ハマスとイスラエルの交戦の現在地と日本の役割
この記事の前編にあたる「ハマスとイスララエルの交戦に見る歴史的背景」を読んでいただけただろうか。
今回は後編として、現在の状況とハマスがこのような行動に出た理由について考えてみる。
なお、前編よりかは短くするつもりなので安心して欲しいが、読むのがめんどくさい人は2023年10月の攻撃と国際政治の現在地という項目からでも読んでほしい。
オスロ合意
前編でオスロ合意について簡単に説明した。
ではなんで合意できたのにこのような事態になっているのかと疑問を持つ人が多いと思うので、それ以降の経緯を説明していく。
まずオスロ合意についてだが、この合意に関わったのは以下の人物たちだ。
ノルウェー:ホルスト外相
アメリカ:ビル・クリントン大統領
イスラエル:ラビン首相
PLO(パレスチナ):アラファト議長
※PLOはパレスチナ解放機構の略で第三次中東戦争で占領したイスラエルの占領地を奪還し、パレスチナ国家を独立させることを目標にしていた組織である。
なお、この合意の内容は以下の通りである。
まあつまり「イスラエルは国家として、パレスチナも国家みたいなもんとしてお互い認めましょう。第三次中東戦争で占領した土地からイスラエルは一旦出ていきましょう。」という合意だ。
この功績によりイスラエルのラビン首相はノーベル平和賞を受賞する。
みんな仲良くよかったね。めでたしめでたし。。
とはならなかった。これで終われば後編はすぐ終わるのに🥺
このラビン首相だが、1993年のオスロ合意から二年後の1995年、和平反対派のユダヤ人青年によって殺害されてしまう。
国際政治感覚がない人にとっては、「なんでせっかく平和になったのにそんなことするんや😭」と思うかもしれない。しかしここまで来る過程には戦争という名の血のコストをイスラエル国民は払ってきたのである。
せっかく戦争をして血のコストを払い手に入れた領土を時の政治家の一存で敵に渡し、おまけにノーベル平和賞まで受賞したらどう思うだろうか。
戦争の中で家族や友人を失ったかもしれない。そんなコストは全て無駄だったのか。と思う人がいても不思議ではないだろう。
この暗殺事件をきっかけにイスラエルの世論は過激な流れに傾いていく。
オスロ合意以降
しかもこのオスロ合意、ガザ地区とヨルダン川西岸でパレスチナの自治が始まったがその多くは実質的にイスラエル軍の影響下にあったこともあり、パレスチナ人の中に不満が溜まっていきやがて武装組織によるイスラエルへの攻撃が始まる。
そして2000年、イスラエルのシャロン党首(元国防大臣)による、岩のドーム(イスラム教徒の聖地)への訪問をきっかけに今話題のハマスはイスラエル軍への攻撃を本格化する。
※これを第二次インティファーダ(アラビア語で反乱)といい、第一次インティファーダは1980年代後半からオスロ合意までの期間行われていた。ハマスはこの第一次インティファーダ時代に設立された組織である。
このようにオスロ合意とは実は中身のない表面的な合意で終わってしまい、今日に至る。
※小学生の喧嘩が無理やり先生によって仲直りさせられ、「ごめんね😠 」「いいよ😠」となったものの全然仲直りできていないようなものだ。
なお直近では2021年5月、ハマスによるイスラエルへの攻撃とそれに対抗するイスラエルの空爆があったが11日間でエジプトが仲介し、停戦した。
2023年10月の攻撃と国際政治の現在地
とりあえず色々あってドンパチやってるのは分かったが、実際何が原因で起きたのかと、どこの国がどっちの味方なの?というのが多くの人の疑問だと思うのでそれを書いていく。
最初に断っておくが、何故起きたかは実際に武装蜂起を始めたハマスにしか分からないことだが、私が知る国際政治学者の主張を元に私の主観を入れてまとめていく。
国際関係の変化
イスラエルを巡る国際関係を簡単な図に起こしてみた。
※自分で描いた🥺
※ちなみにアラブの国の国旗は白、赤、黒、緑で構成されることが多い。この4色の意味は17世紀のイラクの詩人が作った歌に基づいて作られたと言われていて、この4色はアラブ(イスラム)諸国の団結を呼びかけるアラブの色と呼ばれる。
この図を見てみるともうイスラエルの問題だけではないことが伺えるだろう。
前編冒頭の結論で「英米派はイスラエル」「中露派はパレスチナ」と言ったのはこのような関係が背景がありそれを抽象化した結論であった。
この小項目は「国際関係の変化」なので何が変化したかというと、この中心に配置しているサウジアラビアなどアラブ諸国とイスラエルが、アメリカの仲介によって国交正常化しようとする動きがあったことだ。
これは当然パレスチナからしたら面白くないどころか、安全保障上の危機と考えてもおかしくない。
アメリカとしては石油産油国(お金持ち)のサウジアラビアなどとイスラエルが仲良くしてくれていた方が都合がいい。このようなお金持ちの国に影響力を持とうするのが英米のやり方だ。
※ほんとハゲタカだな、、と思う(悪いとは言っていない)
