京極歌舞伎《狐花》感想:監物の邪恋と美冬の遺伝子
昨夜観ていて分かったんですよ、監物という男に対する罰の重さが……!
(※当方は原作読んでない状態でコレを書いております 18日以降に拝読します)
歌舞伎版ご覧になって、皆さん『手ぬるい』って思わなかったですか?監物の処遇を。『なんだよ辰巳屋も近江屋も因果応報で死んだのに大元凶が生きてんじゃん!!えっなんで!?なんでコイツ見逃すの!!?』て思ったヒト挙~~~手!!!ハイハイハイハイ!!!わたし思った!!!
そのうえで、憑き物落としに一貫して流れる “非暴力” のポリシーを際立たせているのだなぁと思って観ていたんですよ
でもね!!!それも中禪寺洲齋の人物描写だと思うんだけど!!それだけじゃないんだ~~~ギッチリしっかり報復してんだ!!と思ったわけですよ!!!
美冬なんだ。カギは。
最初っから最後まで美冬がこの物語を握ってるんだわ。
『美冬を自らの手で殺してしまった』ていう上月監物人生最大の不手際と後悔を鮮明に思い出させてやる、そのことがいちばんあの野郎に効く痛みなんだわ!!!!
お上の沙汰で百叩きになろうより竹刃の鋸引きになろうより牛割きになろうより、肉体をどんなにヅダヅダに痛めつけてやるよりも、その事実に直面させてやるほうが奴は辛いのよ!!!手中の至宝であった美冬を自分の手で死に至らしめてしまった愚行を思い出させてやるほうが!!!それを分かってて最も重い罰と報いを味わわせてやっとるんだ中禪寺は!!!!
監物は、ずっとずっとずぅぅ~~~~~っと、美冬を我が手で永遠に去らしめたことについて、悔やんで悔やんで、悲しみ苛立ち己の過失を憎み罵り憎み呪い続けていながらも、自分で認めていなかったのだわ。きっと認めてしまえば精神の均衡が崩れてしまうほどの痛手だったから。
それゆえ無意識に、防御本能で、ぶしゅぶしゅ血を吹き出している傷口に上からべたべた絆創膏貼って、不格好で巨大な生傷から半ば無自覚に目を逸らして生きてきたのだわ、まるで傷ついてないような顔をして。合理的な男だから。無駄を嫌う男だから。済んだことは仕方がない、その代わり美冬と血の繋がった雪乃を育てて身代わりにすればいい、それだけのことだと思い込んで、自分の意識にフタをしてたと思うのよこの二十年弱、
でも封印された傷口の中では新鮮な血が絶えずどくどく溢れていたのよ。
中禪寺に「あなたは本当は他人の死に心を動かされない人ではない」って言われるまで、周りの全ての人間に魔人の如く恐れられていた冷酷な権力者の胸の中に、どんなに微かでも常人の心が在り続けたことを看破されるまで(或いは憑き物落としの言の葉にそのように絡め捕られるまで)、自分自身をそういう人間だとすっかり信じ込めていたと思うのよ監物は。
でもそうじゃなくて(或いは “そうじゃない” ことにされてしまって)、そのフタを剥がされてどっと噴き出した鮮血に、お上の沙汰が下って重い刑罰に処されるまで、びたびたに塗れて溺れて苦しんでいろって、そうしてその苦しみから逃れるために命を絶つことはするなと、呪で行動を縛るように言い渡しているのよ中禪寺は…… それがおまえの償いだと言っているのよ……
周囲に居た、自分の野望を妨げる者、自分の役に立たぬ者を、無感動に無痛覚にばっさばっさと排除してきた監物は、きっとその非道さを自尊心に転換してたと思うんですよ。余人には出来ぬことを難なくしてしまう己は、それだけ偉大な傑物なのだと。凡人がそうであるように、くだらない情や血筋に縛られ揺らされるような脆弱な心を持たぬ、真に賢く強き者なのだと。
それを中禪寺は突き崩す。あなたとて凡人だ。普通の人間と変わらない。その証拠に、あなたは幽霊が見えるじゃないですか。あなたがあなたの過失で亡くした大事な人を、何よりも愛しかった人々を、今も未練に引きずっているじゃありませんか、と。
あと雪乃が「身代わり」なことについて、
『……執着した女性の血を引く “娘” が思いがけず失われた途端にさ、美貌の “息子” が現れたわけじゃない? ……息子でも身代わりにできたよね?スペアのスペアでぜんぜんよくない?あんなにキレイだったらさ。女体じゃないとダメなのかな??』
って話になったのであるが、(わざわざ陰間茶屋の単語を出してるしぃ……!!?)
