生活保護不正受給の現実—私が見た「三重受給詐欺」
私がホームレスとして過ごしていた頃、たくさんの人たちと出会いました。その中には、生活保護を不正に受け取っている人もいました。ある女性の話が今でも忘れられません。彼女が「三重受給詐欺」をしていたことを知ったのは、ある時、同じ施設に住んでいた他の人から聞いた話でした。
顔を合わせることが多かった女性
その女性とは、最初は普通に接していました。彼女も私と同じように、保護施設に住んでいたんです。年齢は40代後半くらいで、見た目は派手というわけでもなく、普通の女性に見えました。最初は、ただ生活が困窮しているんだろうと思っていました。でも、しばらくしてから、何かが違うと感じるようになったんです。
彼女は時々、「あ、またあの市から支給されたよ」とか「次の市からもお金がもらえる」と、ぼやくことがありました。最初はあまり気に留めていなかったのですが、次第にその発言が気になり始めました。どうやら、彼女は複数の自治体を渡り歩き、それぞれで生活保護を受け取っていたのです。
「住所不定」状態を利用する手口
その後、私は彼女の生活を少しずつ知ることになりました。彼女は基本的に住所不定の状態で、保護施設を転々としていたんです。何か月か同じ場所にいると、次の市に移動して生活保護を申請し、またしばらくして別の場所に移るという感じです。彼女の住民票は、常に仮の住所があったので、どこにいるのか正確にはわからない状態が続いていたんです。
彼女が言うには、「今はこっちの自治体で生活保護をもらってるけど、また次はあっちで申請してみる」なんてことを言っていました。その時は、正直その意味がよくわからなかったけれど、後になって彼女のやっていたことが、完全に不正受給だったと知りました。
自治体のチェック体制の甘さ
その後、女性が再逮捕されることになり、その理由が「三重受給詐欺」だと知った時は本当に驚きました。彼女が複数の自治体で重複して生活保護を受け取っていたことが発覚したんです。その頃、私は自分も同じように支援を受けていたので、他人事ではありませんでした。
彼女が逮捕された理由の一つに、自治体のチェック体制が甘かったことが挙げられます。生活保護を受けるためには、基本的に住民票を移す必要があります。しかし、彼女は移動するたびに住民票を更新して、それを隠していたわけです。さらに、自治体側が定期的に「家庭訪問」を行うことになっているのですが、担当者が彼女の実態を確認しなかったことで、何度も不正受給を繰り返すことができたのです。
私はその時、どれほどチェックが甘かったのかを実感しました。もし、担当職員がきちんと実地調査をしていれば、こんな不正はすぐに見抜けたはずです。彼女のように保護施設を転々とすることが許されていたことが、ある意味怖いと感じました。
モラルの問題
その女性が不正を働いていた理由は、やはり金銭的な欲求が大きかったのでしょう。彼女は、ただ生活保護を受けるだけではなく、何度も申請してはお金をもらうことを繰り返していました。もちろん、生活が困難な状況で制度に頼ることは理解できます。しかし、彼女のようにそのシステムを悪用することが許される社会は問題だと思います。
後で他のホームレス仲間から聞いた話では、彼女は生活保護をもらった後、他の街で遊び歩いたりしていたそうです。その時、私は自分がもらっていた支援の意味について考えさせられました。本当に必要な人に支援が届くべきなのに、こうした不正があると、その支援が必要な人々に届きにくくなってしまうのです。
今思うこと
あの女性が逮捕されたとき、私はその現実に衝撃を受けました。私も生活保護を受けていた一人として、制度の中に潜む問題を目の当たりにしたからです。彼女のような不正受給がある限り、生活保護のシステムは信頼を失い、真に必要としている人々が不利益を被ることになります。
制度が改善されることを願いつつ、私たちがもっと強く、しっかりと支援の手を必要としている人々に届くよう、社会全体で意識を高めていく必要があると痛感しました。