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「クローン羊短命説」にちょっと待った!健やかに過ごすドリーの「姉妹」たち

クローン羊ドリー、20年目にして続報です。ドリーの姉妹であるクローン羊たちはドリーと違い、普通の羊となんら変わらず歳をとっていっているそうです。

人工のクローンは短命かもしれない?
クローン羊は短命。そう言われたのは、世界で初めて、生殖に関わる細胞ではなく、体をつくる細胞からつくられたクローン羊ドリーが、通常の羊の約半分の生涯を終えたときでした。

ドリーは、羊の乳腺の細胞から遺伝子の詰まった核を取り出して新たな杯に移植することで、乳腺の持ち主と遺伝的に全く同じものとして生まれてきた羊でした。

そんなドリーは外からの感染症などではなく、老化のように時間経過と共に増えてくる病気である関節炎を通常の羊より早く発症、最期は肺疾患にかかり、安楽死させられました。ただし、この肺疾患は他の羊にも見られ、当初よりドリーがクローンであることとは関係ないと言われていました。

命の長さを決めるテロメアが短い?
早すぎる関節炎の発症に、1999年、ドリーのテロメアがもとより短かったのでは、という内容よ論文が発表されました。

テロメアとは、DNAの端にあり、DNAの複製のたびに短くなると言われています。そう、これはDNAを正常にコピーするための回数券のようなもの。コピーするたびに切られていき、テロメアがなくなれば、DNAのコピーは失敗し、細胞が死んだりがん化するといわれています。そのため、テロメアが正常に新陳代謝できるリミットを決めていると言われるのです。

ドリーはもともと6歳の羊の細胞から取られたDNAだったため、テロメアの長さがすでに6年分使われた後だった、と報告されました。だから、早く老化し、早く死んだのだと。

③同じように作られたのに健やかに歳を重ねる「姉妹」たち
ドリーの結果より、クローンはDNAを取り出した体の歳の分だけ、寿命が短いのだと、考えられていましたが、先月末にそれに「待った!」がかかりました。

ドリーと同じように体細胞からつくられた13匹のクローン羊たちが、健やかに歳を重ねている、という報告が出てきたのです。

羊たちは7歳から9歳。すでにドリーの歳を越していますが、関節炎の兆候をもつ羊はおらず、老化とともに出る他の病気、例えば糖尿病や高血圧なども見られませんでした。普通の羊と比べ、なんら老いている兆候はなかったといいます。

④問題のテロメアは?
問題のテロメアはどうだったのでしょう?実はドリーのあと、研究されたクローン牛ではテロメアの短くなる効果は見られていませんでした。また、他の種ではもっと短くなるものもいたという報告もあります。

その結果、テロメアについては、胚に移植された後、細胞が分裂して成長していく間に必要な場所では一度リセットされているのでは、という考えが主流になってきました。成長後、体のどこからサンプルをとりテロメアの長さを調べるかでも変わるのではないか、と。

新たな論文では、テロメアは寿命と関係するも、テロメアだけで寿命や老化のスピードが決まるわけではなく、非常に複雑なしくみがそこにはあるのでは、としめています。

⑤科学的真実は常に暫定的真実
昨今では科学技術が発達し、いろんなことがわかるようになりましたが、わからないこともまだまだたくさんあります。

科学的な最新結果は常に暫定的真実です。

今回もクローン羊についても、13頭では変な兆候はみられなかった、ということ。昔のドリーについては、13頭もの羊が健康なんだからドリーは何か他の理由で老化が早かった可能性が高いでしょうし、また、少なくとも、どんなクローンであれ必ず老化が早い、というような大きな影響がないことは確かです。
しかし、例えば10000頭に1頭ぐらいの確率でなにか起きるぐらいの小さな可能性については13頭で調べた今回の調査では何も言えません。
わかるのは、100%起きるような影響、50%の確率で起きるような影響、10%の確率で起きるような影響は十中八九ないだろう、ということです。

科学から断定的に決めるためには相当な労力が必要ですが、流れてくるニュースには「〇〇がわかった!」という断定的なものが多く、あとから否定された場合にもその否定のニュースは流れないもしくは目立たないことも多くあります。

こうして科学を話題にブログを書く身として、気をつけないといけないな、と改めて思わされたニュースでした。

【参考】http://www.nature.com/ncomms/2016/160726/ncomms12359/full/ncomms12359.html


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