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ダーウィン『唯一生き残ることが出来るのは変化できる者である』→このデマが広まった理由とダーウィンの本来の思想を素人が解説する


自民党広報のツイートに対し、「ダーウィンはそんなことひとことも言ってません」と指摘するツイートがバズっている。

問題となっているセリフはこれだ。

ダーウィンの進化論ではこういわれておる
『最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。』

これに対して、進化の研究者の方が

ダーウィンはそんなことひとことも言ってません。ダーウィンの進化論を間違って広報するのはやめてください。

と指摘している。

この言葉のどこが間違っているのだろうか?
本来のダーウィンの進化論とはどういった内容なのだろうか?

これらの点について、素人なりに調べた内容をざっくりまとめた。

※書きやすさの観点から断定口調になっているが、生物学の素人が雰囲気で書いた文章なので信用しすぎないでほしい。正確な内容を知りたい人は記事末尾に列記した参考文献を合わせて読むことをおすすめする。

端的に言うと、有名なデマである

『最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。』 by ダーウィン

端的に言うとこれはデマだ。

ダーウィンはこんなことをひとことも言っていないし、現代の生物学界で支持されている進化論の内容とも明確に異なる。

ではなぜこんなに広くデマが広がってしまっているのか?

パンチのあるフレーズで印象に残りやすいからだろうか?

直感的に正しく聞こえるからだろうか?

どうやらそれだけではないらしい。

「政治的に利用されやすい」という点が大きいようだ。

進化論(を曲解したデマ)は政治利用されやすい

ダーウィンの進化論(を曲解したデマ)は、政治家の演説によく登場する。

自民党広報のツイートだけではない。

平成13年、小泉純一郎元首相の所信表明演説でも登場している。

いよいよ、改革は本番を迎えます。(中略)
私は、変化を受け入れ、新しい時代に挑戦する勇気こそ、日本の発展の原動力であると確信しています。進化論を唱えたダーウィンは、「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」という考えを示したと言われています。

この演説を聞いた人の多くはこう思ったはずだ。

『なるほど、変化が大切なんだな!改革を進めるべきだ!』

(実際にはデマなのに)科学的根拠が示されたことで、政策に説得力が出てしまったのである。

ダーウィンの進化論の曲解は、政治思想(イデオロギー)の一つのジャンルになっている

ダーウィンの進化論はしばしば曲解され、政治的に利用されてきた。

これは現代日本で始まったものではない。

なんとダーウィンが生きていた時代(1800年代)から世界中で繰り返されてきたのである。

「社会進化論」「社会ダーウィニズム」といった名前までついている。(※1)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E9%80%B2%E5%8C%96%E8%AB%96

これはもはや生物学ではなく、政治思想(イデオロギー)の一つのジャンルなのだ。

「社会進化論」は危険思想に繋がりうる

「社会進化論」の怖いところは、思想がどんどん過激化していくところだ。

「環境に適応して変化できたものが生き残る」

「環境に適応できないものは劣っている」

「劣った人間は淘汰されるべきだ」

こういったロジックで、種差別や障害者差別を正当化する「優生学」という思想に繋がっていく可能性がある。

これを防ぐためにも、我々はダーウィンが唱えた本来の進化論を知っておく必要がある。

ダーウィンが唱えた本来の進化論は『自然選択』である

『自然選択』というのは、『厳しい自然環境が、生物に無目的に起きる変異を選別し、進化に方向性を与える』という意味だ。(※2)

『唯一生き残ることが出来るのは変化できる者である』というデマとの違いがわかるだろうか。

決定的な違いはこの2点である。

①変異は無目的に起こる
②自然がそれを選別する

ダーウィンが言うには、進化というのは、個体のがんばりで引き起こされるようなものではない。

キリンの首が長いのは、高いところの葉を食べるために頑張って首を伸ばそうとしたからではない。

生まれつき首が長かったキリンが、自然に選別されたからだ。

進化を個人の範疇に矮小化してはいけない。

ダーウィンが『種の起源』を書いたのは1859年。今から161年前のことだ。

そろそろ人類は、進化論を正しく理解すべきではないか。

補足

※1 社会進化論の問題点は、生物学的な進化論を曲解していることだけではない。「何かが自然だから良い/正しい」あるいは「何かが不自然だから悪い/間違っている」と結論づける「自然主義的誤謬」に陥っている点も問題である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%AB%E8%A8%B4%E3%81%88%E3%82%8B%E8%AB%96%E8%A8%BC

※2 「自然選択」と似た意味の言葉で「適者生存」という言葉もあるが、これは比喩的表現であって科学的な用語ではなく、生物学でこのメカニズムに対して用いられる語は「自然選択」である。また「適者生存」という言葉は「環境に適応した者が生き残る」という意味に誤解される危険があるため、できるかぎり「自然選択」という言葉を使ったほうが良いと筆者は思う。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%A9%E8%80%85%E7%94%9F%E5%AD%98

参考文献


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