《桜姫東文章》上の巻 感想:②桜姫(+権助)編

さーーていよいよヒロインです。

桜姫という結婚前のお嬢さんが、云うなれば「淫蕩」だの「邪淫」だので片付けられうるキャラクターであって、その設定上の淫らがましさをいかに美しく見せるかが舞台の肝なんじゃないかしら…
で、この「淫」の部分を、お客に見せるドラマとしては当時の道徳観に則して “悪因ですよね” て向きで使ってはいるけれど、物語としても今回の玉三郎丈の演り方としても、そこまで「悪いもの」としてみてないよね…?

脚本の面では、桜姫の性的欲求を打ち出す前に、腰元長浦の性欲を(それもかなり積極的な女性として)描くことで、桜姫ひとりが異常に淫蕩、という見方をかなり薄めていますでしょ。女性の性欲が、”(隠すべきものではあるけれど) 在って当然” くらいの姿勢が窺える。

演者の面では、お演りになる玉丈が、姫の性欲を「けがらわしい」とか「わるい」とか、一切お考えになってない気がすごくする。だから深窓で育てられた上品可憐な姫君が、その品格を保ったまま性の快楽に夢中になるのが、ひたすらいじらしくて可愛らしい。この場を余人に見られたらまずいことになる、とかって危機感や背徳感すらどこまで自覚しているか定かでない(※もう権助に気付いたとこから頭に無い気がする)。
なので育ちのよい娘さんとして恥じらいは示しつつも、かつて味わった性の “良さ”に向かってグイグイと突き進み、自らをさらけ出してゆくさまは、あまりの前のめりぶりに観てるこっちがひゃわわぁ…!!と赤面してしまうほどであるけれど、ひとかけらの汚濁も感じておらずエネルギッシュで瑞々しく、生殖的欲求と美とががっぷり組み合った「桜」のようで(ご存知のとおり我々が愛でてる花は生殖器官ですよね)、この時点でタイトル回収じゃねえか…!!と興奮してしまう。すごい。
こういう解釈(演じ方)は玉丈独自なんですかね…?どなたもこうお演りなんですか…?(初心者ゆえわからない)
(しかし桜姫の玉丈、こんなにも【花よりもなほ花】な御人がおってええん…?この世のバランスが崩れてしまわない…??)

したがって、ここでのエロシーンは、姫としてはやましい気持ちがほぼ無いし、権助はといえば竹を割ったようなきっぱりしたクズであるゆえに姫のことも人柄とか彼女の人生とかまるでなんにも考えてなくて(ただ顔が綺麗で身体が好かったお嬢さんがなんだか知らんけど自分からホイホイ身を差し出してきて今またまぐわえるな?儲けもうけーって単純にそれしか考えてないのがサイコーにサイテーで造形がすげえ)罪悪感なんて微塵も無いので、観客が勝手に窃視者になってドギドギしてるだけで、エロそのものは快楽に素直でいっそ清々しいっていうか春の野辺のような生命力に満ちてあかるくうっとりするように美々しいんですよね…

いそいそ近くへ呼びつける高貴な娘の様子を、はじめ訝しんでいた擦れっからしの権助が、やがて意図を察してスケベ心を露わにするときの表情がマジでやらしくて、それなのに顔の良さで恰好がついちゃうニザさますげぇ~~ありがてえ~~。(※土台が良いから…ってだけでなく「恰好がつく表情を演じている」わけですよねもちろん でも顔がいい…)
腿の合わせをかかとでぐりぐりされるときの姫は「あれ…」とか仰いながら袖でお顔を隠してらっしゃるんだけど(その様子も可愛らしいな!!!)、「いやその隠されたお顔をこっちは観たいんですよ…!!」というわれわれの心の叫びが伝わったかのように、襟の合わせから無遠慮に手を突っ込まれて直にちぶさをまさぐられるときは腕を下げて恍惚とするお顔を見せてくださるんですよね…(このお顔がまた光を放つようにうつくしい…)

権助の愛撫(※姫への愛じゃなくて自分への愛に思うけど)がいちいち粗野でガツガツしてるんで「えっこれ…えっこれ年齢制限設けなくていいの…!!?中学生以下に配慮とか要るんでは…!!!?」ってヒヤヒヤしてしまうんだけど着衣だからいいんですか!!?どうなってるの基準!!?
御簾が下がる直前の(あの場で誰が御簾を下げてることになってたのかぜんぜん憶えてない 中央の二人しか観てなかった)、アダムスファミリーの夫婦みたいにぐぐぅっと仰け反らせる抱き方で姫をホールドしてる権助の手の位置なんかさ、よくある【腰】じゃないの、【 尻 】をぐいと抱き支えてるんですよ ガ チ じ ゃ な い す か 「ヒエェッ…」て喉奥から息が漏れちゃうかと思った

で、こうした “欲望が色男のかたちして歩いてる” みたいな権助にたった一回(※「一度でか!?」て権助が念を押してたから朝まで何度も、じゃないんだよな…)手折られて、忘れられずに揃いの刺青までしちゃうほど姫がぞっこん心奪われたのがさぁ… べつに権助でなくてもよかったんじゃない…?その体験の相手がたまたま権助だっただけで、それ以来ほかの男を試さず貞淑に過ごしてたから比較対象が無いだけで、お育ちが良いから想像もせず冒険もなさらなかっただけで、もっとましな、ろくでなくない男にも夢中になれたんじゃないですか…?? (もしかしたら悪五郎でも良かったかもしれないじゃない…??) っていう気がひたひたとして、つらい。

物語の末を知らないので、この先桜姫がどうなるのかわからない(※お女郎に身を落とすのは知ってる)のだが、どんな生き方をしたとしても、何かしらの満足や幸福を感じられたらよいのだけどな…

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