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【煩累】#2 友達がいない。

友達がいない。
そう気付いたのは、大学生活も終わりに差し掛かる頃。卒業論文も無事提出し、ついに卒業が目の前だ。就職先は、食品メーカー。初めてここ、福井県を離れることになる。
緊張と少しの期待が高まる頃、母の一言で、これまでの自分を顧みることになる。「あんた、離れる前に友達と会っておきなさいよ」

ここ地元は、好きでも嫌いでもない。海も山もある四季折々の自然に囲まれた平凡な土地。近くに古墳群なんかがあって、どちらかと言えば、やっぱり田舎。機械メーカー勤務の父と、パートの母、中学3年生の妹1人、犬2匹。美味しいものに囲まれ、好きなお菓子やおもちゃを買って貰え、まずまず恵まれた環境で育った、どこにでもいる、ごく一般的な学生だ。と思う。
地元に住んでいるからという理由で、これまでの友達と疎遠であることを問題に思わないし、それが将来の不安や心配事にも繋がらない。はずだ。


共学の高校を出た後は、当時第一志望だった地元の国立大学に進学した。その頃から特に得意なことがあったわけではなく、地元にキャンパスがあるというだけでそこを目指し、たまたま受験が成功したというだけの、身も蓋もない理由だった。大学で学びたかったことがあったわけでも、共通の知識を学んだり、ライバルとして励んだりするような仲間が欲しかったわけでもない。


参考として挙げておくと、電話帳アプリを見れば、50人を超える連絡先が表示される。大半は、学校の連絡網で、必要な電話番号。それと、両親、妹、祖父母の自宅、よく行く美容院、チマキとカブトの動物病院、宅配業者の再配達の番号なんかも含めた数字だ。
多いか少ないかは分からないけど、イマドキ、基本連絡はSNSだから、電話番号なんて交換しないし、これまで電話アプリを使ったことなんて数えるほどだ。
なんちゃって。それは強がりで、実際のところSNSで個人的に連絡を取ったのは、先々週。大学のゼミ仲間1人だけ。高校時代のかつての友達とは、一昨年の「あけおめ」スタンプが最後。当時あんなに仲の良かった私たちだけど、大学生活の4年間で、2回集まっただけなんだから、笑える。

一つ。言い訳しておくと、この大学でよく話す人はいたし、ゼミのグループでご飯だって行くし、一時期は彼氏だっていて、人付き合いを避けているワケじゃない。けど。

思うに、私は薄情者なのだ。少しずつ関係が希薄になってしまうのは、上手に友達を大切にできないから。だからそんな私も、継続して大切にされないのだ。自業自得。身から出た錆。因果応報?
積み重ねた会話や、共有した時間や場所が「友達」を形成するのだとしたら、私とかつての友達との間の4年間という空白の時間は既に、何なら今この時でさえも、私でない誰かが埋めてしまっているだろう。今からどんなに追いかけても埋まらない差が開いてしまったかもしれない。


どうにも埒が明かないので、今ここで、正直になる。
本当はとっくの昔に、気付いていたこと。
どんなにお互いの生活が変わっても、住む場所が離れても、いつでも連絡を取り合えるような、かつてのあなたのような存在が欲しいと思う。
永遠を誓い合わなくても、近すぎず、離れることもない、パートナーのような親友が、1人だけ欲しい。


私はその2ヶ月後、結局誰にも会わないまま、引っ越しを決めた。






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この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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