監物が雪乃を美冬の後継者に据えたのは、単に美冬の遺伝子を継いでる女体だからってだけじゃないのだと後で思った。
【幼い雪乃を排除しようとして、誤って美冬を殺してしまった】わけだから、美冬を失うっていう人生最大の落度に監物が意味を拾い出そうとすると、つまり美冬の死という息の詰まるような絶望的な状況からなんとか酸素を吸うように次善策を見つけ出そうとした結果、
【美冬が自身の命と引き換えに守ったこの娘に美冬の命と意志が宿っていると見做し、第二の美冬に仕立て上げる】のが結論だったと思うの。完全に後付けだけど。自分を納得させるための詭弁であるけど、監物にとってはスムーズな理論だったのじゃないかしら。
(……ということにしないと(=遺伝子性スペア説を否定しとかないと)、女性的な美しさを持つ七丈萩之介はもとより、男性的だけどカオは確かに整ったこうしろさん洲齋だって “美冬の子” なわけで監物の食指がうご)……
いやすごいよな。すさまじいよな。 ”運命の女” だったんだよな。彼の前に元々在ったかもしれない人生を大きく捻じ曲げて吸引されてしまったんだ美冬という女性に。そんな呪いみたいな破壊的な恋にどうして出会ってしまったんだ哀れな監物。彼よりももっともっと哀れで気の毒な人を大いに量産した狂気の純愛。
雪乃が言うように、「人形のように」愛したんじゃなかろうか監物は。抱くための人形。愛しくて愛しくて、四年ものあいだ昼夜を問わず抱き続けて、それでも執着が薄れなかった大切なフィギュア。美冬が本当に人形だったら彼は死ぬまで変わらぬ愛情を注ぎ続けて異常ながら “幸福に” 一生を終えられたのでないかと思う。
生身の人間にその愛し方を平然と行使したのが彼の化物級の異常性の最たるところであり、それがために幾重にも人権を踏み躙った極悪犯罪者になったわけですが。
……って思ってるところに、
『そうか、萩之介が、「一度情を交わしたら萩之介しか見えなくなる魔性の男」みたいに言われてたけど、もしかしたら美冬もそういう人だったのかもしれないね……少なくとも監物にとっては……』
ってサシコミをキャッチして 大声で叫びながら仰け反り倒れました(※心象描写) いッ……いッ……遺伝子だったのかッ……!!!!!!
えッ……もしかしたら初期の監物としてはそんなにドン惚れしてるつもりなく己の獣欲と征服欲でモノにしちまえくらいで襲撃したのに「一度情を交わしたら」で……!!!???? アカンやん 夜の部とはいえそんなんカブキザにかけてよいやつでないのでは…… いやそうでもないか 正月の昼の部にもっとエグいやつやってたな……(※わたしたぶんこれ一生云う)
遺伝子で云うとさ~~~……萩之介と監物の似てるとこさ~~……
冒頭の曼殊沙華野原で萩之介が、「神仏に祈っても無駄ならば……この手で殺す他は無い」みたいなこと言うじゃないですか、
アレって監物が大詰で洲齋に嘯く、「迂遠に手を回して呪いをかけるより、自分の手で殺してしまえばそれで済む」ってな最短距離突っ切り理論と重なりますよね~~~~…… 思慮が浅くてその方法しか取れないのでなくて、頭がよくて思考を巡らした結果に最善手として直接の暴力を選択するのがさ………
あと、そうは言っても実際に腕力を振るうことは最後までとっておく非力な萩之介がお実祢とお登紀に用いた、”言葉で相手を操作する” 手段は、半分同じ血の流れる憑き物落とし:洲齋との共通点だなぁって思って……それが救いってとこありますよね……。発する声で相手を幻惑する能力……。
闘争と非闘争、襲う者と守る者、死者と生者、……道はまっぷたつに違えてしまったけれど、あなたたちはよく似た兄弟だったんだよ………(泣)
現パロ無いですか どこかに……洲齋萩之介の二人で生クリーム乗っけたドリンク仲良く飲んだりしてる世界は無いですか……
と、いうのが、昨夜までの歌舞伎版鑑賞の感想です。
原作で描かれている人物や物語も楽しみにしています。わくわく。
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