お手マスターポッキーの悟り
吾輩はお手を覚えた犬である。
皆、吾輩をマスターポッキーと呼ぶが良い。
それではとくとご覧にいれよう。吾輩の華麗なるお手を!
へへへ。すごいだろ。
この技さえ披露しておけば、皆が吾輩を褒める。
そしてこの技を見たいがために、皆、吾輩に美味しい餌をくれるのだ。
しかし、この技をマスターするのに、吾輩は一週間程度の時間を要した。
お母さんがものすごい小さい餌を使って吾輩にこの技を習得させようとしたがために、吾輩は餌を喉の近くで詰まらせそうになり、何度かはかはと苦しい思いをしたことか。
吾輩はおすわりマスターとなり、伏せマスターとなり、そしてこのたびお手マスターの称号を手に入れた
。欲深いお母さんは次に覚えるべき技はおかわりだと鼻息荒く言っている。
人間の欲望とは際限のないものなのだな、と吾輩は常々思う。
一つできただけでは満足せず、次々に様々なことを要求してくる。
病気もせず、食欲もあり、うんこをし、元気に散歩に行くということだけでは満足しないらしい。きっと人の世とは世知辛いものなのだろう。たかがお座敷犬如きに、ここまでのことを要求してくるのだ。人は人にどれほどのことを求めるのだろうか。考えるだけで吾輩の身の毛がよだつ。マスター身の毛がヨーダつとなってしまう。きっと人間の欲求も要求も、上限というものがないのだろう。
空を見上げれば、そこには青い空が広がっている。
吾輩はそれだけで満足であるが、人は翼を欲しがり、星すらも欲しがるようだ。
この春、新社会人となる人間たちに伝えたい。
君たちを飼い慣らそうとする人間が、君たちの上にはきっとたくさんいるだろう。
彼らは多分、君たちの努力を褒め、そして餌をくれる。君たちはそれを評価されたと思うだろう。確かにそれはまごうことなき評価である。しかし、人間の欲求は止まることを知らない。さらなる努力を求められ、さらなる成長を強いられるに違いない。
マスターポッキーから新社会人となる君たちへ贈るメッセージはこれだ。
飼い慣らされるな。己の成長は己で決めよ。
吾輩は餌のためならば、飼い慣らされることも厭わない。吾輩は食欲の奴隷である。
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