【Outer Wilds】樹液ワインともう一回向き合ってみた
Outer Wildsという宇宙探索ゲームがあり、その主人公が住む村では「樹液ワイン」という酒が作られている。
筆者は、この飲料に関する考察の一環として、地球環境において樹液ワインの合法的な再現を試みたことがある。
本記事の目的は、この過去の試みにおける大きな瑕疵の指摘である。
かつ、すでにその瑕疵を補うための追加実験を敢行したため、経緯とともに本記事で報告するものである。
反省
指摘すべき瑕疵とはすなわち「原材料への考察不足」である。
筆者(2022)は材料の入手のしやすさを重視し、原材料にメープルシロップを選択した。
メープルシロップはサトウカエデという広葉樹の樹液を加工して作られる糖液である。一方、Hearthianが醸造する樹液ワインの材料は、マツを始めとする針葉樹の樹液(※1)とみられる。
しかし、広葉樹と針葉樹は代用として差し支えないほど系統的距離の近い種だろうか。
次の系統樹を参照していただきたい。
サトウカエデ(被子植物)とマツ(裸子植物)の分岐時期がおおよそ石炭紀〜ペルム紀であることが分かる。これは有羊膜類において爬虫類と哺乳類に至る系統が分岐した時代でもある。
メープルシロップをマツ樹液の代用とする暴挙など、牛肉と鶏卵の区別がついていないようなものではないか?宇宙人がステーキを再現してみた!といって卵焼きを出してきたら我々だって困るだろう。木の炉辺に広葉樹はないわけだし、分断は更に深刻だ。
また筆者(2022)はスギの幹に滲み出した樹液を摂取して可食判定を実施しているが、そもそも樹液は空気に触れると硬化して変質する性質があることを考えれば、これもかさぶたを食って血の味を論じるようなもので、乱暴な論理である。もっと真摯にマツの可食性を追求できたはずだ。
すなわち筆者(2022)の試みにおいては、原材料に関する考察が圧倒的に不足しているのである。
一方で諸々の物理的・社会的制約により、マツの樹液の入手および発酵が困難な状況は変わっていないのが実情である。
そこで筆者は、今回は「樹液を発酵させる」ことにこだわらず、樹液ワインの原材料と目されるマツを飲料に加工することを目的として、追加実験を行った。
追加実験
実は前回の記事を書いた1ヶ月ほど後、まだ若い青い松ぼっくりはジャムにして食べられることを知った。
青い松ぼっくりが採取可能なのは6月頃だそうだ。
採取の方法は色々考えてはいたのだが、探してみたらメルカリで売ってた。
早速ジャムに加工する。重曹を研磨剤代わりによく洗って、一度下茹でしてから、先程の参考文献に習い松ぼっくり重量の1.5倍の砂糖を追加して圧力鍋で20分加圧することにした。
腐った池の水みたいな膜が浮いてる………
水気が多いのでしばらく煮た。ここで白いアクが浮き始めたのだが、他に参照したレシピでもアクの対処については書かれていない。取らなくてよさそうなら放置したいところだが、一旦アクをすくって舐めてみた。
マツの暴力って感じの味だった。
アクを掬ったスプーンはなんかどうしようもないベタベタしたものがついてて食器用洗剤では全く取れない。多分松ヤニを松ヤニたらしめる成分が凝縮されてアクとして浮いてたのだと思う。絶望的な風味がするし、その後何を食べてもしばらく同じ味になった。心なしか腹も壊した。
期せずしてまさに「消化器官への過酷な挑戦」をしてしまったわけだが、もしかして木の炉辺においては樹液のアクを取らずにワインを醸造してるんじゃないか?Porphy、アクは取ったほうがいいよ、マジで……
あとから調べたらアクをとっているレシピもあった。
煮詰めた液体は粘度が高く、かなりペクチンの気配を感じる仕上がり。味は程よい酸味と木の爽やかな香りがあってかなり美味しい。この酸味は何??
希釈したらかなり綺麗な色になって驚いたのだが、しかし特に原液の方……これ……
ものすごくそっくりだ。'""""正解""""に近いのでは????
というわけで前回とほぼ同じことをしてひよっ子用松ぼっくりサイダーを作成した。
結論から言うとめちゃくちゃ美味い。ご当地サイダーで商品化されてそう。甘酸っぱさの後ろからしっかり松の香りがする。味が気になる方はとりあえず食用の松の実をかじってみることをおすすめします。後味が結構似てるので。
しかしこの松ぼっくりサイダー、飲んだあとにしっかり口の中がぺたつく。樹脂成分がまだ残ってそう。一気に大量に(リットル単位とか)飲むとお腹こわすかも。
木の炉辺の樹液ワインもこんなふうに「美味さ」と「消化器官へのダメージ」が両立する邪悪な飲料だったのかもしれない。
まとめ
今回の試みにより、木の炉辺の樹液ワインはちゃんと美味い飲料であるという可能性が捨てきれなくなった。Hearthian文化への解像度が多少なりとも上がったということで筆者としては満足である。
なお、松ぼっくりそのものはその後どれだけ煮ても""木""であり続けた。噛んでみたがやはり木だった。先行研究ではきちんとジャム化していたはずなのだが…。
ちょっとHearthianの気持ちが味わえて楽しかったです。