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第二章あの頃 #05念じれば

失恋した、と言ってもすぐに忘れられる訳でないようだ。内藤くんの姿が見えれば見てしまうし、内藤くんの誕生日には「お誕生日おめでとう」のメールを送ってしまう。あの頃は、LINEなんていうものもなかったからメールをしても読んでいるのか読んでないのか分からないし、返ってくるかどうかやっぱりドキドキしてしまう。内藤くんのバイト先は、うちの近くにあるマックだったから、学校帰りにわざと遠回りをしてマックの前を通ってから帰ったりもしてた。会える訳ないんだけども。

もういい加減、内藤くんのことは忘れようと思って、これでマックの前を通るのは今日で最後にしようと決めていた。最後だから奇跡的にばったり会えたらしないかな、会いたいな、と念じながらマックの近くまで歩いてきた。マックの前に来ると向こうから見覚えのある人影が。「あれ、佐藤さん?」奇跡ってあるのかもしれない。たいした話はできなかったけど、声といい、笑顔といい、かっこよすぎる。忘れられるはずなんてなかった。人の決意なんて、すぐに揺らぐものだ。それにしても、この一瞬の時間で人はこんなにも幸せを感じられるものなんだな。

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