Grade 9: Winter Break - Caught in between
5時間にわたる電話の翌日、1月6日 金曜日
この日お母さんと私は映画を観に出かけた。
私の母と母方の祖父は映画が好きで小さい頃からたくさんの映画を観に連れて行ってもらった。
それに当時住んでた南国は娯楽に限りがあった。恋人とのデート同様、買い物以外で出かけるとなると映画を観に行くくらいしかなかった。
この日母が観たかったのはElizabeth Town。
オーランドブルームが主演のロマンスである。
仕事で下手をしてとんでもない損失を招き、ちょっといい感じと思ってた同僚女性にも愛想をつかれこんな自分は死んでしまうがいいと自暴自棄になっているとき、幼い頃、まだ両親が結婚していた頃とても懐いていた父が死んでしまったと知らされる。
遺族を代表して疎遠になっていた父の葬儀の手続きを行うため父の故郷に向かう主人公ドリュー(オーランドブルーム)は、キャビンアテンダントのクレア(クリスティンダンスト)と出会う。
ドリューに一目惚れのクレアは自分の携帯電話番号を渡して、観光スポットは詳しいから連絡ちょうだい⭐️と伝え飛行機を降りるドリューをお見送り。
その夜、虚無のドリューはクレアになんとなく電話をしてみると、無邪気なクレアとは話が途切れることなく朝を迎えて..…
映画の後、お風呂に入るときもトイレに行く時も電話を離すことなく喋り続けるシーンを見て、「SarryとHageくんみたいやな」と母は言った。
私も同じことをちょうど思っていたので苦笑いだった。
お母さんはいつでもお見通しなのだ。
その夜、いつも通りMSNにあがった。
母国に帰ってるIちゃんと昨夜起こった一連の出来事を相談するために。
こんな時に限ってEくんもオンラインだった。相変わらず I Love Uのフレーズがない。
本当はEくんに話しかけたかった。
最近どーう？早く会いたいね、Eくんは私に会いたい？まだ好き？そういえばHageとこういう話になってさ。どう思う？どうあなたは反応する？私を手放したくないと言ってくれる？
だけどI Love UがないからEくんはもう気持ちが変わってしまったのかもと妄想して話しかけれなかった。
I: いや、それだよねーー
Iちゃん: だけどそれはただの表示名だよ…
Iちゃんには、電話がHageからあったこと、そうしたら急に昔の打ち明け話になったと全て洗いざらい話した。
Hageと話してると話題が尽きなくて笑いが止まらず楽しいこと、Eくんとはこんなふうに話せないだろうことも。
だけどHageと電話を切った後、Eくんとの楽しい思い出がたくさん蘇って、Eくんとは離れたくないとも思ったことも。
私の気持ちは「ブランコ」のように大きく揺れていた。
Eくんが好き。離れたくない。だけどEくんとこのまま何も知らないふりして付き合うのが良い？
Hageと付き合う？でもHageのことが好きなの？そうじゃない気がする。Fちゃんは？Eくんは？夜にHageから電話がかかってきてたことを知っただけでHageに嫉妬したEくんだよ？傷つけてしまう。もしかしたら立ち直れないかも。そんなんでいいの？ハイスクールの先輩たちにあのGrade9たち...って噂されてしまう。Hageが学校中の人たちと気まずいことになってしまうかも。
…周りの人たちを傷つけるくらいなら、私は、そもそも、誰とも付き合わない方がみんなハッピーでいいんじゃないの？？
IちゃんはEくんと私のことを引き合わせたプライドも少なからずあったし、Eくんと私をずっと応援していたのでHageのほうに気持ちが揺れていく私を引き止めるために「Hageがやっていることは間違っている」。
「彼女がいる身分でこんなこと言うなんてありえない」。
「彼女であるFちゃんに今これができるのであればもし今後あなたがHageと付き合うのであればきっと彼は同じことをあなた(彼女)にもできるよ？」と諭してきた。
だけど、Hageの気持ちも理解できた私はHageを責めることもできず「色々過去がわかっちゃった今、後悔するね〜って話をしてたからさ....」と彼の立場を守るような発言を繰り返した。
そもそもこんなに悩むのはEくんとしばらく話してないからだよ。何も起こってないように気軽に話してみな、とも言われた。
気になるのであればもうそろそろ3ヶ月になるけど どう？まだ私のこと好きでいてくれる？とか聞いてみちゃえば？と。
私としてもそれは分かっていて、だけどMSNの名前が変わったEくんに話しかけに行くのはやっぱり勇気がいった。
今まで取られたことない冷たい態度を取られるんじゃないかと傷つくことを先回りして怖がっていた。
Iちゃんとの話が続く中、HageがオンラインになりMSNで話しかけてきた。
「こんばんは」
今晩中に、Fちゃんは日本から帰ってくる。
気がついたら壁に囲まれていて身動きが取りづらくなって行った。
出口が見えない。
誰かを傷つける道しか見えない。
Eくんがここにいてくれたら。私のいるべき場所はEくんの隣だと言ってくれれば。そうすればその通りにするのに。
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