セルフコンパッションを仕事に活かし、自分とチームを成長させる
これまでセルフコンパッションってなに?という話をしてきましたが、大体どんなものかわかっていただけたでしょうか?
「そんな実用的ではないものを紹介されてもなぁ」
セルフコンパッションの説明を聞き、こんな感想を持ちましたか?
いえいえ、そんなことはないです。セルフコンパッションは確かに歴史が浅いですが、その効用は研究が進んできています。常に実用的なものを求めるなあなたにこそセルフコンパッションを知って欲しいのです。例えば、「昇進したけど部下がついてこない」とか、逆に「上司がやっかいで・・・」とかの職場の人間関係を挙げればキリがないですね。
セルフコンパッションはそんな方の問題を解決するヒントを与えてくれるかもしれません。
セルフコンパッションの傾向が強い人は
・自分を成長させようとするモチベーションが高い
・オーセンティシティ(自分に嘘偽りがない性向)が高い
ことが示されています。そしてこの2つはリーダーシップの発揮を促すなどのキャリアでの成功を支える重要な要素でもあります。
今回はビジネスパーソン向けにカルフォルニア大学バークレー校教授のセリーナ・チェン(Serena Chen)氏のハーバード・ビジネス・レビューでの記事(Give Yourself a Break: The Power of Self-Compassion)をもとにセルフコンパッションを紹介させてください。
(あと、すみませんが私の英語力をあてにしないでください)
成長マインドセット
まず筆者たちはいくつか実験を行い、被験者の片方にはセルフコンパッションを促す方法を、もう片方には自尊心を促す方法の2通りの方法で自分自身と向き合ってもらいました。その後、被験者の自分を改善したいと願う意欲を計測しました。
これらの複数の実験の結果、セルフコンパッションを促したグループは自尊心を促したグループよりも過ちを犯した後に改心したり、同じ過ちを繰り返さないという決意が高い傾向が見られました。
セルフコンパッションの効果は失敗や挫折から立ち直るのを助けるだけでなく、成長マインドセットを支えることがスタンフォード大学のキャロル・ドゥエック氏によって示されています。氏の著作マインドセット(https://www.amazon.co.jp/dp/4794221789)は良書なので一度読んでおいて損はありません。
成長マインドセットとは自分は緩やかに変化しているので、性格や気質や能力といったものには努力次第で成長の余地があるという信念です。逆に固定マインドセットとは性格や能力といったものは生まれつきの才能で決定されてしまうので努力は無意味だと考えがちな信念です。
ドゥエック氏は起業やスポーツ、育児など様々なもので「固定」ではなく「成長」のマインドセットのアプローチをとることのメリットを実証しています。
筆者たちは今度は別の実験を行いました。2つの大学生グループに非常に難しいボキャブラリーテストを受けてもらう実験を行いました。とても難しいのでかなり点数は低くなりました。低い点数により大学生たちはネガティブなフィードバックを得た状態になりました。
片方のセルフコンパッショングループには「もしこのテストが難しくても、そう感じたのはあなただけではありません。このテストを受けたすべての学生にとって難しいものでした。もし出来が悪かったと感じても、自分を責めないように」と伝えました。
もう一方の自尊心グループには「もしこのテストが難しかったとしても自分を責めないように。この大学に入れたあなたは優秀なはずです」と伝えました。
その後、両グループに別のボキャブラリーテストを再び受けてもらいました。その際テストの前に予習の時間を与えました。するとセルフコンパッショングループは自尊心グループに比べて自分のボキャブラリー能力を成長マインドセットでとらえ、予習にかけた時間も長い傾向が見られました。
セルフコンパッションの高い人は失敗や挫折といったネガティブなフィードバックに対してもっと良くなりたいと意欲がかき立てられ、改善できるはずという確信が持て、より努力しようとするモチベーションが高まります。そして成長マインドセットにつながります。
本来の自分である(オーセンティシティ)
セルフコンパッションにより、職員は職場をより改善しようとしますがそれだけではなく、オーセンティシティ(自分に嘘偽りがないこと)を高め、時間が経つほど自分の性格や価値観に近いポストや役につくようになります。高いオーセンティシティはモチベーションを高めることにつながります。残念なことに、オーセンティシティは多くの職場では認知されていません。そのため、職員は「職場の規範に合わないために本当の自分を抑制しなければならない」、「自分が貢献すべきものに疑いを持っている」、「同僚や上司からネガティブな評価をされるのを恐れている」ために身動きが取れなくなっています。
