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素敵な大人たち 瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」

家庭環境が徐々に明らかに

瀬尾まいこさんの「そして、バトンは渡された」は、特殊な家庭環境で育った女子高生が主人公だ。

血の繋がらない父親と二人暮らし。
生れた時、水戸優子だった。その後、田中優子となり、泉ヶ原優子を経て、現在森宮優子を名乗っている。

なぜそんな事になっているのか。読み進むに連れて経緯が明かされていく。

不思議な温かい家庭

きっと複雑な家庭環境で育った不幸な女子高生の物語だろう。そう思ったとしたら大間違い。
担任との面談を前に優子はこう考える。
困った。全然不幸ではないのだ。少しでも厄介なことや困難を抱えていればいいのだけど、適当なものは見当たらない。いつものことながら、この状況に申し訳なくなってしまう。

義理の父親の「森宮さん」(決してお父さんとは呼ばれない)は、始業式の日の朝ごはんに、張り切ってカツ丼を作るような、どこかずれているところがある。だが、良い父親であろうという懸命な姿には不思議な温かさを感じる。

素敵な大人たち

入れ替わっていく親たちそれぞれも素敵な人たちだ。その中心となるのが、二番目のお母さん、梨花さん。
優子の父との離婚後も血の繋がらない優子を強引に引き取り育ててきた。梨花さんは計画性がなくハチャメチャでとにかく面白い。でも優子に強い愛情を注いでいる。
二番めの父親、泉ヶ原さんも懐の深い、理解ある大人だ。

素敵なのは親たちだけではない。
優子の担任教諭、向井先生も生徒一人ひとりのことを想い、よく見ている。卒業式の日にはクラス全員に手紙を配った。優子への手紙に書かれた言葉には心を動かされた。

そして、バトンは渡された

物語の最後の場面、視点が変わり、大団円に。親が次々と代わるという普通では考えつかない設定で、これだけ心温まる物語が紡がれたことに不思議な感動を覚えた。

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