淀みながら話せる人は、水の味も忘れません【ミリの妄想日報】
久々の食事会の席の隣に座ったその人は、まるで蛇口から流れる水のように、言葉をサラサラと吐き出していた。
最近、好きな歌人・穂村弘さんを追っていたら、「鈴木ジェロニモ」さんというお笑い芸人に出会った。彼の「水の味」を説明するネタはとにかく斬新で、不思議な余韻が残る。
「舌の両サイドが味を探してる」「重たい」「口の形に一回なってなくなる」「噛むと逃げる」「行ったっきり」「記憶で味わっている」」――彼はそんな短いフレーズを静かに、リズムよく放ちながら、ひたすら水道水の味を語り続ける。私は、YouTubeでそのジェロニモ氏の動画をただぼんやりと眺めていた。
私は追加で「ミネラルウォーター」を注文した。
「木川田さん、最近忙しいの?」
隣人がなめらかプリンみたいな顔で問いかけるので、私はいつの間にか閉じていた網戸越しに、かすかに聞こえる音量で「ええ、まあ」と返事をする。
その時私は水を味わっていた。そこにいる誰よりも味わって、噛んでいた。なくなった形を追いかけては沈み、記憶の奥を探った。この味は、ずっとずっと忘れないと思った。
「PARK GALLERY」で連載していた過去のエッセイ読めます↓↓
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?