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【スタッフブログ】マンハッタンの片隅の、誰も知らないアパートメントで『ジャズ・ロフト』


マンハッタンの片隅の、誰も知らないアパートメントで――歴史はつくられた

写真家ユージーン・スミスは1950年代の半ば、ニューヨーク郊外のクロトン・オン・ハドソンの瀟洒な邸宅に妻子を残し、マンハッタンの花問屋街にある古びたロフトに単身引っ越してきた。そこにピアノを持ち込み、ジャズミュージシャンたちを呼び寄せ、至る所にマイクロフォンを設置してセッションの模様を録音しはじめた。ジャズ・ロフトと呼ばれた彼のロフトでの活動を記録したドキュメンタリー。

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『MINAMATA-ミナマタ-』でジョニー・デップが演じたユージーン・スミスが、水俣に行く前にどのような活動をしてきたのか、またその人となり知るのに恰好のドキュメンタリー。
映画はまずジャズ・ロフトプロジェクトの発端を概観したあと、写真家ユージーン・スミスの徹底した写真へのこだわり、妥協のない仕事ぶりを紹介することで、ジャズ・ロフトにおける活動が、そのあくなき探求心に裏付けられた同じベクトル上にあることを描いていきます。
モノクロで、明暗のダイナミックなコントラストと徹底的に考え抜かれた絵画的構図こそユージーン・スミスの写真の大きな特色ですが、特に写真のプリントにおける妥協のない作業の様子を示すことで、その作品とこだわりの秘密に肉薄していきます。
何かに没頭する人間にありがちなことですが、活動に没頭するあまり、家族を顧みることが疎かになり、家を飛び出してしまうユージーンは典型的な芸術家の姿そのもの。
マンハッタンのロフトがたちまち写真に埋もれ、窓の外が市井の人々のドラマの舞台として被写体となる様子は、彼の引っ越しは必然であることが窺われるのです。
そこで紹介される写真のどれもが大変素晴らしい。
やはり稀代の写真家であることがはっきりわかります。

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彼の音楽的趣味もあったことと思いますが、ロフトがジャズメンのたまり場となり、またジャムの模様を録音したくなるユージーンの気持ちも、何かにのめり込みがちな人には身に覚えのあることだと思います。
マイクセッティングをさまざまに変えつつ、テスト録音を繰り返すユージーン。
日本では慣習的に“ユージン・スミス”とカタカナで表記していますが、本作では“ユージーン”との表記。
英語の綴りはWilliam Eugene Smithであり、また愛称も“ジーン”であることから“ユージーン”が本来の発音に近いと思われましたが、果たして本作では彼自身の声で“ユージーン”と発音している決定的なところを聞くことができます。

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彼のロフトには噂を聞きつけ、さまざまなジャズメンたちが集まってきます。
中でも作曲家でピアニスト、教育家でもあるホール・オーバートンはロフトに住み着き、活動の拠点とするなど、演奏の場を欲するジャズメンにとり、昼夜の別なく演奏できるロフトが彼らにとって重要な場所となっていく様子が窺えるのです。

ユージーンがセッションの模様以外にもラジオや来客者の声までなんでも録音しているという事実は、多岐に亘るさまざまな事象への興味が尽きないことの左証であり、ジャーナリストとしてのアンテナの感度が高いことの現れであるともいえるでしょう。
キューバ危機を伝えるラジオや警官の見回り、ズート・シムズの初訪問の様子、そしてセロニアス・モンクのリハーサルまで。
殆ど手あたり次第の録音の多様さを今に伝えることで、ユージーンの活動の源を知ることができるのでした。

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ロフトでの活動はやがて終わりを迎えるのですが、ジャンルの異なる芸術家同士のコラボレーションと何かを求め合うお互いの共感が刺激となることで、ユージーンが新たな活動に踏み出す足掛かりとしたのだ、ということが実感されるのです。
ユージーンがロフトを出て向かった先は、言うまでもなく、日本の水俣なのでした。(スタッフ:ラウペ)

『ジャズ・ロフト』上映期間・時間

2021/10/15(金)~10/28(木)まで上映
10/15(金)~10/21(木)
①17:55~19:30
10/22(金)~10/28(木)
時間未定 (10/18には決定。下記公式HPにてお確かめください)

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