レストランの起源(by AIR)


国際レストラン学会(AIR) 豆知識

レストランの起源については、白水社刊「フランス食の事典」に詳しく解説されています。
この内容はフランスの「ラルース・ガストロノミック」という権威ある事典の記載などを参照していますので、ここでざっくり要約しておきます。

「レストランとは、はじめ滋養に富んだスープを意味した。
その起源はフランス革命より24年前の1765年に遡る。
当時パリのプーリ通り4番(現在のルーブル通り11番)にブーランジェという人物が営んでいた店では、客に供したスープは元気を回復させるという意味で「レストラン」という名が付けられていた。
やがて、「レストラン」とは、「レストランを供する施設」そのものを指す言葉として使われるようになった。
当時、飲食業界はギルドの協定に支配されていた。
ブーランジェ氏の営む店は居酒屋の形態で、ワインを売って客に飲ませても、自前の料理を創って客に提供することは許されていなかった。
料理を出すには仕出し屋、焼き肉屋、豚肉加工店などから出来上がった料理を調達しなければならなかった。しかしブーランジェの店では自前の料理を客に提供したとして、告発された。
が、ブーランジェは、ギルド制に真っ向から闘い挑んだ。
この一件が、後に政令を変え、他の店から調達しなくともすべて自前の料理を客に出せる形態の店を認めさせるに至った。
その新業態をブーランジェ氏のスープの名にちなんで「レストラン」と呼ぶようになったのである。
折しも革命期、貴族お抱えの料理人達は、パトロンを失い、レストラン業で自立の道を模索していったのである。

さて、レストランの起源に関わる伝説のブーランジェという人物は、食文化史において、ほとんど素性が明らかにされていませんでした。
ブーランジェとはフランス語でパン屋という意味ですが、しかし、彼がパン屋であったという説はありません。
別名シャン・ドワゾーとも呼ばれた謎めいた人物でした。
ところが、ロンドンの大学で教鞭をとる歴史家レベッカ・L・スパング女史の2000年に発表された大研究によって、伝説の人物として語られたブーランジェは、マチュラン・ローズ・ド・シャントワゾーという事業家であったことが明らかになりました。
彼はフォンテンブロー郊外シャントワゾー村の商家出身で、貴族ではありませんが、出身の村名をとってド・シャントワゾーと名乗り、パリに出て、幾多の投機的事業を企てたもののあまり成功せず、ほとんど無一文となって他界したという経歴の持ち主でした。
ただレストラン事業は匿名で行っていたため、これまで食文化史に名前が出ることはなかったのだと女史は指摘します。
スパング女史の著書は和訳もあり、読み応えのあるアカデミックな大作です。

もっとも、従来のフランス食文化史にちらちらと影を見せながら正体不明であったブーランジェ氏の伝説も、それはそれで魅力があり、風化させたくない物語として語り継ぐ楽しさがあります。
前近代的制度に疑問を持ち、エスプリのきいた哲学者であり、反骨精神の持ち主。

脚本家であるさらだたまことしては、彼をモデルに、このレストラン起源の伝説を、書き下ろしオペレッタの形で、物語として味わい深い作品にしたいと目論んでおります。

せっかくの国際レストラン学会ですからディナーショーとして企画して
我らが学会のヒットコンテンツにしたいものです。

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