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母ブタGUNDAと農場に暮らす動物たちの深遠なる世界『GUNDA/グンダ』

農場で暮らす母ブタGUNDA。子ブタがたくさん生まれ、乳を吸う子ブタを素っ気ない様子で見守る。ニワトリや牛の様子も織り込みながらGUNDAの日常を追ったドキュメンタリー。

全編モノクロ、ナレーション・クレジット・音楽なし。ただひたすらにGUNDAたちの様子を記録したこの作品は、観る者の感受性を試すかのようでもある。映像はひたすらに美しく、全ての場面が絵ハガキのよう。カメラは固定か、ごくゆっくりしたパンでGUNDAたちの様子を記録していきますが、モノクロとはいえ、非常に良く録られた音響の効果もあり、目の前にGUNDAたちが居るようなリアルさがあります。

生まれたばかりの子ブタはへその緒もついたままで、GUNDAの乳を吸おうとする。10匹近くはいるようですが、あまりの活発さに、それはまるで虫の幼虫ようでもあり、ちょっと微グロともいうべき雰囲気。
生きている、というこのダイナミズムを感じずにはいられない映像。
とはいえ、GUNDAたちブタの生態をリアルに切り取った、ということから感じる感興とその美しい映像から、観る者は何を受け取るか?

ブタは泥んこも好きで、ブタのじっとりしたウェットさがスクリーンからも伝わるのですが、匂いが伝わらないことでちょっと助かった、という気もしてきます。ブヒブヒ言うだけのGUNDAに表情の変化を見ようとするも、基本的に感情が顔に現れる様子はない。

片足だけのニワトリや牛、時折聞こえるバイクなどの音や電気柵の電線などで、野生ではない、農場で暮らしていることが伝わるのみ。
映像をずっと見続けていくと、いつの間にか、子ブタがだんだん大きくなっていることに気づきます。

人の姿はまったく登場せず、大きくなっても乳を欲しがる子ブタにやはり物憂げに乳を与えるGUNDA。
この場所ですべてが完結する、安閑とした一種の楽園かもしれない、というべき状況が続きますが、あるとき、それまで出ていなかったトラクターが登場・・・
続きはぜひご自身の目でご確認いただければと思います。

人は生き物を生活の糧として利用しているので、人に飼われている動物はある意味で単なる“資源”でしかないわけですが、その“資源”である家畜も、個々の生命として活発に活動し、子を育て、命を繋いでいこうとする。それを殺すことの重大さ。
レプリカントの旧タイプが人の都合で欠陥品として処分される『ブレードランナー』や、人を電気の通る有刺鉄線の中に囲い、使役したのちに(いや、多くがそれすらも行わずに)殺処分するナチスの収容所といった例を見るに、人と非生命、家畜の間にあるボーダーはいったい何をもってそれを仕分けるのか・・・観終わってみると、さまざまなことが頭をよぎります。

単なる映像の美しいだけのドキュメンタリーではありません。
せめて我々は、ご飯を食べるときに「いただきます」と言わなければならないのだ、と改めて思うのでした。

上映情報

1/7(金)~1/13(木)連日①11:45~13:20
1/14(金)~1/20(木)連日①19:35~21:10
映画『GUNDA/グンダ』オフィシャルサイト (bitters.co.jp)

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