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この男、ヤバすぎる。『THE MOLE ザ・モール』【スタッフブログ】


平凡な元料理人は、どのように北朝鮮を欺いたのか。潜入期間10年、危険極まりない諜報活動が、今語られる

2011年、デンマークの元料理人ウルリク・ラーセンは北朝鮮をテーマとしたドキュメンタリー映画『ザ・レッド・チャペル』で入国禁止となったマッツ・ブリュガー監督に北朝鮮に潜入する映画を作ってほしいとメールを出した。大きな事件でもあれば作るかもしれない、と素気ない返事を返した監督に対し、ウルリクは自らが北朝鮮に潜入して撮影もする、という。その後10年に亘り潜入取材を続けたウルリクの様子を伝える驚きのドキュメンタリー。

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本作で驚くべきは一介の料理人でしかないウルリクが、北朝鮮の制裁逃れの闇取引の現場を押さえるために費やした時間と労力の大きさ。
ウルリクはまず北朝鮮に入国する手段としてコペンハーゲンの北朝鮮友好協会に入会し、協会内で信用を築き、北朝鮮への入国を果たすと北朝鮮の国際的な親善組織・北朝鮮親善協会(KAF=Korean Friendship Association)の会長アレハンドロ・カオ・デ・ベノスの信頼を得て武器取引の実務を行うまでに至る。
ウルリクは家族にも潜入の目的や秘密を明かさず、その過程のすべてをカメラに収め、それを10年もの歳月をかけて記録し続けた。
デンマークのみならず、アレハンドロと並んで欧米の北朝鮮シンパの広告塔としての機能を任された人物が、実は潜入取材の単なる手段だったという、仕掛けの大きさには驚くほかありません。
そこで暴露されるのは、北朝鮮の行う国連の制裁逃れの巧妙な武器取引の手法や、闇市場における武器取引の需要のバラエティの豊富さ、一種のカルトとさえ思える北朝鮮シンパの国際的ネットワークの広さなど・・・
実際の闇取引の様子は、映画を観ていただくとして、意外だったのはリアル系のスパイ映画などでよく見る隠蔽手段というよりは、『007』的ともいえる一見現実離れしたフィクションっぽい偽装を用いて武器の製造プラントを準備していこうとしているところ。
「事実はフィクションより奇なり」を地で行く展開にはただひたすら驚くよりほかありません。

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そこで描かれる実態を目の当たりにすると、単なる禁輸を国際間で取り決めたとしても、制裁逃れの具体的手法を知り、ルートを絶たない限り、こうした闇取引で北朝鮮に流れる違法な資金を絶つことは非常に難しい、という現実を知ることになるのでした。

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映画はまたこうした危ない橋を渡ることでウルリクが強いられるプレッシャーもまた正直に映し出していきます。
盗聴がバレた場合や、虚偽が相手に知られる恐怖を感じながらこれだけの大仕掛けの芝居を続けることのプレッシャーは並大抵のことではないと思います。
闇取引がより具体的になり、事態が次第に複雑化することでウルリクが感じるリスクの高さが次第に高まっていく様子は、単なるドキュメンタリーの範疇を超えて、バレたら死に直結するであろう危うさが観る者にも大きな緊張をもたらすのでした。

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映画はそうした恐怖が臨界点に達しようかというところでひとつの落としどころに収まるのですが、そこにはこの10年にも及ぶ潜入の結末に相応しい驚くべき結末が用意されているのでした。
本作は、観る者を現実の世界で行われている最も危険な闇取引の現場に連れていく体験型ムービーであるのと同時に、国際的な武器取引の闇市場の実態を告発する非常に大きな役目を負うという、まったく異なる要素を統合した驚くべきドキュメンタリーなのでした。(ラウペ)

静岡シネ・ギャラリー上映情報

『THE MOLE ザ・モール』2021/11/12(金)~11/25(木)上映
11/12(金)~11/18(木)まで
①10:00~12:05
11/19(金)~11/25(木)にて終了
①11:55~14:00

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