま説明していくととんでもなく記事が長くなるので、ここで前編終了ということとします。

次回は後編「1年かけてカードゲームを作った話~遊ぶ編~」とし、
ルールや遊び方、販売についても記述していこうと思います。

ここまで長文を読んでいただきありがとうございました!気になった方はカードデザインをPixivにアップロードしているので、良ければどうぞ!

おわり。

つづき↓


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