銀座の思い出
以下、大学生の頃の話である。
銀座京橋の弁護士事務所でアルバイトをしたことがある。昼休みに、銀座松屋デパ地下の弁当を買いに行った。帰りに伊東屋文具店に寄って、買えもしない万年筆を眺めた。
ある日、銀座三越に寄ってアップライトのピアノを見たことがある。しばし見ていたら、売り子さんがトップ蓋を開け、手前の側板も外して見せてくれた。売り子さんは、「ここに三越のマークが付いているでしょ」と少し自慢げに語りだした。
ある日、三越の屋上から向かいの時計台を眺めた。その時計台が何だかモダンで、かっこいいと思った。屋上から下りて三越の正面玄関を出た。右手外側にブロンズの大きなライオンが端座していた。そのライオンを擦るのが、私の習わしだった。
ある日、銀座和光の時計店に恥ずかしそうに入店した。買えもしない高級時計を少し緊張して眺めた。売り子さんは、私に声をかけることはなかった。
ある日、店の名前は忘れたが、和牛のステーキを食べたことがある。東京に来てお初のランチステーキだった。食べた翌日、会った学友がいきなりこう言い出した。
「◯◯君、顔色がピンク色になっているよ。」と。
「そうか、ステーキを食べると、顔色がよくなるのかあ。」
と心の中で思った。
ある日、京橋から三越に向かって歩き始めて数分すると、いつもより人だかりである。何だろうと、野次馬のように寄っていく。号外を配っているのだった。
その号外には、見たこともないような大きな活字で、「田中角栄元総理逮捕」と書いてあった。もみくちゃにされながら、その号外を手にした。
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