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《鬼次拍子舞》感想

もともと2022年2月の歌舞伎座第三部の席は先月の売り出し時に買ってあったのですが、月末に芝翫丈のニュースが飛び込み、さらに代役のおつとめが【坂東彦三郎丈】と聞いて「善は急げぇぇぇえええええ!!!!!!」と初日の席に即行大枚はたくに至り、買ったあとで「……待てよ 舞踊ってことは彦丈の美声は聞かれないのでは……?」と気づいたりしたものの まぁ劇場としては一等席がひとつ埋まって、自分としては近くで彦丈を拝めればオッケーオッケー、と心のハードルを下げて臨んだら、

ありました台詞!!!!!!浴びられたわ美声!!!!!!!!!
(あると思ってなかったので第一声で「ひょ、ひょわあわわ、わわわぁ~~~」って一回意識がトびかけた)

登場の音がかかって、"花道か!?花道ですのか!!?" ってソワソワチラチラ花道伺ってたらその隙に舞台どまんなかからお二人ともせり上がり始めてらしてアアア~~~ッてなったけど9割5分は見届けられたぞ

山樵に扮した彦丈を見て:「スイカだ……」

途中で着物を半脱ぎなさって中から赤い衣を見せる彦丈を見て:
「ますますスイカだ… 中身が出た…」

雀右衛門丈白拍子の最初のご発声が「すいか」だったのでびっくりしました
(たぶん「水干」でした)

彦丈の踊りは思ってたより優しげでありました
中身が武者ゆえ荒々しい、指先までビンと張った力強い動きを想像してたら、手の表情はどこか風を孕んで指の腹は柔らかく、宙に浮く見えないクッションへふわり、ふわりと沈むように止まってまた動いた
(手先がキビッとしたのは二度三度、手首を曲げて体の前で何かを掴み交わすような手振り等で、そのキレの良さに目がハッとした)
一方で腕の振りは大きく外へ円弧を描き、布と詰め物で膨らませられたボディがそのダイナミックな動きでいっそう大きく見え、"あぁ舞踊だ、これは確かに踊りなんだなぁ" とぼぅっと思った。

途中、白拍子と向かい合って、互いに腕を広げて伸ばした先の手を取り合う際、どちらが外側かやり直すようにチョッチョッと行き交う細かい動きが一瞬あって、あれだけイレギュラーな動作だったのかもしれないけど、他は危なげなくゆったりと、気持ちのよい時間でありました
前後にしゃがんだ雀丈と立位の彦丈が、すっくと首を立てて前を真っすぐ向いたまま、左右に顔を同時に振るとき、後ろの彦丈が合わせてらっしゃるのだろうけど、視線も落とさずズレも無く、ごく自然にふっふっふっ、と(下手側だったのでほぼわたしの目の前の位置で!)なさっておいでで、美しかった。肌が粟立った。

山樵の扮装からぶっかえって刀ピシャッと抜き放った彦丈はもちろん雄々しく美々しくかっこよかったです
花道でも!! 紅葉の枝を手にした雀丈と組み合ってくだすって!!!(※ひとつ前の記事で画像挙げましたが七三がほんの数メートル先でした) 花道で仰ぐ役者さんって国立劇場の平櫛田中の木像くらいの大きさで見えますね!!? なんだろうなあの意識の中のクローズアップは!!! 彦丈の額に汗がちらりと光って ”ああ生身でおられる” と思いました

せり上がりのご登場から、最後、定式幕に彦丈が隠されるまでほぼ彦丈を見つめ続けておりまして、シャッとお姿が見えなくなった瞬間に、我知らず詰めていた息をフッと吐いて雀右衛門丈へ視線を移したら妖艶に笑んでおいでの丈と一瞬バチッと目が合いました
合った気がしたんだよ  彦丈を見てたのを見られてた気がしたんですよ!ドキッとした!!!(一瞬ですぐに雀丈もお姿が見えなくなりました  ドラマみたいだった)

観覧中ときどき幾度も雀右衛門丈に対して「この方、つい先日まで別の美女をなさってたんだよな…(※そっちも観た)」と思っていたのだが、"別の美女だった雀丈" は分かるのだが ”中身は男性である雀丈” がどうしても想像がつかなくて(そういえば雀右衛門丈の素のお顔をまだ認識していない)、人間の白拍子のときも鬼女の松の前のときも女性であるようにしか思えなくて、幕の引かれる最後の一瞬まで "きれいなお姉さんが笑ってた" 感覚だけが鮮烈に残ったのでした。不思議だった

《鼠小僧》へ移る間の、休憩最初の10分ばかり、目を閉じて背もたれに頭を預けて今網膜に映ったものをじっと反芻していました

いい体験だった

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良い席買って一片の悔い無し


p.s. この時点で既に席代はぜんぶ回収した気がしてたので後の《鼠小僧》は丸もうけでした

高イ  席  良イ  覚エタ


p.s.2. 三部ひとつめの《鬼次拍子舞》の幕が開くといっぱいの紅葉で、続く《鼠小僧次郎吉》は雪景色が印象的で、季節が秋から冬へ移って、「これから来るのは春なんだよ」と劇場を出てからの明るい未来を示唆されたような気がしました
そうだとしたらそれは "願い" だなとも

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