男の子になりたかった

学ランが着たかった。

どうやったらセーラー服じゃなくて学ランを着て学校に行けるかを、ずっと考えてた小学６年生だった。なんで女子はセーラー服で、男子は学ランなんだろうって思ってた。スカートなんて持ってなくて、いつもジーンズを履いていたから、急にスカートを履くなんて違和感しかなかった。

サラ・コナーみたくタンクトップに細身のパンツを履いて、マシンガンをぶっ放す女の人になりたいのにさ。セーラー服に機関銃じゃないんだよね、なりたいのは、って。

あぐらをかいてたら、お母さんに怒られた。スカートじゃないからパンツなんて見えないのにね。ばあちゃんちに行ったら、ごはんの準備の手伝いをさせられた。弟は何にもしなくていいのにさぁ。黒とか紺とか赤とかが好きなのに、もらったプレゼントの箱を開けたら、襟にレースがついたふんわりした白いシャツが入ってた。胸には可愛らしいクマの刺繍がしてあった。こんなの着れねーって思った。そのまま口に出して言ったら怒られた。

「かわいいね」って言われるより「かっこいい」って言われる方が嬉しかったから、もしかしたら男の子の方が向いてるのかもって思った。だから男の子になりたいのかなって思ってたけど、セーラー服を着てみたら、別に男の子になんなくてもいいやって思った。サッカーをしてる男の子にかっこいい子がいて、その子のことが好きだった。女の子は大好きだけど、女の子に恋をしたことはない。

セーラー服じゃない季節の、ジャンバースカートの下に着る規定のシャツは丸襟だった。丸襟は可愛らしくて苦手だったから、普通の三角形の襟のシャツを着ていった。別に性別なんて正直なところどうでもよくて、かわいいよりもかっこいいが好きなんだって思った。男の子も女の子も、かわいいよりかっこいいが好きなだけだって気づいた。

それに気づいたからって、女の子の集団にうまく馴染めるわけじゃなかった。男の子の集団なら馴染めるかなって思ったりもしたけど、経験がないから幻想のような気もする。

上靴を隠されたり、ハブられたり、変なあだ名をつけられたり、無視されたり。まあ、とにかく学生生活はめんどくさいだけだった。何かの付録についていたブルーハーツのCDをずっと聴いてた。泣き寝入りするのだけはカッコ悪いと思ってたから、絶対に学校は休まないと決めてた。かっこいい自分になりたかった。

あれから30年経った。色々あった。

あの頃の私に声がかけられるなら、まあ、なんとかなるよって言ってあげたい。今は、カッコよくてもカッコ悪くても、どっちでもいいと思ってる。どちらかと言えば、人間臭いのが好きだ。泥臭くてもいいから、ずるくないほうがいいなって思ってる。真正直に生きる方が、生きにくくても気持ちがいい。男の子にはなれなかったし、ならなかったけど、今は人間らしく生きてるような気がしてる。