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【スタッフブログ】国家とは、市民とは、報道とは?様々な問いかけが胸をえぐる『コレクティブ 国家の嘘』

ルーマニアを震撼させた、前代未聞の巨大医療汚職事件

2015年10月ルーマニアのクラブ「コレクティブ」でライブの最中に火災が発生、出口が一つしかないクラブでの火災は27名の死者を出す大惨事となった。ところがその後、病院に収容された患者も次々と死亡、最終的に64名の死者が出る事態に。死者の増加を不審に思い調査を始めるスポーツ紙の編集長、事件後に新たに就任した保健相の姿を追い、医療をめぐる企業と病院、更に官僚と政治家の癒着の実態を暴きだすドキュメンタリー。

映画は初めの方で「コレクティブ」の中に居た被災者が撮影したと思しき火災当時の模様を伝える動画を紹介していますが、ステージで演奏者が「何か燃えてるぞ」という場面から、天井に火が回り、阿鼻叫喚の惨状と化すまで僅か1分ほどで、こうした現場で火災に遭うことの恐ろしさを伝えています。
しかし、この映画がテーマとする問題はその先にありました。
病院で死者が次々に増加している状況は、関係者の「ドイツと同程度の高度な医療を施した」とする発言とは別に、大きな問題が潜んでいたことを強く示唆するものでした。
映画は、死者はなぜ増加したのか、その背景にある病院と企業の腐敗、官僚、政治家との癒着を明らかにしていくのですが、一種の謎解き要素も孕み、観る者を引き付けます。

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次第に明らかになる問題のあまりの深刻さに驚愕するとともに、これはルーマニアという国の極端な事例だという気もしてくるのですが、よく考えてみれば、程度の差こそあれ、硬直化した社会の仕組みがもたらす癒着や利権を吸い上げる仕組みが密かに醸成されてしまう、といったことはルーマニアに限らず、世界のどこにでも、いつの時代でも、起こりうる問題だということに気が付くのでした。
具体的な事例を持ち出すまでもなく、今日の日本においても、これと同様な事例は幾度も繰り返されているわけです。

また、映画は不正が明らかになった後で就任した新任の保健相に密着。
政治とは縁のない銀行家で、また慈善事業のアクティビストでもあり、こうした人物を担当に任命することで、ある意味では政権のこの問題に対する本気度が窺われるのですが、実際に就任してみると、噴出するさまざまな旧弊に阻まれ、なかなか思うように改革が進んでいかないさまをありのままに伝えていきます。
しかし、カメラが目の前にある、という一種の逃げ場がない状態に置かれているためか、あるいは本人の信念の強さに裏打ちされたものか、徐々にではあるが、その成果が見え始めてくるのです。

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問題のあまりの深刻さと根深さという、あきれてしまうほどの酷い状況からルーマニア政府がこの事件から反省すべき部分を洗い出し、徐々に正常化しようとしている状況を見ていると、最悪な状態も放置せずに改革しようと思えば、不可能なことなどないのではないか、という気になってくるのでした。
こうした人物が問題解決の担当相となり、成果を上げつつある状況を見ていると、翻って日本の政治家で、これほど誠実に事態を収拾するべく奮闘できる人材がどれほど居るだろうか、という思いにも駆られるのでした。
また、それを後押ししたのはマスコミの地道な調査報道と民意の後押しであることを思うと、こうした不正に対して、マスコミの果たす役割というものが決して小さくないこと、更に不正を追及し、その根源にある問題を市民に明らかにすることで、社会は改革しうるものだ、ということをこの映画は明らかにしているのでした。

示唆するところの多い、学ぶべき部分の多い映画だと思います。

『コレクティブ 国家の嘘』上映期間・時間

10/29(金)~11/4(木)①10:00~11:55
11/5(金)~11/11(木)時間未定(11/1には決定。HP等でご確認ください)

http://www.cine-gallery.jp/

​(C)Alexander Nanau Production, HBO Europe, Samsa Film 2019