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タイの目指すものこそ“サステイナブル・ツーリズム”

今週バンコクポストは立て続けに観光関連ニュースを流しています。昨日日本が発表したトラベルバブルによる出入国制限の緩和もそうですが、最近の論調は国内観光を重視し、国際観光(インバウンド)には消極的なものが多いです。

「タイ、マスツーリズムから豊かな旅行への回帰」

タイ政府はコロナ時代における観光再興戦略として、大量送客よりもプライバシーやソーシャルディスタンスを重視したゆとりのある層への旅行を望むという記事が出ました。

観光大臣であるピパット・ラチャキットプラカーン氏は、これまで中国人の団体ツアーやバックパッカー頼みだった旅客層のターゲットをこの際リセットし、最小限の感染リスクで休暇を楽しみたいゆとりのある個人客層を誘致する良いチャンスであると、ブルームバーグとのインタビューで述べたということです。

ハイエンドの旅行者をターゲットにし、ゆったりした旅行を提供しようということですが、もともとタイにはハイエンド向けの宿泊施設などが十分備わっていると思っていましたから、そこまで偏った構成にする必要があるのか分かりません。
ただタイに限らず感染者を外から持ち込みたくないという国は多いでしょうし、日本のように感染をゼロにできない国から旅行者を受け入れるということはそれだけで感染リスクがありますので、タイのような入国者数も乗継客数も多い国では、数をしぼるしかないということでしょうか。

またミャンマーでも、中国からのゼロツアーをやめさせるような報道がありましたし、団体ツアーはしばらく表立ってできなくなるかもしれませんね。現地直販の旅行会社としてはどちらでもあまり変わらないのですが、混載ができないということになると、それで成り立っていた半日ツアーとか1日ツアーのオプショナルツアー、アクティビティ系サイトの会社は難しくなるかもしれませんね。それ以前にあれは担当ガイドの負担が大きかったので、もう限界だったと思いますが。

いずれにしても個人旅行が主流になって、しかもケアが以前にも増して必要となりますので、旅行代金が多少高くなっても良いというお客さんは当然来るでしょうし、代理店さんにとっても安くなるよりは良いのではないでしょうか?

さて、この記事では後半気になることが書いてありまして、新型コロナの影響で観光客が激減してから、タイのビーチにウミガメが産卵に訪れたり、稀少なピンクイルカが漁師に近づいてきたり、マナティーが海藻を食べながら寛いでいる姿が目撃されるようになったというのです。

これは、世界中で見られるようになった光景ですが、人が出歩かなくなったので環境汚染の改善が一気に進み、動物も多くみられるようになりました。人間がいかに地球を汚していたか、そして動物の生息域を侵害していたか、さらには人間がおとなしくしていると、あっという間に回復するんだということが皮肉にも認識されました。

私はこれこそが真のサステイナブル・ツーリズムだと思っています。
どんなにきれいごとを並べても、我々はやはり経済活動を優先してしまいますが、突き詰めて言ってしまうと、観光業でいえば販売数(手配数)を減らすということになると思います。
ボラカイ島の水質汚濁の悪化が深刻だというのでドゥテルテ大統領が閉島しましたが、閉鎖すると経済への影響が甚大だと観光業界は猛反対しました。結果的に強行しましたが、あれがサステイナブル(持続可能)な観点ですね。タイでもピピ島を閉鎖しましたが、まさにそういう時代なのかもしれません。

私はバガン遺跡が世界遺産に再申請するという時に、いっそのことヨーロッパの小さな町やセーシェル島のように入域制限すればいい、そして域内は自家用車での進入禁止、徒歩か観光用コースターのみと言ったことがあります。バガンは、最後に登録される“本命”の世界遺産なのだから、そういう思い切ったことができる最初で最後のチャンスだと思ったんです。まあこれまでの世界遺産というのは、実質観光収入を期待して登録することが多いので、そのようなことを言っても誰も聞いてはくれませんでしたが。

ところで、中国でずいぶん前、西安の兵馬俑坑の近くに秦の始皇帝陵と比定される場所での発掘作業中、多量の水銀が発見されます。司馬遷の書いた「史記」には、始皇帝陵の地中には水銀でできた大規模な川がはり巡らされていて、その川は循環している。という記述があり、長い間ただの伝説だと思われていたことがほぼ史実であったことが確認されました。
ところが中国政府は歴史上の大発見にも関わらず、調査をここで中断してしまいます。なぜかというと、現在の発掘および保存技術では水銀の川が出てきてもどうすることもできない。貴重な文化遺産を壊してしまうことにつながりかねない。だからこれ以上続けないというのです。
私はこれを聞いてびっくりして残念に思いましたが、これこそがサステイナブル・ツーリズムということで、つまりは観光資源の保全、この1点に尽きると思うのです。好奇心に駆られても「何もしない」という英断も必要なんだと思います。

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