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大阪松竹座《八重桐廓噺(嫗山姥)》の感想

※旧Twitterにも熱に浮かされてぼこぼこ書きましたので気になる御方は「from:@sarumal 八重桐」でご検索ください。


八重桐さんのステキさは、歌舞伎の “ステキな女性” が当然備えているべき見た目の美しさ、に加え、廓で培った教養を身に着け、咄嗟の機転が利き、見知らぬ屋敷に乗り込んでいく度胸もあり、ギーッと歯を剥き出して《身替座禅》の奥方同様に怒りを見せる親しみやすさや茶目っ気もある。要素を見てけばキャラとしては《毛抜》の粂寺弾正に近い。
逆に云えば【歌舞伎の「普通の」“ステキな女性”】に収まらないキャラの厚みと自由さがある。バイタリティーが強いというか、サバイバビリティーが高いというか。無敵さでいえば峰不二子と並ぶ。
この人があっちこっち行く先々で無限にスピンオフが作れるじゃんよォ……そんで全部演ろぉよォ……
こんなに魅力的な歌舞伎の女性に出逢えて良かった。すごい隠し玉である。大阪行って良かった!!!


 
隠し玉といえば魂消たのが萬ちゃん嬢のかわゆさである。”立役のなさる特異な女性” でなくてホンットにふっつーーに “可愛いガール” だった。女の子だった。未成年だった。三年間図書委員で居る女学生みたいだった。制服のプリーツスカートが膝より長くて。白の三つ折りソックスで。髪は左右で二つに分けておさげにしてて。
って思わせるのはお化粧が薄いからなんですよね!!白粉塗ってますってより、地色で白いですっていうより、日焼け止め塗ったら白くなっちゃいましたって感じの!!紅も唇の合わせめにほんのちょっと差してるだけで!!地味さにリアリティがあったっていうか!!かわいかった!!!
 
この地味~な(恋愛的おつきあいを未だかつて経てなさそうな)カチッと固めな女の子萬ちゃんさんと、廓住いで百戦錬磨のムッフンおねえさん時蔵[トキジーヌ]丈があんなにたっぷり絡んでくれて……まさかこのご兄弟(※通常バージョンご姉弟)でこんな百合百合しいのが観られるなんて……
ほんで地味ながらもどこかチャッカリしているというか、内面ではちゃんと自我が働いてそうな、その結果パキパキ仕事をしてくれそうな、《かぐや姫の物語》における女童みたいな様子で、八重桐さんとは違った方向の好ましいキャラクターで、すごく感じが良かったです。
 
 
 
八重桐さんの怪力が、けっして "超人" レベルではない(鳴神上人のような神の如き力ではない)ゆえに手水鉢を投げても描写が特撮やアニメにならず、現実と地続きの実写世界に留まっている。その塩梅がたいへんよろしい。馬を担いで崖を駆け下りたってぇ鎌倉武士くらいなら、無くもないかな?? って思わせるギリギリのところを突いている。超人であればその存在は観る者から遠く離れてしまうけど、"女にしては異常な剛力" くらいなら!
 
その塩梅にリアリティをもたらしているのが新時蔵丈の名演で、「ふんっっ💢」て思いきり踏んばった結果手水鉢を動かせたし、さらに力んだら投げ飛ばしもできた、っていう限界近い力の籠めようが実にすごい。腕や手指が嘘ついてなかった。舞台全体を支配する芸の大きさ華やかさみたいなものもお持ちだけれど、こういう細部への丁寧さも素晴らしいのよね新時蔵丈……。ええ役者さんどっせ……。


 力持ちの女性、というのがこんなに面白いとなると、"近江のお兼" も観てみたいのぅ…… 新時蔵丈で……。口に糠袋ぶらさげて……。



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