ですが、セルフコンパッションにより自分が仕事や性格でどんな道すじをたどってきたか確かめることができます。そして時と場合によっては修正するのを助けてくれたりもします。
たとえば、セルフコンパッションを実践する営業幹部は四半期の目標を達成できなかった際は、次の四半期の目標達成だけに焦点を合わせるのでなく、自分の性格や傾向に合わせて適切な仕事を行っているか検証するでしょう。
筆者たちは実験を行い、被験者にセルフコンパッションやオーセンティシティについて毎日評価してもらったところ、セルフコンパッションが高い日はオーセンティシティも高く、両者の間で相関が見られました。
別の実験では3つのグループに分け、
・セルフコンパッションで自分の弱点と向き合う
・自尊心を高めて自分の弱点と向き合う
・単に自分の弱点と向き合う
を行ってもらった後、オーセンティシティを測定する質問に答えてもらったところ、セルフコンパッションで自分の弱点と向き合ってもらったグループが他の2つのグループよりも顕著に高いオーセンティシティが見られました。
リーダーシップを高める
セルフコンパッションのマインドセットはまわりにもいい影響を与えます。その影響は特にリーダーシップをとるような立場の人であればより現れやすいです。なぜかというとセルフコンパッション(自分への慈悲)は他人への慈悲と相互に作用するからです。そしてリーダーを中心にセルフコンパッションのマインドセットが広まれば、部下たちの間でも相互作用が起き、職場全体の改善につながります。
自分に対して寛容な態度や断定的でない態度をとると、他人に対しても親切に接するようになります。他人に対して思いやりを深めると、自分に対しても思いやりを深めるようになります。励ましや親切な言葉をかけられると自分も親切な態度で返したくなりませんか?
逆に上司であっても暴言や高圧的な態度で接されるとイライラしませんか?そんな時は「相手に貢献しよう」と言う気持ちではなく「相手に報復してやろう」という態度で接したくなりませんか?失礼な態度は失礼な態度を呼び、失礼のスパイラルを職場に広めかねません。
セルフコンパッションが成長マインドセットやモチベーションを高めることを考えると、セルフコンパッションはチームに有意義なフィードバックを与えるだろうと推測できます。
研究でも、成長マインドセットを持つリーダーは、部下のパフォーマンスの変化に注意をはらい、有意義なフィードバックを与えやすいことがわかっています。そしてそのようなリーダーの元で部下は、リーダーが成長マインドセットを持っていることを察し、「もっと成長マインドセットを持つように!」と言わずとも高いモチベーションと満足感を持ちます。
そしてオーセンティシティについても成長マインドセットと同様のことが言えます。
セルフコンパッションを育てる
セルフコンパッションは難しいものではありません。学び、伸ばせる技術です。なので「自分に優しくなんてできない」とか「自他共に厳しく接するのは当然だろう」とはじめから決めつけないで、少しだけ試してみてください。
例えば、時々3つのチェックリストを思い返してみてください
1. わたしは自分自身に優しくしているか?自分を理解しているか?
2. わたしは欠点や失敗がすべての人に共通の経験であると認めているだろうか?
3. わたしは自分のネガティブな感情を受け入れているだろうか?
もしくは、第3者の視点で友人や愛する人へ手紙を書くように、自分自身へ手紙を書いてみてください。
これからは破壊的なイノベーションが次々と起こり、新しい仕事が生まれては、これまであった仕事が無くなっていくでしょう。これを見てくれているあなたが就いている職業も10年と言わず、数年後には大きく変わったり、あるいはなくなっているかもしれません。
そのような変化の激しい中でセルフコンパッションの技術はより重要なものになっていくでしょう。
最後に
HBRの記事を短く要約してみたのですが、いかがだったでしょうか?「セルフコンパッションって結局のところどんな効果があるの?」という問いに応えられるレベルになっているでしょうか?
もし、この記事を読んでセルフコンパッションに興味がわきましたら、ぜひ日常でも実践してみてください
”何よりもあなたが努力して幸せになれますように。あなた自身のためにセルフコンパッションを持てますように”
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