ミステリ界の問題作との出会い

ポアロシリーズ3作目アクロイド殺し。
この作品の性質上何を書いてもネタバレが避けられないため、以下ネタバレを含みます。

この作品はフェアかアンフェアかでミステリーファンの中でも大論争が起こったらしい。たしかにミステリー作品としてはかなり異質(今では珍しくないのかもしれない)ではある。
私自身もこの作品をフェアかアンフェアか判断することがこの作品の感想を書く上で必要なことだと思う。しかし私にはできそうにない。
何故なら私はそれを判断できるような模範的な読み方をしていない。はー、とかほぉとか思いながらストーリーに流され、真犯人が言い当てられる数行前に初めて気づくというなんとも素朴な読み方をしている。ただ、この作品に限ったことではないが読書という枠組みの中で、メモをとりながら犯人が誰かを推理して作者と謎解き勝負をしようという気にはどうしてもなれない。私はどこまでも純粋で従順な読者でいたいと思ってしまう。
そういうわけで私はこの作品がフェアかどうか判断をくだすことが難しい。強いていうなら「アリ」だと思う。難しいことは他の人に任せて読んでいて満足感があったのでこれはこれで「アリ」。というところからスタートしたい。



前述した通りこれはポアロシリーズの3作品目。私は前作のゴルフ場殺人事件でポアロとヘイスティングスのコンビが大好きになったので当然今回も2人のコミカルなやりとりを期待して読み始めた。

あの、ヘイスティングスは何処に?

…ポアロの大事なモナミはいつのまにか南米に行ってしまっていた。何ということか。序盤から寂しさを抱えて読み進めることになるとは思わなかった。ポアロだって何度もヘイスティングスがいないことを嘆いているというのにどうして彼は事実上クビになったのか…と考えていたが、ヘイスティングスでは成立しなかった理由は最後に明かされる。これは「語り手がヘイスティングスではあってはならなかったから」ということに尽きるが、この1番初めに感じた違和感こそが全てだったわけで。脳のよくできた機能によって勝手に補完されてしまい見事にそういうものだと思い込んでしまった。

思い返せば違和感は至る所にあった。妙に冷静な今回のワトソンことシェパード医師の手記。彼の言葉にはポアロが指摘する様に主観がとても少ない。そしてポアロが何度も繰り返すように言う、隠していることを話して欲しいというセリフ。これはアガサ自身が読者に隠しているトリックの暗示のようにも思える。なんだか容疑者は皆怪しすぎて容疑者らしくないし何か他にも隠されていることがあるんじゃないの?とアガサに問いかけたくなるような場面が何度かあった。こういう小さな違和感をしっかりとキャッチできる人であれば今回の犯人は見抜くことができるのかもしれない。それくらい情報は隠されることなく提示されていたと思う。

そしてこの作品の重要人物のキャロラインについて(キャロラインがマープルのモデルと聞いて個人的な感動があったのは置いておくとして)。私は彼女のようなよくわからないけど直感だけで生きていけてしまう人が少し苦手である。チャーミングなのはよくわかるけどなんとなく不躾な感じがしてしまう。しかし彼女は直感だけで生きているわけではなく情報から無意識に体系付けて考えているんだろうと分かると少し見え方が変わってくる。
彼女はどこかのタイミングで真実にたどり着いていたのではないかと思うと少し苦しい。そして最後に彼が取った行動を彼女はどう理解するのか。少なくともこの作品が世に出ている(ちょっとややこしい表現ではあるが)以上彼女は彼に残された逃げ道のほうではなく真実を知っているということだろう。ポアロならば優しい嘘より真実を望むだろうけど彼女はどうなのか…

後味は決して気持ち良さだけではないものの個人的には好きな作品だった。さて、次はネットで評判を調べると多くの人が『荒唐無稽』だと書いている「ビッグ4」。今度こそヘイスティングスに会いたいけど会えるのかしら…
どうやら私はポアロと同じくらいヘイスティングスのことが好きになってしまったらしい。カボチャを育てるポアロも可愛いが、そのそばにはいつもヘイスティングスがいて欲しい。

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