サルのショートショート2【イカの宅配便】

 玄関のチャイムがなった。
 ちょうど外出しようとしていたところで、玄関にいた僕は何の確認もせずにドアを開けた。
「宅急便でーす」
 目の前には真っ白で、いかつい姿をした異形の者が立っていた。頭は尖っている。荷物を持っている触手的なものが複数本、ウネウネしていた。
「う、宇宙人?」
「宇宙人とは失礼ですね」人間の言葉を巧みに操り、その者は言った。
「私はイカです。それ以上でも以下でもございません」
 なんだ、イカか。確かに触手的なものが十本あるな。いやいや、まてまて! イカが喋っている? というか普通に宅急便の配達員をしている? これは着ぐるみか? それにしてもリアルな材質だなぁ、と思いながらジロジロ見ていると、イカの顔が厳めしくなっていた。
「私の顔に何か付いていますか? お客様にこんな事を言うのも失礼ですけど、あなた先程から失礼ですよ?」
 おっと、お怒りのようだ。いかんせん、こういう事は初体験なものでかなり動揺してしまった。
 とにかく早く帰ってもらおうと、急いでハンコを取りに部屋へ戻った。こういう時に限って、すぐに出てこないものだ。いかん、いかん。あまり待たせると何をされるかわからない。ハンコ探しを諦め、再び玄関へ向かった。
「す、すみません。ちょっとハンコが見当たらなくて。サインで良いですか?」
「じゃあ、手を出して下さい」
 え? 手? と思いながら、ちょっとムスッとしてるイカに、恐る恐る手を出す。
「失礼します」
 イカはそう言うと「ブッ!」と墨を吐いた。言うまでもなく僕の手は真っ黒に。
「ここに手形を」と、イカが一枚の色紙を取り出した。
「あ、はい……」
 これは斬新だな。手形を取られるなんて、まるで関取になった気分だ。しかし何故、色紙? 伝票にサインしなくて良いのだろうか。ま、いっか。
 こうして、イカの配達人は帰った。
 荷物は田舎で漁師をやっている祖父からだった。中には新鮮なイカがぎっしり入っていた。大漁だったらしい。
「それにしても……」と、玄関の方を見つめながら独りごちた。
「なかなかイカした体験、だったな」

 さて、この大量のイカどうしよう。こんなに一人で食べられないから、お裾分けでもするしかないか。あ、そこのあなた。
「イカ、いかがですか?」

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