心が死んじゃった私とミスiDのあの子の話

 私は今ミスiDにエントリーしているけど、これはそれとは関係あるけど関係ない、私が私として伝えにいかなくてはいけないあの子へのありがとうのお話です。このありがとうは自分からあの子に直接伝えたいから、ここではあの子の名前を伏せてしまうけど。

 私は、大学でしていた活動で、役職に就いていた。
 40代の男性講師が活動の指導にあたっていて、役職は逐一仕事の連絡や相談をメールでしていた。
 その人はちょっと脅して仕事をさせる傾向があって、「あなたがこれを早急にやらないと他の役職の手伝いをやめます」とかメールで送られてきたりした。私はそのやり方がどうしても合わなくて、深呼吸しないとメールが開けなかった。だんだんメールを読むたび泣いたり過呼吸になったりしていた。
 今思えば、そのやり方をやめてほしいと、お互いに円滑に仕事を進めていくためにも、話し合うべきだったんだけど、当時はもう既に追い込まれてしまっていて、他の役職の子からも「こっちの手伝い止まっちゃうから早めにやってね」ってお願いされて、「このやり方をみんな受け入れてるんだ。こんなに変だと思ってるのは私だけなんだ、とにかく仕事をやらなきゃ迷惑がかかる、やらなきゃやらなきゃ」ってなって、でも、どんどんどんどんできなくなっていった。自分の中の違和感を放置したままにしていたら、開いた穴が広がっていつの間にか私は落っこちて穴の底にいた。
 ここからどうやって上に上がっていくのか分からなかった。助けての言い方も分からなくてひたすらずっと泣いていた。そんな風になったことがなかったから、こんなはずない、できるよ私、できるでしょって無理やりやろうとして、でもどうしてもできなくて。人に、これをやってね、とお願いされたこと、やりたいのになんにもできなくて、心が削れていった。ごめんなさいと謝ることしかできなくて、ごめんなさいを重ねていたら、「もう君のごめんなさいには価値がないし、謝らなくていいから仕事をして」と言われた。もうどうしようもなくなっていた。毎日泣くことしかできなかった。
 私は心配かけたくなくって、どうしても、大丈夫そうに笑って過ごしてしまっていた。だって周りにも限界の人ばかりだったから。最低限の仕事を必死にこなそうとして、結局中途半端だったけど、なんとか続けていた。限界なのに、他人を見ると優しくしたくなってしまうからつい手を出して、でも自分に余裕がないからいつも中途半端になって全然優しくなれなかった。優しくいられないなら、生きていたくなんてないのに、優しくなれなかった。ごめんなさいを積み重ね過ぎて削れた心は修復の仕方がもう分からなかった。
 私はもう人の迷惑にしかなれていない全然優しくない存在になってしまったんだと思って自分のことがどんどん嫌いになっていった。
 携帯が振動するたびに仕事の催促な気がして携帯に怯えていた。もう全部が怖かった。これから先をどうやって生きていくのかも、もう本当にわからなくて、落っこちた底から出られなかった。

 その時に見つけたミスiDの女の子がいた。その子は、「毎日死にたくて、今の自分は幸せじゃない。だから人を幸せにしたい」と言っていた。他人からしたら「だから」の意味がわからない人もいるだろうこの文章が、すとんと私の心に落ちて、わかる、と思った。
「自分の救い方が分からなくなってしまったから、人を笑顔にすることで、人からありがとうと言われることで、自分の存在を肯定してもらって、自分のことも救っていきたい」そういう意味だと思った。
 私は、「この子も落っこちたままずっと底にいるのかもしれない、底から上がろうとしているんだ」と思った。その子と自分を勝手に重ねて、その子が救われたら私も救われるかもしれないから、その子の応援を始めた。あんまり純粋な動機じゃなかったかもしれない。

 その子はとても頑張っていた。元々一般の大学生なのに、自撮りを上げたり配信をしたりしていた。
 私はミスiDの応援するのはその年が初めてでよく分からないながら地道に応援していた。その子についてのツイートを、私が何の気なしに呟いたら本人からリプが飛んできた。私は今までメジャーアイドルの応援しかしたことがなかったから、距離感に戸惑いつつ、すごく嬉しかった。その子が素直に喜んでくれたから。
 それから私はリプもちょくちょく送るようになって、その子がいいねをくれたり、リプ返をくれたりして、ありがとうと喜んでくれることで、救われていた。
 自分を保つために他者からの肯定が必要だったから、それをその子からもらっていた。自分のために、何も知らないその子を使っているようでずっと後ろめたかった。でも、その子とのやり取りだけがその時の私の救いだった。
 勝手にその子に依存していた応援だったけど、私がその子のこと好きな気持ちはいつだって本当だった。だってその子はやっぱり少し自分に似ていたから。その子を好きだなと思えるたびに自分のことも少しだけ許せた。

 その子にはいつも少し後ろめたかったから、せめて私の胸を覆いつくしていたマイナスな感情が少しもその子へ漏れていかないように気を付けて言葉を選んでいた。自分の中に残っている一番あったかい部分から生まれた言葉をなるべく優しい包みにいれてその子に渡していた。しんどい気持ちを隠しながら、でも嘘はないように、私のほんとの気持ちの、あったかいとこだけ切り取って張り付けた、つぎはぎだらけの、でもとても大切に作った私の言葉をその子はいつも受けとってくれた。喜んでくれた。嬉しかった。
 その時その子以外の全ての人にとって、自分はマイナスの存在でしかないと思っていたから、その子にとってだけはただただプラスの存在でいたかったんだと思う。

 死にたいと思ってるその子が、それでも頑張って、そして評価されて成長していくその姿は、何にもできなくなってしまった私にとってまぎれもなく希望だった。何にもできなくなってしまったけど、ここで終わらないで輝いていくこともできるのかもしれないと思えた。
 優しくいられなくて自分のことを嫌いになるばかりだった私は、助けてって最後まで誰にも、どうしても言えなかったけど、言えないままの私を助けてくれたのはその子だったんだ。でも、言っていないことばかりだから、その子は何も知らない。 

 その子に渡した言葉に嘘なんて一つもない。でも、言っていないこと、隠したことはたくさんある。自分で汚いと思った不純物はいつも完璧に取り除いていたから。少しでも漏れ出そうな話は何もしなかったから。
 会ったら何もごまかせなくなってしまうと思って、会いに行けたこともない。リプや手紙は送るし、その子の出るイベントに足も運ぶけど、ただ一方的に見つめて、接触には行かずに帰っている。
 その子に隠している自分がいることの後ろめたさがその子と真正面から見つめ合うことをできなくさせる。でも大好きなあの子にずっと後ろめたいのは嫌だから、全然楽しい話じゃないし、多分うまく伝えられないし、勝手で自己満足かもしれなくても、全部を話してありがとうって伝えたいと思っている。だってやっぱり会いたいから。真正面からちゃんと見つめ合ってみたいから。何も隠し事のないむきだしのお手紙を持って、会いに行く。想像しただけでちょっと怖いけど。
 あのタイミングであの時の私と出会ってくれたこと、本当に本当に救われていたのだということ、これ以上ないくらいのありがとうを抱きしめていつか会いに行く。私の言葉を好きだと言ってくれたあの子に。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?