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「BLが教えてくれた人間関係」日記|小野寺

6月末に東京で開催される大規模な同人誌即売会イベントに、私も出展者として参加する。ボーイズラブの妄想をせっせと詰め込んだ小説の新刊はすでに製本済みで、自宅の隅に置いた段ボールの中で、誰かの手に渡るのを、今か今かと待っている。

私は小学校3年生の頃からボーイズラブの概念を理解していて、昔はおそらく仲間内への自己表現とか、仲良くなるためのツールとして使っていた。ボーイズラブを切実に好きになったのはいつからなのか、あまりよく思い出せない。
しかし、29になった今、私の人生からボーイズラブを切り離すのは不可能になっている。ボーイズラブとひとくちに言っても多様な創作の形があるが、とりわけ「二次創作」と呼ばれる、「原作のある作品のキャラクターに対して『萌え』、自分なりに物語を作る」という文化を、ものすごくものすごく愛している。この文化はもちろんグレーもグレー、関係者各位、出版社様・原作者様の黙認のもと行われている、ひそやかなお楽しみである。

そんなお楽しみを形にした即売会に、全国から万単位の人が参加するのであるから不思議である(我ながら)。
出展者はそれぞれの好きなキャラクターで、思い思いの妄想を本にする。別れ話をさせたい創作者もいればイチャイチャさせたい創作者もいる。
即売会では、本が手に入るだけでなく、いつもSNS越しに見ている本人と対面できたり、感想をしたためたお手紙やお住まいの名産品の差し入れをしたり、年齢もステータスも違うのに同じキャラクターのボーイズラブが好き、という一点だけで繋がって仲良くなれるのが楽しい。

人間のつながりってなんて不思議で、大きなパワーを持っているんだろう。それは仕事でもしばしば思うが、即売会で出展するようになってからよくよく身に染みて分かった。学生時代「誰かと一緒に何かをする」ことを極端に避けて生きてきてしまったから、今になったけど。一見意味のないようなことでも、楽しいから、やりたいから、やる。タイプが違くても、同じ船に乗り合わせた同士と、一緒に頑張る。時に助けて、助けられる。

大好きな漫画から学んだ人間関係を、今自分ができていることを、少し嬉しく思う(グレーな文化なのは本当に本当に、百も承知なんですけどね……)。

今回は自分で製本した新刊だけでなく、フォロワーさんが誘ってくださったアンソロジーにも参加させてもらった。私の住まいとは遠く離れた場所で暮らす、フォロワーさん。名前も年齢も知らない。けれど彼女はフルタイムの仕事と育児を両立させながらアンソロジー製本を企画し、私たち参加者に声をかけてくれた(ということを、Xを通じて把握している)。そして、1冊のアンソロジーを形にした。先日イベントに先駆けて通販サイトで予約を開始したが、人気すぎて2回カートが落ちた。仕事の合間をぬって追加納品の問い合わせに応え続け部数を増やして希望者に行き渡らせた彼女は本当にすげえ、と思った。思わず感謝のDMを送った。彼女はお礼を返してくれ、「会場で小野寺さん(ここはもちろんペンネーム)に会ったら泣いちゃうかも><」とも言ってくれた。

たまにボーイズラブ=非生産的な趣味、という極端な人がいるけれど、人間が人間の意思でやることには、生産性しかないと思う。これからも、人と一緒に何かをしていこう。そう思って、私の気持ちは上向いている。



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