そして核の問題などでアメリカと仲が良くないイランは依然としてパレスチナ支持、同じようにアメリカと仲が悪い中露はイランと仲が良い。という構図だ。
勘のいい人は「あれ、日本はG7なのにここに入らないの?」と思うかもしれないがこれは後で書く。
ガザ地区内の状況
2006年くらいからパレスチナ自治政府の選挙では比較的穏健派が少数となりハマスなど強硬派が多数になって来たことを受け、イスラエルはガザを実質的に封鎖し、食糧や必要物資の搬入が難しくなっていった。
これらを契機に水や医療、生活必需品などのリソースが段々と枯渇していき、ガザの生活はより一層厳しくなって来ていた。
このような国民生活や国民感情も今回のハマスの攻撃の一因になっているだろう。
事実パレスチナの人々に対するパレスチナの指導者として誰が相応しいかという調査の結果
ハマスの指導者であるハニーヤ58%
パレスチナの現大統領アッバス37%
という結果が出ている。
国民感情としてもハマスを支持しているのだ。
公式の民主的な手続き上は違うものの、おそらく国民から高い人気を誇るハマスのことを、パレスチナ自治区を実効支配しているだけで国家とイコールではないという論理は正しいが、100%納得できる論理では個人的には無い。
イスラエル国内の状況
2022年の総選挙で現在の首相であるネタニヤフが率いるリクードという政党が第1党に、さらに友好関係にあるとされている極右政党連合が議席を倍増させた。これにより過半数の議席を占め、さらに左派系の政党は議席を減らした。
ネタニヤフはかなり保守的とされていてかつては(今回二度目の首相)オバマと衝突したこともあり、アメリカとの軋轢にも怖気付かない強硬派だ。
このような背景もありイスラエルは史上最右翼政権と言われていて、ハマスからすれば、これに脅威を感じ今回の攻撃に出たという考え方もできる。
日本の役割
これまで見てきた通り、米英とりわけイギリスのやったことは文字通り鬼畜だ。
パレスチナという土地に対する欧米の手は汚れ切っており、とても仲介できるような状態では無い。
できるとしても必ずイスラエルに有利な方向に進めるだろう。
個人的には親イスラエルであるが、日本政府としてやるべきことはここで外交的に仲介役を買ってでることができるかどうかを模索することではないか。
※地理的にも遠いので仲介役としては比較的適任かと思っている
私はテレビのコメンテーターが大した知識もないくせに常に「平和のために我々が、日本政府ができることはないのでしょうか」と思考放棄で耳当たりのいいことを言っているのが嫌いなのだが、今回は例外だ。
この問題に日本が良い着地点を見出すことができるとすれば、世界の中で日本は外交的に今後かなり優位に立つことができるだろう。
その意味で今回G7と敢えて(正直日本の外務省にはそんな頭はないと思うので、とりあえず怖いことには介入せんでおこくらいにしか思ってないと考えているが)歩調を揃えなかったのは
※図1を参照
仲介役を務める可能性を残したという点で評価できる。
※事実、外務省はこの問題に対してまだ課長補佐級の人間までしか実務として動いてないという話を聞いた
ただ一方で、こういう問題は一度介入すると尾を引くことにもなりかねないし、失敗すれば巻き込まれる事案でもあるので注意が必要だ。
(正直G7と歩調を揃えるのも全然アリだと思う)
終わりに
ここまで書けていなかったが、今回の紛争について私個人が気になっていることがある。
それはイスラエルの諜報組織モサドがこの攻撃の兆候を察知"できなかった"とされている点だ。
これはとても奇妙な話である。
モサドは名実共に世界一の諜報機関でその実力はCIA(アメリカ)やMI6(イギリス)をも上回っていると考えている。
そのモサドが本当に察知できなかったのだろうか。
ニュースの特集でハマスはこの攻撃をかなり前から準備していた形跡があるという話があった。
※攻撃後SNSでハマスは女性や子供を利用したプロパガンダを流布していて、そのアカウントの作成日はかなり昔からであるのに、直近までポストが0だったことがこの推測の理由とのことだった。
陰謀論チックになってしまうが、個人的にイスラエルはこの攻撃をある程度掴んでいたのではないかと思う。
※ここまでは客観的な事実や学者の意見などを参考に書いてきたが、このようなことを考えている人は私の知る限り今のところ私だけだ。
実は先制攻撃を察知していながらあえてその攻撃を避けないことにより、先に攻撃を仕掛けてきたのは敵だと印象付けることで、国際世論を味方につけるという戦術は昔から使われてきたものだ。
だからと言ってイスラエルが悪いということを言うつもりは更々無く、寧ろ私は親イスラエル寄りだ。
ただここで言いたいのは、世の中には敵に回してはいけない人や国がある。
それは単純な軍事力や外交的プレゼンスやGDPなど経済的実力では片付けられない、得体の知れない力を持った人々である。
私はイスラエルはこれに当てはまる唯一無二の国家だと思っている。
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