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【掌編小説】ただいまの気配

あ、かえってきた気がする。

でも、今は目蓋が重くておもくて自分の意思では押し上げることができないくらい意識が深く落ちようとしている。
声も出せずに私はただただソファに仰向けになっているだけだった。
折角、帰ってきてるのになぁ……。
「おかえりなさい」と言えないことに悔しさを感じているとお腹と手のひらの間に何かが挟まった。少し細くて短い毛、ふわふわであたたかくて柔らかい。
あれ? 今までそんなことしてこなかったのに、珍しい。いつもは私が抱っこをしてもすぐに暴れて逃げるのにね。
だから、お腹に乗っている重さなんて全く感じないくらい嬉しい。

どんな体勢で、どんな表情でいるんだろう。見えないことがもどかしい。

そんな私の気持ちが強かったのか、手のひらで感触を堪能していると急にパッと意識が浮上して目蓋が開いた。
急いでお腹のあたりを見ても、もう、そこには何もいない。
まだ少し思考に薄い膜が張っているようなボヤっとした感じはあったが、行ってしまったことは分かった。残念、もうちょっと触っていたかったんだけどな。

次、帰ってくるのはいつになるのか……最近あまり帰ってこないからもう少し頻度を上げてほしいけれど、私の気持ちなんて構わず、またそのうち気まぐれに帰ってくるんだろう。

私の可愛い猫よ、外は雨が降っているから気を付けて行くんだよ。

それじゃあまた、夢の中で。

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