救世主は、エメラルドグリーン。
私は完全に判断を誤っていた。
甘く見過ぎていたのだ。高校生男子の代謝の良さを。
息子が高校に入学する際に、シャツの購入枚数を何枚にするか悩んでいた私は、高校関連の掲示板を見に行った。
というような書き込みを読んだ。
じゃあ、とりあえず一枚買っとくか、と私は半袖のシャツは一枚だけにして注文した。
そして、夏。
今年はあつがなつい。
彼は、毎日自転車を漕ぐ。
片道、ものすごいスピードで漕いで30分。
試しに私が自転車で同じルートを漕いでみたが、頑張っても45分はかかる。
彼のタオルはいつも汗でびっしょりで、彼はいつもべたがあせあせしていた。
もちろん、こんなに暑いのに長袖のシャツなんて着るわけがない。
一枚しかない半袖のシャツを、毎日洗濯し、毎日着ていく。
雑に着たばっかりに、脇が破れたりもして、縫う羽目にもなった。
まさか、こんなに半袖のシャツがフルに活用されようとは。
3月の注文時には夢にも思わなかった。
「購買でシャツは売っとらんのか」
「半袖のシャツを買う方法を聞いてこい」
と私は息子に指示をした。
毎日毎日帰ってくる度に、その結果を聞く。
「あ、忘れとった」
の一言で済まされ、私は毎日毎日シャツを洗いながら、半袖のシャツを一枚しか購入しなかったことを後悔した。
梅雨が明けた頃から気温は上昇上昇。
毎日毎日、猛暑猛暑。
帰ってくる彼の半袖のシャツは、もうびしょびしょ。
徐々に濃くなる汗染みに、どないしよどないしよ。
そんな時にテレビ画面から私の目に飛び込んできたのは、あの色鮮やかなエメラルドグリーンのウタマロ石けん。
ツルツルピカピカになるとか言うあの石けんね、と私の頭に浮かんだのは一人の着物を着たおじいさん。
それは歌丸、と一人で脳内にツッコミを入れ、ウタマロ石けんについて調べてみた。
ウタマロ石けん、それは頑固な汚れを落とすすごいヤツ。
噂には聞いていた。
え?上靴。
持って帰ってきやしませんけど。
持って帰る時は、時すでに遅し。
真っ黒でボロボロで穴が空いているので、洗う必要なんかありません。
どうりで足が臭いと思ったよ。
上靴を洗う必要なんかない我が家。
クローゼットは黒い服ばかりの我が家。
そんな我が家に縁のないシロモノ。
それが、ウタマロ。
すでに長男の半袖シャツの汗染みは、かなりやばい。
けれど、安心して欲しい。
彼の通う学校は男子校だから、彼の汗じみシャツをみた女子がドン引きするという機会はない。
残念なことに、今のところ放課後に女子と会っている様子もない。
だがしかし、我が家唯一の女である私がドン引きしている。
盆休み中に半袖シャツ白クスル。ゼッタイ。
目指せ、2000ルクス。
と、早々にウタマロ石けんを購入。
ウタマロには固形とリキッドの二つの形状があった。
ガシガシとあの汗染みに擦り付けたいと思った私は、迷わず固形のウタマロ石けんを購入した。
グッとくる昭和感あふれるフォント。
切り刻んでイヤリングのパーツにでもしたくなるようなビビッドなエメラルドグリーン。
何この可愛さ。
突如石けんに悶える私。
私は石けんに悶えながら、いいよー、その顔すてきー、もうちょっとこっちみて、キミサイコーと、なぜか写真を撮り出す。
滲み出る変態感。
いやいや、そんなことをしている場合ではない、と私は我に返り、長男の部屋へと急ぐ。
クローゼットにかけてあった汗染みヤバヤバのシャツをひったくる。
洗面台にお湯を張り、シャツを投入。
グリグリと染みにウタマロ石けんを塗りつける。
ウタマロは割と柔らかく、非常に塗りやすかった。
お湯でモミモミとシャツをもむ。
お湯を絞り、そのまま洗濯機へゴー。
他の洗濯物と一緒に、ぐわんぐわん、いや、ざぶんざぶんと洗ってもらった。
洗濯機の擬音がよくわからない。そもそも最近の洗濯機は静かで音もしない。擬音など不必要。
洗い終わった半袖のシャツを干し、乾かした。
だいぶ白い。
完全ではないが、だいぶ白い。
概ね300ルクスといった程度か。
歌丸仕様に変換すると、30ピカピカだ。
よかった。
これでドン引きされることもないだろう。
いつか息子が出会うかもしれない女子に。
我が家の救世主、その名はウタマロ。
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